未来

 それから俺達は安定していたはずの理性を乱されながら、朝ご飯に手をつけた。


 澪の料理はどれも美味しかった。


 野菜のスープの中には、ベーコンの薄切り、ピーマン、じゃがいもが入っていて、スープも美味しいけど、具材も美味しかった。


 スクランブルエッグも口にすると、卵の焼き加減や味付けが抜群に美味しい。


 最後にアップルパイを口にすると、俺は思わず目を大きく開いて、澪に視線を向けた。


「え、市販のものよりも美味しいよ!!生地は良く焼けてるし……なんだか複雑で色々な味付けが……」


「ふふっ、わかった?かぼちゃ、レーズン、レモンオリゴ糖、アーモンドパウダー、バニラエッセンスを混ぜてみたんだ。かぼちゃの甘さと、アーモンドの香ばしさ、レモン、レーズンの爽やかさに、バニラの甘さが程よく合うようにしてみたよ」


「おぉ……これは凄いな!!澪、本当に料理上手だよね。こんなに美味しい朝ご飯、初めてだよ……ありがとう」


「えへへ、どういたしまして。もしよかったら、レシピ教えてあげようか?」


「マジか!?澪って、本当に優しいよな。俺、君と恋人同士になれて、幸せだよ」


「~っ!?もぉ……いきなりそんな嬉しいこと言われたら……恥ずかしいからぁ……バカ青~」


 頰が赤っぽく染まり、肩を軽く叩かれた。


 可愛すぎるだろ、この生き物……恥ずかしがり屋なところも変わっていないようだ。


 あざとかったり、トロピカルエチエチ系なところも良いけど、こういうところは常に可愛らしく、男心をくすぐったりするからキュンとする。


 彼女だから当たり前だとは思ったが、やはり彼女が澪であって本当に良かったと思う。


 隣の可愛くて甘い女の子の姿をいつでも眺められるのは恋人である俺だけ……勝ち組だ。


 というか、こんなに美味しい朝ご飯を作れるなんて……女子力高すぎるだろ。


 昼休みのお弁当も美味しかったから、既に料理上手なのは知っていたけど、昼だけじゃなく朝も彼女の手料理を味わえるなんて嬉しい。


「澪がお嫁さんだったら、幸せだよなぁ……」


 自然と俺は天井を見ながら呟いた。


 すると、隣に座っている澪は目を大きく開き、顔をリンゴ飴のように赤くしながら俺に体を寄せてきた。


「い、いいいいい今……にゃ、にゃんて……言ったの!?」


「え、だから澪がお嫁さんだったら……あ、ちょっと……今の忘れて……やばい、なんか恥ずかしくなってきた」


「~っ!!……お、お嫁さん……あ、青の……嫁……わ、私……頑張るからね!!将来、青といつまでも一緒にいて、いつまでも支えられる素敵なお嫁さんに……っ!!」


「み、みみみ澪!?ご、ごめん、今の発言はいきなりすぎたかな……も、もちろん、俺だって……み、澪を嫁にしたい……とは思っているけど……俺達、高校生だから、ほら……結婚するのはずっと先じゃないか……今は恋人同士で楽しく穏やかに過ごして……」


「もちろん、わかってるよ!!……け、けど……今から将来のことを話し合っても良いと思う!!というか、今話そう!!」


「え、今!?あ、朝ご飯を食べた後でも……て、聞いてる?」


「えへへ……青と結婚……青が私の旦那さん……えへへ~」


 澪はアップルパイを俺の口にぐりぐりしながら、自分の世界に入っていた……。


 俺は澪の作ったアップルパイを一口食べる。


 すると、口の中に甘い味が広がった。


 うん……やっぱり美味しいな。


 澪が将来、俺のお嫁さんになるなら、毎日こんな料理が食べられるのか……って、今は彼女を落ち着かせるべきだ!!


「……あむ……あむ……ん、甘くて美味しいよ、このアップルパイ……やっぱり、澪は料理上手だなぁ」


「ほんとぉ~?えへへぇ……嬉しい~……じゃあ、今度は……」


 澪は自分のアップルパイを手でちぎり、口に咥えた後、おねだりするように目を瞑る。


「ん~」


「その、これっていつものあ~んじゃないよね?」


「……ん」


「わ、わかった……じゃあ、いただきます……あむ」


 俺は顔を近づけて、澪の唇に咥えられたアップルパイをカリッと音を立てて齧った。


 口に入れると、もちっとした食感とほどよいバター風味が広がり、先程までの味よりも甘みはより強かった。


 ゆっくりと味わいながら食べていると、澪は嬉しそうに体を揺らして今度は自分のスクランブルエッグをフォークで切り分けていた。


「えへへ……青と将来を話し合うなんて……なんだか、新鮮かも~」


「あむ……はむ……み、澪?自分のぶん、食べなくていいの?」


「大丈夫だから、はい………あ~ん」


 澪はスクランブルエッグを俺の唇に運んだ。


 遠慮がちに味わっていると、彼女は嬉しげに微笑んでいる。


 そんなことをしながら、いつの間にか俺達は朝ご飯を食べ終わっていた。


 澪にとって、お嫁さん、結婚という言葉はかなり嬉しかったのか、目がいつも以上に蕩けていた。


 朝からそんな表情を見せられると、こっちまでドキドキして、料理の味を忘れるじゃないか。


 澪と結婚……高校卒業後でもいいか……大学入学後に同棲して、卒業後に結婚もありか……って、いつの間にか俺も将来のことを考えている。


 それだけ彼女のことを愛しているということだ。


 恋人同士になったばかりだというのに、俺は澪との明るくて幸せな未来を考えながら朝を迎えていたのだった。

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