ペンが剣よりも強いのか?

 徹甲大邪は歴戦の騎士である。突出し過ぎた大邪が狩られるのも、飛ぶべきではない場面で撃ち落とされた大邪も見てきた。

 徹甲大邪は這いずるように身を屈め、地を走り一番近くの村落に食事に来た。真竜や大邪のような竜の類いが空を飛べば目立つ。目立たないように奇襲をするほどに徹甲大邪は衰えている。全て竜は同族も小人ニンゲンも喰らう悪食である。

 ドコ村は火に包まれた。森人エルフの若い衆は弓矢を射かけるが、徹甲大邪のきょうふを貫けない。輝光騎士の剣や槍は大邪に届かない。

 輝光騎士の鎧は不壊で、その武器もまた不壊故に大邪にすら届くものであるが、当たらなければ意味がない。


「どうした?この程度なのか?」


 徹甲大邪の握る丸太が輝光騎士を粉砕し、砕けた鎧や骨が周囲にまき散らされ軽装の森人エルフを薙ぎ払う。不壊の付与術エンチャントを徹甲大邪の能力が貫いたのだ。

 遥か昔の大戦で、幾人もの輝光騎士の鎧を貫き、輝く神々に傷をつけたことから『徹甲』の名を与えられている。

 輝光騎士の副長スパスは敗北を感じていた。この村に引き連れて来た輝光騎士は僅かに十人。従者も入れれば六十人ほどだが、輝光騎士より個々の戦力は劣る。

 ましてや相手が大邪であれば。


「この程度、この程度が今を生きるヒトなのかもしれませんねえ。私は最後まで抗いますが」


 スパスは学者肌であった。魔術師は柄ではなかったために、騎士となったが、決して武が優れた者ではない。だが騎士の意地がある。


「輝光騎士スパス、参ります!!」


 自身で開発した回転槍の穂先を向ける。英傑とは、武が優れることのみではない。


「その意気や良し」


 徹甲大邪の丸太がスパスを吹き飛ばした。スパスは燃え盛る家屋の中に落ちていった。生死は分からない。

 残りは僅かばかりの輝光騎士と森人エルフばかりである。


「もう始まっているようですよ、グラース」

「さっさと片付けるか」


 剣鬼たちがやっと到着した。

 英傑は遅れてやって来るとは言うが、剣鬼はどうだろうか。徹甲大邪を超える武を示せるのか。


「貴方は」


 徹甲大邪はスカーレッドに見覚えがあった。その形ではなく魂に。

 小人ニンゲンの外見をしているが、その程度は魔術でいくらでも変身できる。

 姿は誤魔化せてもその在り方を誤魔化すことはできない。


「おや?貴方の相手をするのは私ではなくグラースですよ」

「グラース、剣鬼と呼ばれている。参るぞ」

「我は徹甲大邪、万物を貫く者なり」



 




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