一五章 火あぶりならあたしを!
「
場所は王立
いったい、あれからなにが起きたのか。
あたしはいまだにわかっていない。とにかく、おモチを落とした女の子と、そのお母さんが
その間、三〇分と立っていない。それなのに、黒ずくめの服を着た
あたしはと言えば、なにがなんだかわからないまま、気がついてみると
あたしの隣にはもちろん、ブリオッシュ兄さま。多分、あたしが
女の子の名前はキイナ。お母さんはダ・イズー。ふたりはかわいそうに、真ん中の
ちょっとお! なにがあったか知らないけど、キイナってまだ七、八歳じゃない! そんな子供を
「姫があたりかまわず走りまわって、あの子にぶつかったせいですけどね」と、兄さま。
うっ、たしかに。あたしがぶつかったせいでキイナはおモチを落としてしまい、そのためにこんなことになっている。つまり……悪いのはみんな、あたし?
でも、それとこれとは話が別でしょ! あんな小さな女の子を
お
そう思っていたのに、こんな
「
「
「はい。あたしは、おモチを、床に、落として、しまいました」
キイナは『あたしは』、『おモチを』って一語いちご、区切るように答えた。必死に涙をこらえながらそう答える姿に、あたしの胸はズキズキ痛む。
「ひとつのモチができあがるまでにどれほどの人々の汗が流されているか。モチ王国の国民であるからには、たとえ子供と言えど知らないはずはありませんね?」
「……はい」と、キイナ。
「農家の方が一粒ひとつぶ
「……はい」
「である以上、私たちはおモチを扱うときには人々の汗に感謝し、最大級の敬意をもって取り扱わなくてはなりません。それを
「……はい」
「よろしい。罪には罰を。当法廷としては、あなたには規定通りの罰を与えなくてはなりません。ですが、さすがに七歳の子供に刑を科すのは
それと聞いてあたしはホッとした。よかった。この国にも常識はあるみたい。お説教ぐらいですみそうだ。ところが、
「よって、
えええっ~、なにそれ⁉
つまり、キイナのかわりにお母さんがひどい目にあわされるってこと⁉
「……はい」
って、お母さんは静かにうなずいた。その表情がまるで、すべてを受け入れた
「では、判決を申し渡します」
えええっ~⁉ もう判決?
ちょっとまってよ。
あたしは胸のなかで叫んだけど、その場に居並ぶ
「つまり、モチ王国において、モチを落とすということは、それだけ重罪と言うことだ」と、兄さま。
「
「そんなの、許されるの⁉ わざと落としたわけでもないって言うのに……」
「忘れたか、バゲット? どんな法を作るかは王国の権利。そして、その法がいいと思った城が、その王国と
そ、それはそうだけど……。
「では、判決を申し渡します」
ゴクリ、と、あたしは
「規定通り、
火あぶりィッ⁉
あたしは飛びあがって叫ぶところだった。
火あぶり? 火あぶりって、ちょっと! いくらなんでも大げさすぎでしょ! なんだって、おモチ一個、床に落としただけでそんな目にあわなきゃならないのよ!
……って、モチ王国に来るまでのあたしだったら、後先考えずに飛び込んでとめていた。でも、あたしだってここにくるまでに経験をつんでいる。
ふ、ふん。もうだまされないわよ。ササヒカリ村での『村娘を連れて行く』って言うのは、おコメを町まて運ぶっていう意味だった。アンコロ町での『戦争』はモチ食わせ大会のことだった。
そう。ここは、そういう国。いちいち言い方が大げさなのよ。この『火あぶり』だってきっと、なにか別の意味があるんだわ。そうよ、そうに決まっている。だから、みんな、文句も言わずに……。
ワッ! って、火のついたような声がした。キイナがお母さんにしがみつき、大声で泣き叫んでいた。
パアン! と、音がした。
「火あぶり大王」
『火あぶり大王』と呼ばれた男はもう一度『がははははっ!』って大きくて下品な声で笑って見せた。笑い声にふさわしい雲をつくような大男。あのにぎり山でさえ、この男の前では子ジカに思える。それほどの大男。そして、筋肉ダルマ。しかも、その両手には――。
ゴウゴウと燃えさかる火のついたたいまつをもっている!
「判決は出たようだな、
「むろんだ、火あぶり大王。
「けっこう。この火あぶり大王、きっちりケリをつけてやるぜ」
火あぶり大王がズイッと火のついたたいまつをお母さんの方に突き出した。キイナが恐怖のあまり泣きわめき、必死に抱きしめるお母さんも顔中、まっしろ。
……これって、もしかして本当に?
ううん、そんなことない。ない……はずだよね?
「まってください!」
あたしは
「火あぶりの刑はあたしが受けます!」
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