ずるくて可愛い彼女

 それから俺は朝日南はいくつか店を巡り、今は金魚すくいをしている。


 朝日南は落ち着いたのか、エチエチな表情も無くなくなっていた。


 俺はそんな彼女の隣で、金魚すくいを応援するのだった。


「えい……!!」


 朝日南はポイを水に浸からせて、金魚を掬い上げようとしていた。だが、金魚はポイに乗らずに水中で暴れている。


 ポイは既に濡れて、ボロボロになっていた。


「むぅ……」


 少しムスッとしている。


 ……可愛いなぁ。


 俺はそんな彼女を静かに見ている。


 すると、こちらの視線に気づいたのか、朝日南は俺の方に目を向けた。


 キラキラした眼差しで聞いてくる。


「ねえ、望月君はできる?金魚すくい」


「金魚すくいかぁ……小さい頃、かなり取れたことある」


「本当!?え、じゃあ……取って欲しいなぁ」


 朝日南は新しいポイを俺に渡して、期待の眼差しで見る。


 彼氏としてかっこいいところを見せようかな。


「うん、わかった」


「えへへ……応援しているよ」


 朝日南は愛らしい笑顔で、エールを送る。


 美少女に応援されるのは素直に嬉しいな。


 俺は手前にいる金魚からポイで掬いあげることにした。


 なるべく、水に浸からせすぎないように、手早く……優しく……最後は勢い良く!!


「よいしょ!!」


 俺はいきなり手前の金魚を二匹程掬いあげて、容器に入れた。


 オレンジと白、黒の金魚……朝日南は驚いた表情を浮かべる。


「す、すごい……!!え、望月君って祭りの名手だった?」


「あはは、名手って……そんなんじゃないよ。あ、まだ掬えるかも」


「え、本当?もうネット、半分濡れているけど……」


「まあ、見てみて」


 ケースにはデカい金魚がいる。


 小さい金魚から普通の金魚よりもデカい方が、掬いやすくなって、勝利に近づく。


 ズルいかもしれないが、これも祭りの楽しみ方の一つだ。


 俺はデカい金魚にポイを近づける。


 すると、金魚はポイを警戒してか、綺麗に巨大な体を動かして逃げようとした。


 けど、俺は既にあらゆる状況を予想していたので、すぐに対応できる。


 ポイを金魚の周りで円を描くように動かして、金魚の動きが鈍くなったところ……掬いあげる!! 水から大きな音と共に巨大な金魚がポイの上に現れる。


 その時点で他の小さめの金魚は全て逃げていた。


 やりきった顔をしながら朝日南に見る。


「なんとか、取れたぞ~」


「あ、望月君……本当に何者!?」


「え、特徴が無い普通以下の男子高校生ですけど?まあ、今は朝日南の彼氏という特徴がありますけど」


 俺は冗談を言って、朝日南をからかった。


 彼女は頬を赤らめながら、目を逸らした。


「もぉ……すぐ恥ずかしいことを言うんだから」


「ご、ごめん……まあ、朝日南にかっこいいところを見せられたかな?」


「ふふ……うん、すっごい格好良かった。望月君がここまで男らしく見えるの、なんだか新鮮……」


「それだと、今までの俺は男らしくなかったてこと?」


「えへへ、冗談だよ~」


 朝日南はからかうように俺の頬をツンツンと触れた。


 やっぱり、俺の方が心を奪われている。


 頬からジワァ~と体から熱が込み上げてくる。


「ちょ……あ、朝日南」


「ん?なにかなぁ」


「……本当に君はずるいなぁ」


「女の子は皆、ずるい生き物だよ?知らなかったの?」


「え、そうなのか!?いつでも優しくて冗談とか言わない子ばかり……」


「それは望月君が読んでいるラノベのヒロインでしょ?現実はそう簡単じゃないよ」


「そ、そっか……」


 世の中はそんなに甘くないらしい。


 それを教えてくれるあたり、朝日南は本当に優しいな。


「望月君、次は射的でもしよ」


「え、少しは休憩……」


「いいから、いいから……それとも、私との夏祭り……楽しくない?」


 朝日南は少し潤んだ目をこちらに向けて、顔を近づける。


 そうきたか……本当にずるいなぁ。


 あと、めちゃくちゃ可愛いです。


「楽しいよ!!わかった、じゃあ早く射的屋に行くぞ」


「うん!!」


 俺と朝日南は仲良く手を繋ぐと、射的屋へと向かった。

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