剣鬼の切っ先は何処に向くか

 朝。ユースタスの屋敷の一室で剣鬼が装備の手入れをしていると、スカーレッドが入ってきた。


「グラース、輝光騎士の方がお会いしたいと……」


 スカーレッドは黄金色の甲冑に身を包んだ騎士を連れてきた。

 銀縁眼鏡の陰湿そうな男に見えた。少なくとも剣鬼には。


「スパス、輝光騎士の副長を光王陛下より任ぜられております」

「……グリセンティの敵討ちか?」


 剣鬼は三年程前に傭兵仕事で剣を振るったことがあった。そのとき前の輝光騎士副長グリセンティの首級を上げていた。様々な政治的事情から顔を出していた輝光騎士二十四人を皆殺しにしたとき、たまたまグリセンティの首が紛れていたのだ。

 グリセンティの首は剣鬼を一躍有名にしたが、それは悪名でもあった。光国側は剣鬼に対して良い印象を持っていない。

 剣鬼は腰に帯びた剣の鯉口を切った。何時でも抜けるように。


「いいえ、違います。今回は大邪が優先ですので、我々は剣鬼殿に剣を向けませぬ。それでは」


 そう言うとスパスは用は済んだとばかりに背を向ける。つまり自分たちから敵対しないので、そちらも敵対せぬようにという意味だ。


「待て。俺から逃れられた者はいない」


 剣鬼は剣の柄に手をかけている。


「グラース、今回は見逃しましょう」


 スカーレッドは剣鬼をなだめる。なだめなければ剣鬼は今にも剣を抜き、斬りかかる勢いだった。この臨戦態勢の中で背を向けて、帰ることのできるスパスの胆力は並大抵ではないだろう。無防備な者に斬りかかっては剣鬼の名に傷がつくと読み切ったスパスの勝ちであった。



 剣鬼はスカーレッドに巻き藁スパスをお預けされ、欲求不満であった。そのために準備を巻いて、徹甲大邪を早々に仕留めに行くことにした。

 剣鬼もスカーレッドも勝つつもりで徹甲大邪を探しに出た。しかし、勝負は実際に斬り合わねば分からない。


「徹甲大邪を狩ろうとする集団グループは四つ居ます」


 剣鬼たちは木々の枝を踏み、跳ねるように森を進んでいる。これは目立つ移動方法であるが、素早く移動できる。スカーレッドがやや先行する形である。これは探知能力においてスカーレッドが剣鬼より優れているためだ。またスカーレッドは徹甲大邪から先制攻撃を受けても耐えられる。そして万が一にも剣鬼が倒れたときは己の手を汚すつもりでいる。


「我ら、輝光騎士、村人、あとは?」

「宮廷魔術師が来たという話ですが、二日前ですし既に死んでいるでしょう」


 スカーレッドの推測は当たっていた。宮廷魔術師イサカはいち早くドコ村に到着し、最初に徹甲大邪と戦い肉片に変わっていた。

 そして徹甲大邪はドコ村に向かっていた。


「スカーレッド。村の方を見てみろ。燃えているぞ」


 ふと剣鬼が後ろを振り返ると遥か後方で村から火の手が上がっていた。


「どうやって封印を解いたかわかりませんが、入れ違いになったようですね。すみません」

「こればかりは仕方がない。戻るぞ」


 剣鬼たちは来た道を引き返した。

 




 

 

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