温泉に誘った

 文化祭の最終日、多くの生徒達がグラウンド、教室で楽しく過ごしていた。

 

 俺、澪は屋上で静かに輝く夜空を見ている。


「終わったね……」


「ああ、終わったな……」


「なんか、いろいろお店周って、楽しかったけど……終わる時は、なんだか落ち着くというか……」


「ああ、わかる……入学した時は、楽しい文化祭とかラノベの世界だけだと思っていたけど……澪と恋人同士になって、一緒に周れて凄く楽しい日々になったよ」


「青……そうね、私も楽しかった。青の彼女になってから、学校も楽しくなって、文化祭では美味しい食べ物をあ~んしたり、二人きりの時は、誰もいない教室で青だけにメイド姿を見せたり……」


「メイド服……初めての文化祭が、可愛い彼女のメイド姿を見れたことって……かなり幸せだよ。本当にありがとう」


「可愛い顔見せてくれて、こちらこそありがとうね」


 澪はクスっと微笑んだ。


 俺も自然と笑顔になった。


 文化祭って、好きな女の子……可愛い彼女と一緒に過ごすことで、楽しいものになっていくんだな。


 文化祭だけじゃない、入学してからずっと彼女と甘くて素敵な生活を過ごせた。


 感謝している……本当に感謝している。


 だから、そのお礼をしたい。


「澪、今度の秋休み……予定とかある?」


「予定……特にないかな。もしかして、デートのお誘い?」


「ああ……デートかもね。……今度、温泉旅行行かないか?」


「温泉旅行……なんだか、良さそう!!え、行き先とか決めているの?」


「えっと……この街から新幹線で数時間程度の距離にある、温泉宿……そこで二泊ぐらいして、一緒に温泉に入ろう」


「……ッ!?」


 澪は顔を赤くした。


 一緒に温泉旅行……その言葉の意味を彼女は正確に理解してくれたようだ。


 誘う俺だって、かなりドキドキしている。


 今回の温泉……実は既に予約を取っていて、貸し切りになっているんだ。


 あと……実は混浴温泉だから、男女別に分けられていない。


 なぜ、混浴温泉にしたのか……もちろん、エチエチな理由じゃないよ?


 澪との恋人関係をより、良くしたい……という気持ちが強いから。


 今でもかなりラブラブな方だけど、澪がキス以上のことをしてほしい……と言ってくるかもしれない。


 彼女も新しい刺激がほしくなるだろう。


 それはどこのカップルでも似たようなものだ。


 もうちょっと先のことをしたいのに、彼氏が全然相手にしてくれない……と言って、すぐに別れを告げる彼女がいるのも事実だ。


 澪がこれからより大胆な誘いをしてきた時、いつでも心に余裕があったほうがいい。


 その余裕を養うには、タオルだけを巻いた澪に体を寄せて、彼女の甘い温もりに慣れるべきなのだ。


「あ、あの……それって……」


「……ああ、そういうことだよ。だから……どうかな?」


「う、うん……いいよ。私も……青と一緒に旅行……行きたい。それなりの勇気がないと、女の子を温泉に誘わないもんね」


「……そうだね。俺、今凄く心がドキドキしているよ。恥ずかしくて、今日眠れないかも」


「あはは……そっか……なんだか、嬉しい。青がこんなに大胆なお誘いをしてくれたこと、本当に嬉しいよ」


 澪は頬をリンゴ飴のように赤くしながら、甘く蕩けた表情で近づいた。


 向かい合わせて、お互い立ちながら手を握る。


 指を優しく絡めて、恋人繋ぎをした。


「青との温泉……楽しみ」


「ああ、俺もだ。澪……よ……よろしくね」


「うん、よろしくね。じゃあ、踊ろうか」


「お、踊るか……えっと、たしか女性の腰を手で支えるように……」


「もぉ……恋人繋ぎしながらでも、踊れるよ?」


「ああ……それもそうだね」


「ふふ、青はやっぱり青だね」


 澪は楽しげに微笑んだ。


 彼女の言う通り、俺はいつまで経っても俺かもしれない。


 男らしく誘ってみたけど、結局彼女にからかわれている。


「けど、好きよ。青のそういうところ」


 そんな俺を愛してくれる……本当に好きだ。


「あ、ありがとう。俺も澪のからかってくれるところ、好きだよ」


「あら、本当?えへへ……じゃあ、もうちょっと顔を赤くして、汗だくになって?」


「それは恥ずかしいので、程々にさせてください」


「しょうがないなぁ……ふふ」


 澪は幸せな表情で俺の手を握りながら、動いた。


 彼女の華やかで美しい踊りに俺も合わせていく。


 文化祭って、やっぱりいいものだ。


 俺達は綺麗に輝く星空の下で、楽しく踊った。

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