トロピカルジュース

 春、もうすぐ二年生だ。


 ホワイトデーの日、俺は澪にチョコを渡した。


「ど、どうぞ……形はアレかもしれないけど、味は美味しい……かもしれない」


「青のチョコ……嬉しい……本当に嬉しいよ!!」


 澪は目を輝かせていた。


 俺が作ったのはシンプルなホワイトチョコだ。


 形は……いびつというか崩れているが……喜んでくれるなら嬉しい。


「そっか……それなら良かった」


「えへへ……じゃあ、当然だけど……あれ、してくれるんだよね?」


「………あれって、もしかして口移しのことか?」


「そうだよ……ほら、口にチョコを咥えて」


 澪はホワイトチョコを手で小さく割り、俺の口に近づける。


 自然と口にチョコを咥えた俺は、いつの間にか顔が赤くなってドキドキした。


 これ、めちゃくちゃ恥ずかしいよな。


 まあ、良いけどね。


 お互いベッドに座りながら、俺は澪を優しく抱き、彼女も嬉しげに微笑みながらムギュっとこちらの背中に手を回してきた。


 顔をゆでだこのように赤くしながら、俺は唇を突き出す。


 澪は静かに口を開けて、俺のチョコを咥えながら舌を入れてきた。


「はむ…れちゅ……んむ……んく……ぁむ」


 お互いの舌と唾液がチョコを溶かしていく。


 幸せな気持ちが体全体に溢れる。


「ふわ……んんっ……はぁ……青のチョコ……甘い……んちゅ………れろ……れろ……あむ」


 チョコは既になくなっているのに、澪は俺の舌を貪る。


 彼女の甘い唾、吐息、温もり、匂いによって脳から鼻、神経、脳を乱される感覚は、相変わらず癖になっていた。


 俺は息を乱しながらも、澪から唇を離した。


 彼女は蕩けた表情を浮かべながら、クスっと微笑んだ。


「んぁ……ぁ……はぁ……えへへ、青、大好き……」


「ん"……俺も愛してる」


「嬉しい……ねえ、青……」


「どうした?」


「クラス替えって、私達の学校、ないよね?」


「ああ、そうだな。二年生、三年生になっても、俺達はクラス一緒だよ」


「良かったぁ……あと、これは先の話というか……大学、どこに行くとか決めてる?」


「大学は……この街近くの国公立大学かな」


「え、そうなの!?私も、その大学受ける予定……なんだ」


「マジか!?じゃあ、学部はどこにするか決めてる?」


「学部……特に決めていないかな。青はどこにするの?」


「経済とか社会学部にしようかな。将来、公務員とかを目指しているんだけど……」


「公務員……え、どうして?」


「そ、それは……澪と幸せな……」


「幸せな?」


「……家庭を作りたいから」


「……~ッ!?え、ちょ……それって……わ、わわわわ私と……」


 澪は今年一番の赤い顔になる。


 そのまま、目と顔を両手で覆った。


 けど、俺は体を澪に向けて、今の気持ちを言う。


 彼女と一緒に過ごしきて、俺は色々なこと知れた。


 青春、恋愛、女の子とは何か……それらを教えてくれたのは澪だ。


 彼女に感謝している……だからこそ、これからも俺は澪と一緒にいたい。


「少し早いけど……澪、俺は君と結婚したい。これからもずっと、澪の隣にいてもいいかな?」


 澪の様子を優しく見る。


 すると、彼女は俺の言葉を聞いた後、ゆっくりと顔を上げた。


 彼女は泣きそうな表情になり……頬を緩ませながら言った。


「~~ッ!!……う"ん"……あ"りがど"……」


 彼女は小さな声をあげてから、俺に抱きついて来た。


 緊張なのか、体を小刻みに揺らしているようだったけど、それは俺の方だったかもしれない。


 だって、俺もなんだか……嬉しくて、泣きそうだったから。


 けど、今は澪を落ち着かせよう。


 彼女の背中を撫でながら、俺は深呼吸をする。


 澪はようやく落ち着いたのか、泣きながらも幸せな笑みを浮かべていた。


「私……ぐす……これからも青と一緒にいたい。高校卒業して、一緒に同じ大学に行って、同棲して……大学卒業後は結婚して……いつか……青の……こ、子供欲しい」


「み、澪!?さ、最後の方って……」


「冗談じゃないからね?私、本当に好きな、愛する人となら結婚したいし……あ、こ、子供もほしいって前から考えていたの!!」


「そっか……うん、わかった。ちゃんと責任取って、君を幸せにするよ。むしろ、ここまで愛されて……なんだか嬉しいな」


「あ、当たり前でしょ……だ、だから……その……うぅ……ぐず……私を青のお嫁さん……妻にしてください。こんな私だけど……」


「こんな、とか言わなくていいから……澪は俺にとって、誰よりも何よりも大切な女の子だよ。こちらこそ、よろしくね」


「~ッ!?あ、青……大好き!!」


 澪は俺に抱きついてきた。


 俺は彼女を優しく抱き留める。


 彼女の温もり、匂い、柔らかさが心地良くて、ずっとこうしていたい。


「ねえ……青、キス……しよ」


「うん……」


 静かに俺達は唇を重ねた。


 お互いの舌が絡み合い、先程よりも静かに互いの温もりを覚えるかのような、優しいキス……今の俺達にとって、一番良い形だ。


 結婚式の時も、澪とキスはするだろう……だから、事前にこういうキスにも慣れた方がいい。


 入学して、モブキャラ以下の童貞男子だった俺が、今では可愛い彼女と恋人同士になって、今では結婚の約束もした。


 こんなこと、入学当初の俺が聞いたら、驚くだろうな。


 高校生活はまだ終わっていない。


 けど、俺と澪はどこまでも一緒だ。


 だって、どんなものにも左右されないほど、俺達は愛し合っているのだから。


 新しい春、俺は澪と将来を誓い合った。


 それから俺達は、高校二年生、三年生になっても、相変わらずイチャイチャラブラブしていた。


 クラスも同じ、隣同士……朝から夜までずっと一緒にいた。


 国公立大学に向けて、受験勉強をお互いの家でしながら、あっという間に時間は過ぎていく。


 もちろん、澪は高校二年生になって以降、二人きりだとより大胆なことしてきたり、俺に甘えてきたりと……安定していた。


 あと、胸もさらにでかくなって、より柔らかくなっていたのは、かなり衝撃的だったよな。


 水着とか浴衣もサイズが合わなくて色々探したっけ……懐かしいな。


 それから、学校行事も適当にサボったり、参加したり……俺達は本当に自由な学校生活を過ごしていたよ。


 大学受験当日も、偶然同じ教室、隣同士だったから、お互い安心して取り組めた。


 どこまでも俺と澪は一緒にいる、という運命が既に決まっていたようだ。


 最終的に俺達は国公立大学に合格した。


 その後、二人だけの打ち上げパーティーを澪の家でしたかな。


 澪がいきなり裸エプロンに着替えようとしたときは焦ったけど……まあ、それだけ嬉しかったのだろう。


 もちろん、俺も嬉しい。


 これからも澪と一緒にいられるのだから。


 高校卒業後、学校の屋上から見える海を眺めながら俺達はこれからの将来とか、生活について話をした。


 あれから、数か月が経過して、今は大学一年の夏……俺と澪は経済学部に通っていた。


 彼女は俺と同じカリキュラムにしたので、自然と俺達は、同じ時間、同じ教室で授業を受けている……高校の時と変わらないな。


 アルバイトは在宅にしている。


 在宅の方が、澪と一緒にいられる時間を削られなくて済むからだ。


 どんだけラブラブなんだよ、と他は思うだろう。


 ちなみに、マンションについては、程よく安くて程よく広いところにした。


 国公立は学費も安いので、その分金が浮く。


 浮いたお金、アルバイト代で住めるマンションを探すのも、かなり大変だったな。


 けど、それだけ良いこともある。


 部屋は2DKぐらいかな。


 俺と澪の部屋が別々にあり、ダイニングキッチンには大きめの食器棚、テーブルを置いたりとかなりスペースに余裕が持てる。


 大学に入る前から、貰っていたお小遣いもかなりあったので、なんと買えた。


 まあ、家賃については……俺と澪の在宅アルバイトでなんとかしよう。


 経済に関する記事作成から、ウェブデザインといったものを受けながら、他にも変わった仕事している。


 それは、web小説だ。


 高校の時から書いていた小説を気まぐれに、投稿サイトに投稿したら、かなりポイントも貰えて、出版社から連絡があった。


 ぜひ、うちの会社で小説を書いて欲しいと頼まれたので、今は執筆活動にも取り組んでいる。


 それなりに本屋でも売れているようで、収入もそこそこ貰えるからありがたい話だ。


 現在、俺は恋愛小説を新しく書いている。


「これが……えっと、主人公を……」


「調子はどう?捗ってる?」


 作業をしていると、澪がお茶を運んでくれた。


 大学生になってから、よりおしゃれになって、髪型とかもポニーテール、セミロングと色々変えたりしている。授業中は他の生徒もいるので、俺がどこに座ろうか悩んでいると、一番目立たない後ろの隅に座ろうといつも言う。


 高校の時と似ているな。


 他人に全く興味がなくて、自分を見られたくないらしい。


 まあ、俺も周りの視線は気にする方なので、別に良いけどな。


 あと、他の女子大生が俺に声をかけようとすると、怖い笑みを彼女達に見せて、俺の手を引っ張たり、マンションに帰った後はムギュっと抱きついて舌を貪ってくる。


 ヤキモチをやくところも相変わらず可愛い。


「かなり書けているんけど……少し疲れたな」


「もぉ……休憩してね。倒れたら、泣いちゃうから」


「え、そこは看病してくれるんじゃないの?」


「看病しても泣く」


「あはは……じゃあ、体調には気をつけないとだな」


「ふふ、そうだよ。ところで、タイトルは何?」


「ああ、タイトルは……俺の彼女はトロピカルジュース……かな」


「ぷふッ……ッ!?~ッ!?」


 俺がタイトルを言った瞬間に、澪が驚きのあまりお茶を噴いた。


 え、どうしたんだ?と慌てて、机の端に置いてあった布で机を拭いていく。


 すると、澪はクスっと笑みを浮かべていた。


「た、タイトル……おかしくない?……ぷっ……くひゅ」


「あ、笑ったな~?これでもかなり考えた方なんだけど……」


「わかったから、ごめんね。どうして、そのタイトルなの?」


「夏といえば、トロピカル!!……フレッシュな味、甘い味、落ち着いた味……色々混ざったトロピカルジュースって、いかにも夏の青春じゃないか?」


「けど、彼女は別にジュースじゃなくない?」


「え、だって……俺に夏を教えてくれたのは、澪じゃん」


「わ、私!?」


「そうだよ。高校生活の中で、一番思い出が強いのは、澪と最初に過ごした夏だから……恋人同士なれて、君のことを色々知れて……より好きになった。この気持ちを本にもしたいなって」


「青……えへへ、なんだか恥ずかしいけど……嬉しいな」


 澪は俺に抱きついて、耳元に囁く。


 甘い匂い、声、肌の温もりは、相変わらず俺の理性を乱していく。


「じゃあ、トロピカルジュースの味がどんなものか……教えてあげようか?」


「あ……う、うん……お願いします」


「ふふ……じゃあ、舌入れるね」


 澪はゆっくりと俺の口に舌を入れて、キスしてきた。


 蕩ける夏、甘い夏……色々あるけど、それらは全て青春であり、恋の始まりなのかもしれない。


 こんなことを知れたのも澪のおかげだ。


 憧れていた青春、恋愛を澪は新鮮に彩りながら、甘いものにしてくれたのだ。


「ぷはぁ……やっぱり、澪はトロピカルジュースだね」


「ふふ、青専用だから、大事に味わってね。あお……ううん……私の大好きな将来の旦那様」


「ああ、もちろんだよ。俺の大好きな将来のお嫁さん……愛してるよ、澪」


「えへへ……私も青のこと、愛してる」


 俺達は幸せな笑みに微笑みながら、今度はより体を強く抱いてキスをした。


 きっと、どこまでも俺と澪は変わらない。


 大学を卒業しても、結婚しても、子供を作っても……俺達はいつまでも一緒で、いつまでも甘いキスをしているのだろう。


 だって、これが俺達にとっての青春であり、恋の形なのだから。

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俺の彼女はトロピカルジュース 転生 @tenseitensei

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