一一章 こうすればいいんだ!

 「協力してください!」

 あたしのその叫びに――。

 ズンダ博士は長いひげをなでつけながら答えた。

 「ふむ。もとより、わしもあんなくだらない戦争には反対じゃ。協力するにはやぶさかではない。しかし、なぜ、よそ者であるおぬしがそこまでするのかね?」

 「よそ者とか関係ありません! 戦争は人類すべてにとっての敵! そんなことを起こしちゃいけないんです」

 「ふむ。なるほど。青臭いがなかなかにいい答えじゃ。よかろう。協力するとしよう」

 「ありがとうございます!」

 あたしは飛びあがって頭をさげた。

 ん? 奇妙な表現だって思った? 実は、これ、あたしの密かな特技だったりする。本当に飛びあがりながら頭をさげるから、相手を驚かせちゃうのよね。もう子供じゃないんだからいい加減やめないとと思ってるんだけど……気を抜くとついついでちゃう。

 「ところで、ズンダ博士」って、兄さま。

 「この戦争の原因は、そもそもなんなのです?」

 ああ、それそれ。それが問題よね。どんな理由か知らないけど、その理由さえ解決できれば戦争なんてしなくてすむのよね? その理由をちゃんと聞いておかなくちゃ。

 「ああ、戦争の理由か。ふん、くだらぬことじゃよ」

 「くだらぬこと?」

 「さよう。町の真ん中を川が流れておるじゃろう」

 「はい」

 「あの川の水の使い方でいがみ合っての。それ以来、戦争がつづいておる」

 「なるほど。水争いですか」

 って、兄さま。納得顔でうなずいている。

 「利水りすいは国家の死命しめいを制する問題。水の使い方で争いが起きるのはよくあることだ」

 「それってつまり、水の使い方さえ解決できれば、戦争しなくてすむってことですか?」

 「まあ、そう言うことになるかな。じゃが、無理じゃむりじゃ。その点に関しては、世界一の碩学せきがくであるこのわしでさえ解決できなかったんじゃからな。ま、世界の誰も解決できんじゃろうて」

 「チッチッチッ」

 と、ズンダ博士の『世界一』という言葉に反応して返ってくるいつもの舌打ちの音。

 うわっ、出た。兄さま、お得意のポーズ。

 「あいにくですが、ズンダ博士。あなたは世界で二番目だ」

 「なんじゃと⁉ では、一番は誰じゃと言うんじゃ⁉」

 「もちろん、この……」

 って、兄さまは自信たっぷりに指さした。

 「パン王国王女バゲット姫です」

 またかい⁉

 「なんじゃと⁉ この娘っ子がわし以上の碩学せきがくだと申すか⁉」

 言ってない、あたしはそんなこと言ってない!

 「よかろう。己こそ世界一と名乗るなら、それを証明してみせい。この水戦争を解決してみせよ」

 だから、あたしは名乗ってません!

 「もちろん。真なる世界一の知恵。とくと照覧しょうらんあれ」

 って、兄さま。だから、なんで兄さまがそんな自信満々にうけおうのよ⁉

 「大丈夫だ。お前にはこれがある」

 って、兄さまは自分のメガネを外してあたしにかけた。その途端――。

 謎のチート能力が発動し、あたしの脳細胞は一気に活性化した。それはもう、活性化しすぎて熱に駆られて踊り出すかと思ったほど。脳内を巡る血が沸騰ふっとうし、電気信号がパニックを起こして縦横無尽に駆け巡る。

 ああ、なにこれ、すごい! もうメチャクチャ! 気が狂ったみたいに踊り出しちゃいそう!

 光が吹っ飛び、光の粉をまき散らし、モザイクを形作る。そのなかで、ひとつのアイディアが閃いた。

 そうだ!

 こうすればいいんだ!

 こうすれば、水の使い方は解決する。戦争なんかしなくていいんだ!

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