第二部 いざ、大相撲!
四章 乙女のピンチだ、起ちあがれ!
「がははははっ! これで、この村の娘どもはすべておれのものだ!」
むむ。空気をつんざいて響き渡る、このいかにもな悪者ヴォイスは……。
場所はモチ王国のはしっこ、ササヒカリ村。パン王国とモチ王国の境にあって、パン王国からは一番近い場所にあるモチ王国と
空は深く晴れ渡り、白い雲がポッカリ浮かぶ。そのなかをスズメたちが舞っている。辺り一面のどかな田園風景が広がり、
聞いた途端、無駄に筋トレ
いったい、何事が起きているのかはわからないけど、善良な村人相手に大男で、がさつで、筋肉ダルマの悪者が乱暴を働いている。それだけははっきりわかる。
これは、捨て置けない。いくら、
「行くわよ、兄さま! 村の人たちを助けなきゃ!」
「なんで?」
「困っている人がいたら助けるの、当たり前でしょ!」
あたしが言うと、兄さまは首を振りふりボヤいて見せた。
「……いやがるのを無理やりやらせるのが楽しいのに。自分からやる気になられては、おれの楽しみが」
だから、あんたの楽しみなんて知るか!
あたしは兄さまを放っておいて、声のした方へと駆けつける。
兄さまがついてきているかどうかなんて全然、気にしなかった。一度だって振り返ったりはしなかった。だって、あたしは知っている。兄さまはいつでも、必ず、あたしの側にいるって言うことを。
やってきたのは村の中央広場。そこには大勢の人が集まっていた。広場の真ん中に作られた
「がははははっ!」
例の悪者ヴォイスが響き渡る。
見てみると、
背中にベッタリ砂がついているところを見ると、思いきりぶん投げられて背中から叩きつけられ、それでも、どうにか起きあがったところらしい。でも、これが
そのおじさんの前に
これがまた、声から想像できる通りの筋肉ダルマで、ツルッパゲ。体中に張りついた筋肉は気持ち悪いぐらい発達しているし、髪の毛一本ないツルツルの頭は日の光を浴びてギラギラ光っている。その様子がいかにもいやらしい。
あたしは一目見て、この筋肉ダルマをきらいになることに決めた。
「がははははっ。さあ、この村の娘どもをすべてよこせ! わずかたりとも隠そうなんて思うなよ。
えええっ⁉ なによ、その
気がついてみれば、
あの女の子たちが、あの筋肉ダルマに連れて行かれちゃうってこと⁉
「ふむ」
と、いつの間にか、あたしの横に立っている兄さまが、いつも通りの冷静な口調でつぶやいた。ほらね。兄さまはやっぱり、絶対、必ず、あたしの側にいる。
兄さまは研究者口調でつぶやいた。
「この場に集まっている人数はざっと八〇〇人。しかも、おとなだけでなく、子供から年寄り、親に抱かれた赤ん坊までいる。この村の規模からして、ほぼ全員が集まっていることになるな」
村人のほぼ全員。つまり、それだけ重大な出来事ってことね。当たり前か。村の女の子たちの運命がかかっているんだから。
「やい、村長! さっさと娘どもを連れて行く準備をしろ! わかってるな。こいつはこの国の
「む、むうう……」
と、おじいちゃん――この村の村長さん――が、うめき声をあげた。だめだよ、村長さん! そんなやつの言うことを聞いちゃだめ!
「……仕方ない。むすび丸まで負けたとあっては、この村にはもう、おぬしに
ちょっとおっ!
あたしは心のなかで叫んだ。同時にその場に向かって飛び出した。思いきり背伸びしてどなりつけた。村長さんに向かって。
「ちょっと、村長さん! どういうことですか! なんで、あんな男の言いなりになるんですか」
「な、なんじゃ……?」
村長さんは、いきなり飛びだしてきた女の子に目を白黒。まわりの人たちも悲しむのも忘れて一瞬、あっけにとられたみたい。すすり泣く声が途端に消えた。
「これは失礼しました、村長どの」
って、やっぱり、あたしの隣にしっかり立っている兄さまが
「こちらにおわすはパン王国第一王女にして次期女王陛下であらせられるバゲット姫。私は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます