お団子彼女とヤンデレ幼馴染

 それから澪は俺よりも先に浴室を後にして、髪を乾かしたり服に着替えたりしていた。

 

 俺は湯船の中で、寝ようとした。


「ねむ~」


「青、お待たせ~」


「わかったぁ……リビングに行ってて~」


「うん、わかった。お風呂で寝たら、のぼせちゃうから気を付けてね~」


「はいよ~」


 これ、同棲したてのカップルみたいな会話だな。


 澪が洗面所を後にしたようなので、俺はゆっくりと浴室を後にした。


 服に着替えて、洗濯機の方を見る。


 どうやら、澪は自分の浴衣と下着を既に入れていたようで、あとは俺の着物だけらしい。


 洗濯はこちらがやるけど、終わったら声をかけよう。


 恋人同士になったばかりだからな、下着とかは自分達で干した方がいいだろう。


 髪を乾かして、自分の着物を洗濯機に入れた後、リビング向かった。


「お待たせ~」


「あ、ようやく来た。もう、待ちくたびれたよ」


「そんなに待たせてないだろ?」


「むぅ……早く青と一緒にこれ、見たかったの!!」


 澪が手にしていたのは、アニメ映画のディスクだった。


 この前、通販で買ったやつだな。


「いいよ。それ、今話題の映画なんだ。ちょっとだけ頭がおかしいキャラが数人いるけど、ストーリーはかなり面白いと思う」


「へぇ、そうなんだ。青春とか恋愛系?」


「青春恋愛……だけじゃないんだよね。ホラー的な部分もある」


「え、ホラ―……」


 澪はなんだか不安そうな顔をしている。


 もしかして、怖いのあまり得意じゃなかった?


 まあ、そこまで生々しいところはないから大丈夫かもしれないけど、彼女の気持ちが何よりも大切だ。


「ご、ごめん。やっぱり、別の方にしよう。他にも明るくて感動するアニメとか……」


「べ、別に怖くないから!!だ、大丈夫だもん!!私、これでも怖い映画はいくつか見たことあるからね」


「……本当に?だって、今までのデートでホラー映画を提案したら、別の映画の方が良いよって、さりげなく別の映画に変えさせたじゃないか?」


「う……そ、それは気まぐれだよ。女の子は、その時の気持ちで色々考える生き物なの!!わかった?」


「あ、はい……わかりました」


「よろしい。じゃあ、早く見よっか。レコーダーはここだっけ?」


「あ、俺がやるよ」


「そう?えへへ、ありがとう」


 澪はニコニコしながら俺にディスクを渡す。


 可愛らしい笑みに見惚れながらも、俺はそれ以上に魅力的なところを見つけた。


 彼女の髪型がお団子ヘアになっていたことだ。


 赤茶色の綺麗な髪を二つのお団子状にして、それを頭上に綺麗にまとめている。


 幼さをより強く感じる可愛い澪にドキッとする。


 あと、華奢な体型だからか、彼女が俺のデカいtシャツを着ると、なんだかダボダボに見える。


 いつもよりも大雑把に着た姿はドキッとするし、大きい余った袖をヒラヒラと動かす仕草がただ可愛い。


「澪……髪型、変えた?」


「うん、お風呂上りは髪をいつもお団子にしたり、二つに分けて纏めているんだ。どうかな?」


「凄く似合っているよ。すっごく可愛い!!お団子ヘア、最高!!」


「えへへ、良かった。もしよかったら、これからもこの髪型にしようか?」


「そ、それは……俺と二人きりの時だけにしてくれ。なんというかその……他の男に見られるのは……」


「大丈夫だよ。青以外の男なんて、眼中にないから。それに、色々な髪型を見せるのは青だけだから安心して」


「お、おう……ありがとう」


「ふふ、こちらこそありがとうね。その……青のtシャツ、着ることができて嬉しい……すぅ……はぁ……」


 澪はのぼせたような赤い顔で、俺のtシャツをずっと嗅いでいる。


 すると、シャツがめくれて彼女のお腹が丸見えになった。


 白くスベスベな肌に、細い腰のくびれが露わになっている。


 なんだか恥ずかしい気持ちよりも、俺のtシャツに蕩ける彼女に興奮した。


「そのtシャツ、着ていないから俺の匂いはほとんどないと思う」


「何言ってんの!?すぅ……はぁ……すぅ……こんなに良い匂いするんだよ!!汗だけじゃない、普段の青から漂う自然な匂い……すぅ……はぁぁ……これもいい!!」


「……恥ずかしい」


「青だって、私の匂いに興奮したりするんじゃないの?」


「な、なぜそれを……」


「青の腕に抱きついている時、いつも顔を赤くしているでしょ?それって、私の匂いに興奮していたからだよね?」


「あ、うん……そうだね」


 澪の甘い匂いはいつも、俺の心をドキドキさせる。


 けどそれ以上に、大きくて柔らかい胸を腕に押し付けられることに興奮していた。


 澪はニヤニヤしながら、俺の顔を窺う。


 彼女に本当の理由を言ったら、たぶんヤバいことに。


「青、さっきから何考えてんの~?もしかして、私のお団子ヘアと匂いで興奮して……」


「そ、そんなことあるわけ……むしろ、澪の方が興奮してるだろ」


「え、私は……青のtシャツを嗅いでいるだけで、特にこれといったことは……」


 澪は目を逸らして、頬を赤くしている。


 わかりやすい。


 可愛い女の子が俺の匂いに興奮している様は、見ているこっちまでドキドキして落ち着かないものだ。


 俺はレコーダーにディスクを入れた後、澪の隣に座る。


「わかった。俺だけが興奮している、てことで良いから、映画もうすぐだから見よ?」


「青ってば、鈍感!!それでも私の彼氏なの!?こういう時は恥ずかしがる私をわざとからかって、もっと燃え上がろうとするものでしょう!?」


「あ、映画の時間始まった……」


「はい、無視ですね!!もう……見逃すけど、この程度じゃ許さないからね。後で絶対に……」


「澪、静かにして」


「むぅ~……わかったよぉ」


 澪はムスッとした顔を浮かべながらも、体を近づけて肩に頭をのせる。


 ちょっと、やりすぎたかな。


 けど、これはこれで可愛いな。


 お団子ヘアだと、幼い女子小学生みたいな雰囲気が出るから、クスッと笑みがこぼれる。


 髪型を少し変えるだけで女の子はここまで違って見えるのか……。


 女の子についていつも色々なことを教えてくれる澪に感謝しよう。


 それから俺達は映画を静かに見た。


 映画の内容はよくある男女の恋愛ラブコメ……なんだけど、幼馴染がおかしいのだ。


 主人公のことを好きな幼馴染は、彼を誰よりも知っていて、家も隣同士だから部屋に入ってきたりする。


 そんな幼馴染から逃げようと、彼はクラスメイトの女子と恋人同士になって、幼馴染から離れる。


 幼馴染はショックを受けて、学校に来なくなった。


 彼はクラスメイトの女子との楽しい恋人生活を過ごしながら、幼馴染のことを完全に忘れようとする。


 だが、ある時……主人公の携帯に連絡がきた。


 幼馴染みからだ。


 会って話がある、と言われた彼は幼馴染の家に来た。


 けど、誰もいなくて、二階の部屋に向かうと血の匂いが漂い、主人公は恐怖する。


 幼馴染の部屋にゆっくりと入った瞬間、目に見えたのはクラスメイトの女子が血まみれで倒れている様だった。


 首、手、脚を切られている光景に主人公は思わず、逃げようとして後ろを振り向いた。


 すると、制服姿の幼馴染が目を血眼にしてニコニコと笑みを浮かべていたのだ。


 手にはナイフのようなものを持っていて、純白の肌に血がついている。


 ようやく二人きりになれたことを喜びながらも、幼馴染は主人公に近づいてナイフを振りかざす。


 誰にも取られず、いつまでも自分だけを見ていてほしいから……主人公を殺して、頭部だけを切り取り、部屋に飾ることにしたのだ。


 幼馴染は最初は主人公のことを、ただ愛していた。


 主人公なら自分の愛を受け取ってくれると夢に見ていた……けど、彼は他の女と付き合い、自分から離れようとした。


 それが理解できなくて、学校に行かず、いろいろ準備していたのだ。


 ようやく夢を叶えた幼馴染は、それからゆっくりと部屋で彼を眺めながら過ごしていくのだった。


 幼馴染の狂気と愛が怖い……そんな映画だった。

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