惑星開拓プロジェクト🌟新隊員ミノリの大変がいっぱい日記

竹神チエ

第1話 日記を書くことにした

 マロンさんのマネをしてブログを始めようかなと思ったけど、まだ訓練生だからやめておく。正隊員試験で不合格になるかもしれないから。

 もしも無事に合格して正隊員になれたら「サザンクロス新人探査隊員ミノリの冒険記録」ってタイトルでやってみたらおもしろいかも。

 というわけで、今日から書くのは日記。

 セキヤおじさんもノートに隊員生活について書いていたから、それと同じだ。

 おじさんだって、自分が見るためだけに日記として書いていたと思うんだ。まさか任務中に失踪して、そのあとパパやママ、姪のわたしにまで読まれるなんて想像してなかっただろうな。

 でもおじさんが残してくれたノートは、わたしにとって宝物。一文字一文字がキラキラして見えるんだ。おじさんがくり返し書いている言葉。

『無茶しない、あせらない、冷静さが大事!』

 わたしもこの言葉を胸に、立派なサザンクロス隊員になれるようがんばる。


★★☆

 今日は二学期の始業式だったけど、一生に一度の新入隊員試験の合格発表の日でもあったから、心臓バクバクで朝起きた。人生がかかっている日なのだ。

 サザンクロス探査隊の存在を知ってからずっと入りたかった。その夢がかなうかどうか、今日で決まる。探査隊にあこがれない子は、今まで見たことがない。だから全国の小学六年生が、今日は死にそうになりながら結果を待っていたと思う。


「それでは、今年度のサザンクロス新入隊員試験の合格者を発表する。名前を呼ばれた児童は前に出るように」


 体育館の檀上でマイクをにぎっているのは先生じゃなく、パパより少し若いくらいの男の人。ジャンパーにワークパンツってカジュアルな服装だけど、背中に大きく、それから左胸あたりに小さく、そして腕章にあのマークが入っている。金色のメビウスの輪。子供服や文房具についているなんちゃっての偽物じゃない。惑星ムゲン開拓プロジェクトチームの一員である証、本物のシンボルマークだ。


 男の人は、タブレット画面を見ながらマイクで合格者の名前を読みあげる。画面に表示してあるのは合格者名簿だろう。

 あいうえお順だから、唯島ゆいしまが苗字のわたしは、合格していても呼ばれるのは最後のほうだとわかっていた。でも次々呼ばれていく同級生たちを見ているとあせってきて気絶するかと思った。体育館は暑かったし、低学年の子も残っていたのに全員しずかにしていて空気が張り詰めていた。それだけでも、めまいがするくらい緊張するってのに、わたしはなかなか呼ばれない! だから合格できて安心した。

「唯島ミノリさん」

「はい!」

 わたしはサザンクロス45期生の合格者。もしもサザンクロス探査隊員になれなかったら一生泣いて暗い人生を送ったと思う。救われた。わたしの人生輝いてる!!


 だけどママは家を出る時、「わたしは不合格だったのよ。でもそういう人の方が多いんだから、落ちてもまっすぐ家に帰って来てね」と言っていた。

 きっとわたしが試験に落ちてもがっかりしないよう予防してくれたんだ。それでも、わたしは絶対絶対、試験に合格したかった。

 パパとセキヤおじさんもサザンクロス探査隊員だった。親子で探査隊員の人ってどれくらいいるんだろう。子どもにしかできない仕事をするサザンクロス探査隊。試験も小学六年生の時の一度きりしか受けられない。わたしはそのチャンスをつかんだんだ。


 だけどさっそく合格発表のあとあった入隊説明会で、残念なことを知ってしまった。わたしは合格者六人中、最下位だったらしい。一位はリナちゃん。これは納得。でもわたしが最下位なのはショックだ。ギリギリ合格だなんて不安。

 今のわたしは正隊員じゃない。まだ訓練生。もしかしたら訓練生が限界かも。

 それでもあさってからは寮に入って、そっちで生活する。学校も転校だ。ママはさみしそうにしていた。でも週末には帰って来るから、安心してほしいな。


★★☆

 入隊する前に髪を切ろうと思う。耳が出るショートカットが良い。今まで切ったことがないくらい短くしてカッコいい系女子になりたいんだ。

 だから美容室はいつものところじゃなくて、もうちょっとおしゃれなところに行きたいな。ママのともだちがやっているお店は入りやすいけど、いつもイメージとちがう髪型にされちゃうから。


★★☆

 もしかしたらわたしが失踪したあと、わたしの姪がこのノートを読むかもしれないから、その子のためにメッセージを書いておく。わたしは一人っ子だけど、もしかしたらママがまた子どもを産むかもしれないもの。


 あなたもサザンクロス探査隊員になりたいですか?

 わたしはずっとそうなりたいと思っていたよ。そうじゃない人生なんてイヤ。


 惑星ムゲンはとっても広いから、未踏の地がまだまだあるし、謎もたくさんあるし、モンスターも出る。だから、セキヤおじさんみたいに任務中、失踪するかもしれない。

 でも探査隊の仕事は楽しそうだ。わたしは冒険がしたい。大人たちのために、空気を浄化して住めるようにしてあげるんだ。

 下の階に住んでいるチワワのおばちゃんは、(おばちゃんがチワワなんじゃないよ、チワワを飼ってるおばちゃんだよ)老後は惑星ムゲンで暮らしたいって話していた。おばちゃんが住む場所をわたしが開拓して浄化してあげたらステキだと思わない?

 もしもあなたがサザンクロス探査隊員になりたいんだったら、わたしは応援するよ。


 でもその前に、わたしが訓練生を卒業して正隊員試験に合格しないとね。

 がんばれミノリ、がんばれミノリ! わたしなら出来るぞ!!


★★☆

 マロンさんからメールが来た!

「合格おめでとう。サザンクロスで会おう!」

 だって!!!!

 まだ合格しましたって報告はしてなかったんだけど、チワワのおばちゃんといっしょで、公式発表の一覧でわたしの名前を見つけたのかな。気にかけてくれてたなんてうれしい!! マロンさんって、やっぱりステキ、やさしい!! 大好き!!!


 ブログのプロフィールによるとマロンさんはわたしと同じ地区ブロックに所属している。だから寮に入ったら会えるかもしれない。どうしよう。緊張する!! だけど、マロンさんって顔出ししてないから、すぐにはわからないかも。でも43期生だから二歳年上で、スイーツが好きで、とっっっても優秀な隊員なのは知ってるんだ。

 マロンさんのアイコンは、バレリーナのチュチュをつけたリス。今日来たメールにもスタンプがついてて、リスがくるくる踊っていた。かわいい!!

 あっ、すごいことに気づいた。これからはマロンさんのこと先輩って呼べるんだ。

 マロン先輩! まだ訓練生ですけど、よろしくお願いします!!!


★★☆

 髪切った。ショートカット。でもいつもの美容院に行った。

 本当はもっとカッコいい系にしたかったのに、出来上がったのはマッシュルームみたいなやつ。すごくはずかしい。だけど仕方ない。あきらめる。笑われてもくじけないぞ。

 ミノリは強く生きて、勇敢なサザンクロス隊員になるのです!


★★☆

 ママは夜、わんわん泣いた。明日わたしが家を出るから。

 わたし、まだ訓練生だよ? それに週末にはちゃんと帰って来るのに。

 でもママのおにいさん、セキヤおじさんは惑星ムゲンに行って失踪したから、わたしもそうなったら、って不安になったのかもしれない。

 でもずっと前からサザンクロス探査隊を悪く思っていたのはパパのほう。ママは応援してくれたはずなんだけどな。

 パパはサザンクロス探査隊反対派。自分だって探査隊員だったくせにね。きっと親友のセキヤおじさんが失踪したせいで考えがかわったんだと思う。

 今のパパは「開拓プロジェクトは大人だけやるべきだ、子どもの手を借りるなんて虐待だ!」って言っている。

 でもわたしが夢を追うのは反対しなかった。子どもは誰だってサザンクロス探査隊にあこがれるものだから。だからわたしとパパは仲良し。もちろんママとも。


★★☆

 誰にも話してないけど、ひそかに考えていることがある。

 サザンクロス探査隊に入ったら、セキヤおじさんの情報が手に入るかもしれない。どうして失踪したのか、わかるかも。

 隊員の失踪について、ネットや図書館で調べたことは何回もある。

 でもセキヤおじさんの事件だけじゃなく、その他の記録でも、任務中ケガをした人数は書いてあっても失踪者はゼロになっていた。

 隠ぺいしているのかもね。開拓プロジェクトは続けないといけないものだから。

 そういうこともあってパパは反対派だけど、わたしは冒険がしたいからサザンクロスがなくなるのはイヤ。

 それに悪いところは、内部から改革したほうが早いと思う。わたしが優秀な隊員になって、力をつけて、それから大人になって除隊したあともプロジェクトチームに残って働いたら、何か変えられるかもしれない。

 わたしはそんな野望をいだいているのだ。えっへん!


★★☆

 ママはただわたしが家を出るのがさみしいだけみたい。

 今度帰って来る時は何かおみやげを買ってきたらよろこぶかな。寮がある地区本部は都市部にあるから、オシャレなケーキを買ってきてあげよう。そのためにも寮生活では、むだづかいしないよう気をつけよう。

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