美少女メイド

 文化祭の昼休み後、俺達の教室は誰もいなかった。


 午前、予想以上に客が来たのか、材料の生クリームとかお菓子など全てなくなったようだ。


 よって、午後からは他の店に遊びに行ったらしい。


 いつもの教室から甘い匂いが漂っていて、机とか椅子もレストランのように並んでいた。


 文化祭らしいな。


「えっと……あ、あった!!」


 澪は作業場所である調理室から、何かを探していたようだ。


 そして、見つけたように声をあげると、俺に向かって小走りで向かってきた。


 澪は手に何かを持っていた。


 俺に見せびらかしながら、目を輝かせていた。


「青、メイド服!!」


 それは、白と黒、茶色に彩られた可愛らしいフリル付きのメイドドレスだった。


 スカート丈は普通並み、カチューシャもある。


 オタクの街とかに見るメイド服と変わらないデザインだった。


「……こ、これ……本当に着てくれるのか?」


「もちろん……着る……けど?」


 澪は顔を覆うようにメイドドレスを抱えており、少し頰を赤くさせていた。


 恥ずかしそうにする彼女の上目遣いも非常に可愛らしくて愛おしい。


 え、なにこの甘くて可愛い生き物!!


「……着てくるね」


「ああ……」


 その後、澪は調理室の裏にある、着替え用の仕切りに行った。


 俺は別の方を見ながら、全身に熱を帯びていた。


 だって、可愛い彼女が今……二人きりの教室で着替えているんだぞ!!


 ちなみに、俺は覗くような変態じゃないよ?


 そんなことをしたら、澪と俺の関係は終わる。


 たしかに、夏休み、俺の家で彼女と一緒にお風呂に入った……けど、俺は澪に後ろから抱かれる姿勢で、向こう側を見ていたから大丈夫だ。


 彼女の裸を見たことは無い。


 そういうのは……大学生になってから……って、何を言っているんだ!!


 本当に頭がおかしくなっている。


 とにかく落ち着け……落ち着け……今は澪のメイド姿だけを考えよう。


 すると、ようやく着替え終わったのか、後ろから声が聞こえた。


「あ、青……着替えた……よ」


「おお、そうか。メイド服なんて、俺も初めて見るからどんなものか……」


 俺は澪の方向を振り返った。


 けど、言葉をなくしたように俺はポカンとした。


 だって、そこにはトロピカル可愛い女の子がいたからだ。


 スカートを掴んで、モジモジしながら、彼女は顔を赤くしている。


「ど、どうしたの……な、何か言って」


「……ひょ」


「え?」


「うひょぉぉぉおおおおおおお!!」


 俺は教室どころか、他の教室にも聞こえるぐらいの声をあげた。


 オタク特有の笑い方だな……けど、それだけ可愛いから!!


 白くて透き通るような美しい肌は、黒と白のメイド服によく似合った。


 スカート丈はかなり短く、太腿も見えている。


 ニーハイソックスを履いているので、脚全体をより色ぽく見せている。


 え……エチエチだな。


 澪は顔を赤くしながら、俺に近づいてくる。


 その後、俺の隣に座ってこちらを見たり、別の方を見たりと落ち着いていなかった。


「ねえ、いきなりどうしたの?青はてっきり、顔を赤くして私よりもドキドキしながら感想を呟くかと思っていたのに……」


「ご、ごめん……澪のメイド服姿を見たら、興奮した」


「~ッ!?……青のえっち」


「あ、もちろん可愛いよ!!めちゃくちゃ可愛くて、なんだか色っぽいというか……いつも以上にトロピカルというか……とにかく、本当に可愛いよ」


「……ふふ、ありがとう。青に喜んでもらえて良かった……けど、興奮したところ……教えてほしいなぁ」


「え、それは……」


「もぉ……言いなよ~。もしかして、すごくエッチなこと考えていたとか?えへへ……」


 澪はニヤニヤしながら、俺の顔を覗いてくる。


 さらに両手で胸をわざと持ち上げた。


 そういう男の理性をくすぐるようなことをするあたり、本当にずるいよ。


 けど、そんなところも好きだ。


 だから、俺も正直に言おう。


「メイド服のサイズが合っていないのか、澪の大きくて柔らかい胸、お尻のラインが……すごい強調されている。腰のくびれも細いから、体型の良さも伝わって、本当のメイドを見たような感覚だよ」


「え……あ、あの……」


「スカートは丈が短いから、澪の長くて綺麗な脚はスラっとして見えるよね。あと、ムチッとした太腿はニーハイでより鮮明に見える。トロピカルエチエチメイド……ありがとう!!」


「わかったから!!もう、そこまで詳しく言わなくていいから!!……青って本当にエッチだよね。私の胸だけじゃなくて、お尻とか太腿にも反応するなんて……変態さんだ」


「……ご、ごめん!!」


「えへへ……大丈夫だよ。むしろ喜んでくれて、よかった。もちろん恥ずかしいけど……大好きな青が喜んでくれるんだったら……メイド服でもチャイナドレスでも、裸エプロンでも構わないよ」


「最後の方、ヤバいどころじゃないよ!?」


「えへへ、冗談だよ~」


 澪は楽しげに微笑んだ。


 本当に冗談なのか?と思うレベルで怖いことを言っていたんだが……けど、今の俺の理性的に言わせてもらうと、裸エプロンとか本当にありがたい。


 裸エプロン、裸ニット、裸ワイシャツ……裸という文字があるだけで、どの服も最高だよね。


「青?どうかした?」


「え、ああ……と、とにかく……メイド姿の澪を見れて幸せだよ」


「それは良かった~……あ、メイドさんってたしかオムライスを作るんだよね?」


「まあ、たしかに……オタクの街では、メイドさんがオムライスとか甘い飲み物を客に作るよね」


「そっかぁ……じゃあ、あれもするのかな……ケチャップで文字を書いたり……」


「え……たしかに、ラノベでもメイドキャラはそういうことをしていたな。けど、文化祭の喫茶店でわざわざそこまでサービスしてくれる女子がいるわけ……」


「青だけ……特別にしてあげようか?」


「…………え?」


「じゃあ、ちょっとオムライス作ってくるから」


 澪は立ち上がって、調理室に向かった。


 え、どういうこと?


 こんなに可愛い澪のメイド姿を見ながら、彼女の手でオムライスを作ってもらえる?


 ……メイドって最高だな。


 それから数分後、澪はオムライスを持ってきた。


「お待たせしました、ご主人様~」


「げほっ!?」


 いきなり俺のことをご主人様呼ばわりする、澪に驚いてむせた。


 メイド服に着替えたからといって、まさか話し方もメイドさんぽくするとは……俺の彼女、凄くね?


 澪は俺の隣に座って、机の上にオムライスを置いた後、ケチャップを両手で持ちながら視線を向ける。


「ご主人様って呼ばれるの、男の子にとっては夢なんでしょ?」


「ま、まあね。け、けど……いきなり言われると、心が落ち着かないというか……」


「あれ~?顔、すごく赤いよぉ?これから、萌え萌えキュンしてあげるのに、そんなんで大丈夫?」


「~ッ!?萌え萌えキュンだと!?」


「恥ずかしいけど……この前、青の読んでいたラノベのヒロインもしていたから……そういうの憧れているのかなあ、って」


「澪……ありがとう……本当にありがとう!!君は優しくて誰よりも魅力的なメイドさんだよ!!俺だけのメイドさん!!」


「ちょ……そこまで嬉しいものなんだ。えっと……じゃあ、ケチャップで文字書くね」


「ああ……」


 俺は静かにドキドキしながら澪を見る。


 彼女はモジモジしながらも、嬉しそうな笑みを浮かべてケチャップをオムライスに向ける。


「お、おいしくな~れ、おいしくな~れ……」


 澪はケチャップでハートを描いていく。


 綺麗な形で、オムライスがより美味しく見える。


 甘い声も良い調味料になっていた。


 彼女はハートを描いた後、ケチャップをテーブルにおいて、両手でハートマークを作った。


「も、萌え……萌え、きゅ~ん……」


「可愛いよぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!」


 俺は思わず、声をあげた。


 あ、これ澪のメイド姿を見た時も同じ反応だな。


 けど、声は今の方がでかい。


 だって、幸せだから………めちゃくちゃ幸せだから!!


「もぉ~……恥ずかしい………え、なにこれ……メイドさんって、こんなこといつもしているの?本当に恥ずかしいんだけど……」


「メイドさんは凄いよね。だから、今でも多くのオタクから人気の文化として有名なんだよ」


「そうだったんだ……って、なに冷静に話して言るの?さっきの恥ずかしい反応、忘れていないからね!!」


「メイドさん、あ~ん」


 俺は誤魔化した。


 彼女は呆れながらも、クスっと笑みを浮かべてこっちに体を寄せる。


「本当に青はスケベなんだから……そんなご主人様には、甘いオムライスをどうぞ」


 澪はオムライスを小さく取り、俺の口に近づける。


 甘くて蕩けるようなオムライス……それは、材料とか作り方だけじゃない。


 メイドさんの萌え萌えキュンがあってこそ、成り立っているのだ。


 それを今日は知れて良かったと思う。


 あと、澪の萌え萌えキュンは忘れない。


 むしろ、これから俺と二人きりの時は、萌え萌えキュンをしている彼女を見たい。


 そんなことを考えながら俺は澪のオムライスを味わった。


「美味しいよ、澪……今まで一番美味しいオムライスだ」


「大げさなんだから……けど、萌え萌えキュン良いね……これから二人きりの時はしてあげるね」


「マジか……俺、世界で一番幸せかもしれない」


「青って、わかりやすいよねぇ……ふふ、甘い飲み物もいる?ジュースだったらあるけど」


「ああ、ありがとう。なんだか……文化祭って、良いよな」


「ええ、本当ね。青のおかげで知ることができた……ありがとう」


「こちらこそ、ありがとう澪……俺、ラノベ主人公を超えられた。だって、今……こんなに幸せだから」


「えへへ、良かった」


 それから俺は世界で一番可愛くて甘い彼女……今はメイド姿の彼女と一緒に幸せに過ごした。

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