剣鬼、村に到着する。

 馬車が一台ほど通れるかどうかの道を半日ほど進み、幌馬車は村に着いた。

 大邪の封印に最も近い村、ドコ村である。

 森人エルフが住む村であるが、光王の直轄領として代官に税を納めている。


「井戸田、今どうなっているのだろうか」


 幌馬車に揺れていた剣鬼の脳裡にふとスピードワゴン井戸田の動向への興味が浮かび、消えていった。


「いやわたくしに言われましても井戸田のことなど知りませんし……あっ、村に着きましたよ」


 剣鬼の独り言に反応したのは旅巫女スカーレッドである。彼女は修道女のような服装をし、ウィンプルの下に墨のように黒い髪を伸ばしている。額から顎まで斜めに引かれた切傷が目立ち、片目は視力を失っている。服の袖から覗く手先にも大小の古傷が残っているのが見える。そして右手の小指は欠損している。

 旅巫女スカーレッドは剣鬼グラースの戦友であった。


 スカーレッドは幌馬車の持ち主である行商人に礼を言い、教会に向かった。大邪討伐までの寝床を確保しに行ったのだ。辺境の村に宿屋はなく、教会に部屋を借りるのが一般的だ。


「旅のお方、済まぬ。教会は輝光騎士のお方たちで満室だ。ユースタス殿を頼れ」


 教会の司祭はユースタスを頼れと言った。ユースタスは村の一番端に屋敷を構えている。剣鬼たちはユースタスの屋敷に向かった。


「私、旅巫女のスカーレッドと申します。こっちはグラース。司祭に言われてきたのですが……」

「チッ、泊まるなら先に金を払え」


 ユースタスは森人エルフだった。色白の肌に尖った耳という森人エルフの身体的特徴を備え、そして髪を丸めていた。恐らくこの村でも年長のようで肌には皺やシミが見られる。


「今舌打ちしましたよね?超絶可愛いと評判のわたくしがこうして頭を下げているのに!?」


 スカーレッドはユースタスの舌打ちがどうにも許せなかった。


「よせ、スカーレッド。我らのような素性も知れぬ輩に部屋を貸して欲しいと言われても迷惑だろうが、この通りお願い申す。いや、言葉では誠意は伝わらぬだろう。前金を受け取って欲しい」


 グラースは頭を下げ、ユースタスに対して金貨を一枚渡した。

 大陸では、金貨一枚もあれば一月は生活ができるとされている。


「一部屋だけだが、しばらく居ていいぞ」


 ユースタスは金貨という誠意に負け、剣鬼たちに部屋を貸すことにした。


「感謝する」


 




 


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