疑惑。

 非日常に巻き込まれた元軍人は日常に帰った。

 帰るときに頭の中で上司の男の声が流れた。


『消されたくなければ余計な詮索をするな』


 彼女はため息をつきながら、頭の中で、

 はいはい。わかりましたと

 たぶん聞こえてないであろう返事をした。

 そうは言っても、あの巨大ロボの中から

 聞こえた声はどこかで聞いた覚えがある。

 声の主自体が特徴がある人物だったから

 なんとなく覚えているのだろうなと考えた。

 彼女は詮索をしなければいいだろうと思った。

 避難所から帰ってくる勢いで行動した。

 自分が住んでいるアパートに着いた。

 そして、彼女の隣の部屋の呼び鈴を鳴らした。


 「はーい」


 髪の長い色白の女性が姿を見せた。

 髪色はこげ茶色で色白だが、少しガッチリ

 している感じはある。


「どーも。聞きたいことあるけどいい?」

「うーん。どうやら外で話せるような内容ではないみたいね。中へどうぞ」

 元軍人は女性と軽く言葉をかわした。

 そして彼女の部屋の中に案内されると、

 低いテーブルの前に座るように促された。


「カーラ、私が聞きたいこと自体、

 別にたいしたことはないんだ」

「わかってるわ」

 カーラと呼ばれた女性は腰まで伸ばした髪を

 揺らしながら応えた。

「あなたが聞きたいのはあのことでしょ?

 ね?1号さん」

 カーラと呼ばれた女性は元軍人のコードネームを口にした。

「・・・わかっているじゃないか」

「生憎、日本国軍でもトップシークレットなの」

「へぇー。日本国陸軍通信司令官 鷲崎華菜

 であろうあなたがそれを知らないなんて」

 元軍人はかまをかけるつもりで

 カーラの地位を口にした。

 「悪いけど現在の国軍のトップは

  空軍の総司令様なの」

 「ふーん。そうなんだ」

 「だけど、憶測でよければ彼女のことを

  教えてあげる」

 「憶測?」

 「あくまでね。証拠がないから

  そういっているだけ」

 「言ってみて」

 カーラはふぅと息を吐くと

 夢物語の様な言葉を吐き出した。


 「・・・彼女は宇宙人なの」

 「そうか、納得」

 元軍人はあっさり納得した。

 

「・・・・あの、あなた驚かないの!?」


 カーラは元軍人があっさり納得したことに驚いた。

 「驚くも何も、宇宙人なら、

  納得するしかないよ。

  あのスーパーロボット、いったいどこから

  出してきたんだ?とか

  なんであんな若い女の子が

  ロボットの操縦しているんだとか」

 元軍人はカーラに出されたアイスティーを

 口に含み、続けた。

 「あいつの金髪息子ならまだし、

  一般市民の高校生が日本国軍が秘密裏に

  開発した巨大兵器を操縦しているって

  なったらどういうことだ?ってなるよ」

 元軍人が言う金髪息子は彼女を呼びつけた

 男の息子のことである。

 彼女は逃げてくださいという声を聞くまで

 件のパイロットは金髪息子だと思っていた。

「まぁ、宇宙の星々は地球より科学が

  発展している星があるといういわれているわ。

  実感はないに等しいけど」

「そう、カーラの言うとおりだよ。

 だから驚きはしないし、一体どこの誰がその宇宙人なのか知ろうとは思わない。

 ただ、私は目の前の仕事をこなすだけだ」

 元軍人は笑った。

「ならいいけど。さえずりは彼女に入れ込んでいるようだから。

 次会ったら注意しないと」

 カーラは溜め息をついた。

「さえずりって言う人、あいつの奥さんの

 使い魔なんだろ?あの時、どうして

 姿を現したんだ?」

 元軍人はさえずりもカーラも

 人ではないとわかっていた。

 しかし、あえて人として扱うことにしている。

「わたしたち、元人間だからそれなりに

 感情は持っているわよ。

 さえずりは物事の流れをつかむ力が強いから、

 それに流されやすいの」

 カーラは続けた。

「それにさえずりが交わしている契約は

 そんなに強いものではないから、

 彼女は比較的に自由なの」

 「比較的?」

 「そうよ。そして、わたくしはアマテラス様に

 命令されて日本国陸軍で働かされているのよ」

 元軍人はカーラの少しいやそうな顔見て

 あきれた顔で言葉を返した。

「・・・・なんかいやなことがあったの?」

「え!?聞いてくれるの!!?」

 カーラは嬉しそうな声を上げた。

 元軍人は報酬の代わりといわんばかりに

 カーラの愚痴を一時間ほど聞く羽目になった。


 次の日の放課後。 

 カミトは靴箱で家路につこうとしている

 隣のクラスの東を捕まえた。

「東、ちょっと渡したいものがあるんだ」

「何?何?」


 東は憧れを抱いているカミトに声をかけられ、

 うれしくなってついていった。

 カミトは人気のないところに東を案内すると、

 あるものを見せた。

 それはこの国の英雄の名を書かれた色紙だ。

「渡したいけど、その前にちょっとオレの質問に

 答えてほしいんだ。オレ、高等部からの編入で

 良くわからないんだ」

 カミトは言葉を考えながら続けた。

「メルフィーアについて、なんか知っていることはないか?

 空軍の総司令のところで世話に

 なっていることしか、オレは知らないからさ」

「・・・・うーん。付き合い自体は

 中等部入学したときからあるけど

 実は同じことくらいしか知らなくて。

 ミドルユーロのフランクフルト出身くらいは

 知っているよ」

 東は息を整えると続けた。

 「でも、メルフィーアがミドルユーロに

 いた時の話をしたとこを見たことないや。

 ミドルユーロにいる友達の話や両親の話は

 しないのはまだわかるけど、

 こっちのご飯や習慣でミドルユーロに

 いたときはこうだったとかああだったとか

 いう話をしてないんだよ」

 

 カミトは驚きを隠せなかった。

 東のいうことが正しければだ、いくら

 日本国軍の偉い人が保護者でもだ、

 彼女はなれてない土地で生活する上

 何らかの不満を口にしてない。

 つまり、彼女が国軍の指令に引き取られるまで

 今している生活よりひどい生活を送っていた

 可能性がある。

 仮に今よりひどい生活でなくても

 彼女は自分たちには言えない様な生活を

 送っていた可能性は否定できない。

 カミトはなんともいえない気持ちになった。

「わかった。ありがと。

 後、これはほかのやつらには内緒にしてくれよ」

 カミトはメルフィーアのクラスメイトに

 色紙を渡すと静かに去った。


『ナギ、それでよかったの?』

 幼い男の子の声がカミトの頭の中で響いた。

 カミトは心の声で応えた。

 ----ムイ、嘘をつくのは心痛むけど。

 オレはこの状況に納得できない・・・・

『わかったよ。でもムチャはダメだよ』

 幼い男の子の声はやさしく返した。

 カミトは頭の中で状況をまとめた。


 まず、メルフィーアが日本に来たのはおそらく

 中等部入学前くらいの話だ。

 カミトが気になっているのは、

 なぜメルフィーアが図書館の奥にある展示室に

 向かったのかだ。

 そして、メルフィーアは巨大ロボを呼び出した。

 あの後、メルフィーアが巨大ロボを

 呼び出しているのを見たことあるが

 毎回、剣を天に掲げていた。

 ーーーー彼女が持っていた剣は一体何なんだろうか?

 いや、まてよ。あの後図書館は崩壊した。

 直されたことは直されたが、展示室にあったものはおそらく巨大ロボのせいか何かわからないけど

 なくなったという話になっていた。

 ーーーーあの図書館の展示室にあったものは

 何だったのだろうか?

『ナギ、何でずっと考えているの?』

 ――――ごめん、ムイ。考え過ぎた。

カミトは心の中で声に返事をした。

『チラッとナギの考えていることが見えたから

 教えてあげる』

 カミトは思いよらぬ答を辿り着く事になる。

『あの展示室にあったのは

 ナギ達が中等部に入学する少し前くらいに近くの山に落ちた隕石の残骸だよ。

 ただ、あの隕石は宇宙船ではないかと言われていたんだ。

 おそらく表に出しても問題ない遺留品だけ

 展示されていたと思うよ』

 ――――そうなのか。ムイ、ありがと。


 もし、メルフィーアと宇宙船が関係あるとすれば、彼女の発言に納得できる場所は出てくる。

 ただ、メルフィーアはホントに

 何者なのか疑問が残る。

 カミトはメルフィーアのことが

 わからなくなってきた。

 そして、自分がどうすればいいのか

 わからなくなってしまった。

 しかし、どうせ次の日の朝になれば、

 いつもの日常に帰るのだ。

 今はそれを押し殺すしかないであろうと

 カミトは考えた。

 

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