第一章 再会
何の変わりもない退屈な時間がいつものように過ぎていった。
キッチンに立ち、ぼんやりと夕飯のハンバーグを作りながら、私は、開いてるキッチンの窓から外を見つめていた。
外と言っても、アパートの通路側にあるキッチンの窓。
見えるのは、白いコンクリートの通路と、それを囲む鉄の柵。
「はぁー……。」
深い溜息をついた私は、キッチンの窓から、ひょっこりと出た顔に驚き、手に持っていたミンチを落とした。
「何、暗い溜息ついてるの?」
顔を出したのは、勇気だった。
「ベ、別に……。」
呟き、ボールの中に落ちたミンチを手に取り、形を作る私。
「さっきは、ごめんね。」
「別に……いいけど。」
素っ気なく応えた私に、勇気は、少し苦笑いをした。
「今日は、ハンバーグなんだ〜。いいなー。夏樹の料理を食べれる旦那さんが羨ましい。」
微笑みながら、そう言った勇気をチラリと見ると、私は、小さく応えた。
「旦那さんなんて、いないわよ。」
「そうなの?そんなに沢山作ってるから、結婚してるのかと思った。」
「えっ?」
勇気に言われ、私は、お皿の上を見た。
ぼんやりしてたから、作り過ぎたみたい。
「あっ!そうか。彼氏が食べに来るんだね。」
「彼氏もいません!これは、明日も食べるの!」
私は、怒鳴るように言うと、キッチンの窓を閉めようとした。
勇気は、それを止め、真剣な顔で、こう言った。
「話があるんだ。……あの時の事……怒ってるんでしょ?急に居なくなったから……。」
「そんな昔の事、もう覚えてないわよ!」
「嘘つき。俺の顔を見て、すぐに勇気だって、分かったじゃない。」
じっと見つめる勇気から、目をそらし、私は、言った。
「嘘つきは、どっちよ。私の事を守るって言ったクセに。」
「あの気持ちは、本当だよ。今だって、そう思っている。だから、その時の事も話したいんだ。」
何なの、この真剣な顔は?
今更、話を聞いたからって、何だというの?
「もう……嘘は沢山!私は、もう……あの時の私じゃないの!帰って!」
「帰ってと言われても、俺の部屋、隣だし。204号室。……でも、嫌われてるみたいだから、帰るよ。」
そう言って、勇気は、キッチンの窓を離れた。
勇気の靴音が響く。
私は、慌てて、玄関に向かい、ドアを開けた。
「勇気……!!」
目の前に、スラリと背の高い勇気が優しい笑みを浮かべ、立っていた。
「開けてくれると思っていた。」
「勇気……!」
私は、思わず、勇気に抱きついた。
涙が止まらない。
「会いたかった……ずっと。」
「俺もだよ。」
私は、勇気に抱きつき、子供のように泣いた。
「ほんと、夏樹は、泣いてばかりだね。」
私の頭を優しく撫でてくれる勇気の手は、あの時よりも大きく、暖かくて、とても優しかった。
沈む太陽がオレンジ色に輝く夕暮れ時。
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