青春の形

 恋人繋ぎをしながら、お互い体を密着させて……さっきよりも互いの温かさで頬を紅潮しながら歩き始める。


 隣で一緒に階段を下りている朝日南に、俺もドキドキしていた。


 だけど、俺よりもずっとずっと恥ずかしそうにする朝南にどこか安堵している俺もいる。


 本当に恋人同士になれたんだ、俺達……なんだか、夢みたいだな。


 すると、恋人同士になった俺達祝うかのように最後の花火が打ち上げられた。


 かなりの規模で、俺らの周りに花火の音が鳴り響いた。


 神社の階段を下りていても、わかるほど……背後が明るくなる。


 俺、朝日南は思わず、花火に見とれていた。


「最後の花火って、なんか特別感があるよな」


「そうだね。最初は丁寧にゆっくりと打ち上げられるけど、最後だからなのか……色を混ぜながら打ち上がったり、花の形になったりするよね。けど、私は好きだよ……だって、これも青春ぽいから」


「青春……そっか、海は青春の色、花火は青春の形だと朝日南は考えているんだね。海はどのような色にもなれる自由なところ、花火はどのような形で打ち上げられても、皆を照らしてくれる存在……」


「うん、だから……これからどんなことがあっても、望月君と一緒だったら何でも乗り越えられると思う」


「朝日南……ああ、俺もだよ。これからどんなことがあっても、俺は絶対に朝日南を幸せにするよ」


「……私も、望月君を絶対に幸せするから。ずっと……一緒にいようね」


「ああ……ずっと一緒にいよう。もう離さない」


「うん……離さないでね」


 俺達は互いに見つめ合って、手をギュッと強く握る。


 この温もりは一生忘れない。いや、忘れてはいけないものだ。


 俺達は恋人繋ぎをしながら階段を降りる。


 最後の花火は夏の夜空を輝かせながら、静かに恋する少年少女を見守っていた。


「あ、そうだ」


 朝日南は俺を見ながら、何かいいたげな顔をしていた。


「どうした?」


「望月君、私達は今日から本物の恋人同士になったよね?」


「ああ、そうだな」


「……その……ね。私のこと、名前で呼んでくれないかな?」


「え……」


 そっか、朝日南と恋人同士になったんだから名前で呼ぶのは当たり前だ。


 けど、わかっていても、やっぱり恥ずかしい。


 女の子を名前で呼ぶって、かなり難易度が高くないか?


 心臓をドキドキとさせていた時、朝日南は顔をムスッとさせながら、上目遣いで俺を見ていた。


「むぅ……望月君?」


「は、恥ずかしくて……え、えっと」


「呼んで」


 朝日南は俺の腕に抱きついて、甘えてくる。


 首傾げポーズからの上目遣い……いつも見ているはずのおねだり顔は今の俺にとって、より新鮮に可愛く見えた。


 ずるい……けど、そんなずるい朝日南に俺は惚れたのだ。


 だから、俺は彼女をちゃんと見て全身の熱を高ぶらせながら、静かに告げた。


「み、み……澪」


「あぅ……」


 澪の顔は一気に赤色に染まる。


 手を握る力はより強くなって、絡めていた指をモゾモゾと動かした。


 くすぐったくて、柔らかい感触に……恥ずかしさと安心感を覚える。


 どんなことでも最初は不安とか、緊張とか……ある。


 けど、それを乗り越えて朝日南を名前で呼んだからこそ、彼女は今……こんなに可愛い表情をしているんだ。


 朝日南は大きく息を吐いてから、恥ずかしそうにはにかんでいた。


「望月君……えへへ、ありがとう」


「お礼を言うのはこっちだよ。もう少し、爽やかに言えたら良かったんだけど」


「ううん、私は望月君に名前で呼んでもらえることが嬉しいの。だから、お礼を言いたいの、ありがとう」


 澪は俺を見ながら、優しく微笑みながら、少し背伸びした。


 その瞬間、彼女の唇が俺の頬に軽く触れた。


「ちゅ……」


「あひゃ!?」


「ほっぺにちゅうするだけで、そんな反応を見せてくれるんだ。えへへ、望月君のそういうところも好きだよ」


「……やっぱり、ずるい」


「女の子はずるい生き物だって、前に言ったじゃん。けど、可愛い反応をしてくれたから……私も言おうかな」


「澪?」


 すると、澪は俺の手を離して、正面に移動した。


 それから可愛らしく回った後、リンゴ飴のような甘い赤らみの顔を浮かべた。


「望月君……ううん、青」


「っ!?」


「ずっと私だけを見ていてね」


 澪から名前を呼ばれたことによる、羞恥心と感動が強くなった。


 けど、やっぱり嬉しかった。


 ようやく、澪と本物の恋人同士になれたんだ。


 もちろん、彼女からの言葉に俺は明るく頷いた。


「ああ、俺は澪だけを見ているよ。澪も俺だけを見てくれ」


「えへへ、うん。もう私と青はずっと……ずっと離れないよ」


「もちろん」


 俺と澪はお互い微笑んだ後、ゆっくりと手を繋いだ。


 階段をゆっくりと降りていく。


 お互いの温もりを大切にしながら、これからの未来を一緒に歩いて行くように。

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