大邪について
上面
剣鬼
これからの話には幾人かの英傑が登場するが、先ず最初に剣鬼が登場する。
草原に引かれた灰色の線のような石畳の道がある。その上を一台の幌馬車が走っていて、森に差し掛った。森の木々の間から三人の刺客が走り出す。
刺客は薄暗い色の錆止めの塗られた甲冑に身を包んでいた。それぞれは使い古した剣を握っている。所作から彼らが歴戦の戦士ということが分かるだろう。
「止まれ!!」
三人の刺客は馬車の前を塞いだ。
幌馬車が止まり、荷台から剣鬼が降りてきた。
剣鬼はくすんだ銀色の甲冑を着、幾本もの傷の入った兜を被っている。背中には細身の大剣を、腰には片手で振るえる長さの剣を帯びていた。
「悪しだな。弓なり魔法なりで馬車ごと攻撃するが宜しいだろうに」
剣鬼の声は青年のそれに聞こえた。
「剣鬼グラース!!我ら正々堂々とした斬り合いにて決着をつけようぞ!!」
刺客は既に剣を抜き、切っ先を剣鬼に向けている。
剣鬼は腰の剣を鞘から抜いた。するといつの間にか一人の首が胴体から離れていた。
「どうした?俺を切るんじゃあなかったのか?」
剣鬼は刺客たちを煽る。刺客ら二人は剣鬼の斬撃を認識できなかった。よって彼らは自然と間合いを取っていた。
二人目は剣鬼の攻撃を剣で受けようとし、剣諸共身体を左右に切り分けられた。二人目の死体が地面に崩れ落ちたときには既に三人目は死んでいた。剣鬼の剣が三人目の刺客の頭を貫いていたのだ。
「歯応えの無い者共よ」
剣鬼は再び幌馬車に乗り込んだ。
幌馬車は大邪が封じられた地に向かう。
竜狩りの季節が訪れたのはここ最近のことだった。
かつての大戦で封じられた真竜や大邪たちに復活の兆しありと光都の卜者たちが占った。光都の騎士たちや在野の荒くれ者どもが己の使命や功名の為、竜狩りへと向かったのだ。
そして真に竜狩りの名誉を誇ることができる英雄は一握り。多くの者どもはただ無名の屍となるのだ。
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