文化祭の昼
数週間後、文化祭が行われた。
この学校の文化祭は、メイド喫茶、お化け屋敷、タピオカ、クレープ屋……など多くの生徒が楽しめるような企画が目立っていた。
女子が全体的に多いので、どのクラスも可愛らしいデザインに彩られている。
クラスだけじゃなく、各部活動もいろいろ動いている。
ダンス部は体育館、文科系の部活は部室で発表、など、それぞれ工夫して文化祭を盛り上げている。
もちろん、部活動はかなりあるので、各教室を周って宣伝をしている。
文化祭は三日間あり、終わった後、後夜祭があるようだ。
グラウンドで男女がペアになって踊ったり、各クラスで打ち上げのようなパーティーをしたりするらしい。
ちなみに、俺達のクラスはケーキ、パフェ、アイス、お菓子といった喫茶店だ。
よほどの甘い物マニアぐらいしか来ないな……と思っていたのだが、他のクラスからも多くの生徒が来ていた。
なぜかって……それは、女子のメイド姿が可愛いからだ。
うちのクラスの強みは、可愛い女の子ばかりだということ……すなわち、男子にとってはまさしく楽園のようなものだ。
あと、男子は執事服を着るのだが……受付とか案内、その他の雑業をするぐらいだ……。
俺は澪と一緒に文化祭を周っていた。
彼女にとって、喫茶店は落ち着いてコーヒーとかお菓子を味わいながら静かに過ごす場所であって、メイド服で男に媚びながら接客する店じゃない。
だから、クラスの喫茶店もくだらないとしか思っていないようだ。
俺はメイド喫茶とかラノベによくある展開だと思っていたが、澪のメイド服姿を他の男に見られなくて良かった。
それに、澪と二人きりで過ごした方が幸せだ。
「ねえ、最初はどこに行く?」
「そうだなぁ……文科系の部活動とかどう?」
「文科系……この階だと、文学部、美術部、歴史研究会……料理研究会とかもあるよ」
「最初は文学部から見てみようか。料理研究会……まあ、澪の手料理の方が美味しいけどな」
「もう……そんなに褒めなくても……えへへ……」
はにかむように微笑む顔は本当に可愛くて、朝からドキドキする。
今まで隣同士で歩いていても、文化祭を一緒に歩くといった感覚は新鮮なので顔が熱くなって、落ち着かない。
「ふふ、顔赤いよ?」
「そ、そうかな?む、むしろ……澪の方が赤いと思うけど?」
「……赤い?」
澪は上目遣いで顔を窺ってくる。
胸の前で手を組みながら、指を絡めてモジモジさせているあたり、わざとにしか見えない。
むしろ、わざとじゃないなら、天然に他ならない。
「あ、赤いよ?」
「そっか……じゃあ、手を繋いでくれたら少しは落ち着くかもね」
「え、むしろ顔より赤くなってドキドキするんじゃない?」
「むぅ……そこは、何も言わずに手を繋いでよぉ……青の鈍感」
澪はプイっと顔を横に向ける。
この子は全ての仕草がトロピカル可愛いことを、そろそろ気づくべきだ。
俺の落ち着かない気持ちも少しくらいは考えてくれ。
「ご、ごめん!!ほら、手……繋ごうか」
俺は右手を差し伸べる。
すると、先程までムスッとしていた顔だったのに、すぐに笑顔になって俺の手を強く握った。
「えへへ……青との文化祭、楽しみ」
澪は嬉しそうに頬を緩めていた。
……本当に、可愛すぎるだろ。
指も絡めてむぎゅっと握ってくるから、暖かくて心地良い。
俺の彼女は、どんなスイーツよりもトロピカルだった。
お昼頃、俺達は学校の屋上にいた。
各クラスの店で買った、焼きそば、フランクフルト、唐揚げ、ポテト……などの食べ物を屋上のベンチに座って食べていた。
「美味しい……焼き加減もちょうどいいな」
「ふふ、青……口にお肉が付いているよ?」
澪は体を寄せて、指を近づける。
焼きそばのお肉を俺の口の近くに持ってくると、そのまま指で取ってくれた。
さらに指を……舐めながらニコっと笑みを浮かべた。
俺はドキドキして、顔を赤くした。
文化祭でも彼女は俺の理性を乱してくる。
「み、澪……あ、ありがとう……」
「青って、本当に可愛い反応してくれるよね。文化祭を一緒に周っている時は、男らしかったのに……」
「周りに誰かいると、澪にかっこいいところを見せたい。……けど、二人きりだと、なんだか君に甘えたいというか……この前の膝枕で、いろいろと知ったから……女の子に癒される感覚とか、優しい温もりに……すなわち、澪のせいだから」
「え、どうしてぇ?誘いにのったのは、青なんだからね?」
「……まあ、たしかにね」
「けど、私もあの時はかなり大胆なことをしたなぁ……今になって恥ずかしいけど、青の蕩けた顔を見れて良かったよ」
「澪は俺の喜ぶ顔とか、蕩けた顔を見たいのか?」
「そうだよ。私だけ見られて、なんだかずるい」
「……理由が可愛い」
「~ッ!?……と、とにかく、今日は青の蕩けた顔を見たいから……午後は良いことしてあげる」
「今よりも良いことか……それって、なんだ?」
澪の顔を窺うように見る。
彼女の顔は若干赤く、モジモジしながらも静かに甘い笑みを見せた。
「……私の………メイド姿……だよ?」
「………え、ええええええ!?」
俺は驚いた表情で声をあげた。
文化祭の楽しげな生徒の声に負けないくらい、俺の声は学校の屋上から響いた。
誰よりも何よりも大好きな女の子のメイド姿……ヤバいだろ。
けど、俺は自分の気持ちに素直になった。
「俺は澪のメイド姿……見たい!!」
「えへへ……青って、本当にエッチだね」
「ちょ……!?え、エチエチなのは澪だろ」
「じゃあ、私達エチエチカップルだね」
澪は可愛らしく俺にムギュっと抱きついて呟く。
彼女の魅力は、恥ずかしくても甘えるように嬉しげな笑みを見せるところだろう。
そんな彼女のメイド姿を見られるなんて、幸せじゃないか。
けど、どこで見せてくれるのだろう。
二人きりの場所……この学校にあったかな。
もしかして、誰もいない教室とか……。
とにかく澪のメイド服、見たい!!
俺は興奮しながら、澪と文化祭の昼を過ごした。
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