俺の彼女はリンゴ飴、ちなみに俺はイカ焼き

 神社には屋台が並んでおり、多くの人で賑わっている。


 そんな人混みの中、俺と朝日南は手を繋ぎながら歩く。


 焼きそば、金魚すくい、たこ焼き、お面……よくある定番の店だな。


 俺はイカ焼き、朝日南はりんご飴を食べている。


「うまぁ……イカ焼きとか普段、あまり食べないから新鮮だな」


「美味しそう……私もイカ焼きにすれば良かったかなぁ……あむ……ん」


 朝日南はリンゴ飴を舐めながら、俺のイカ焼きを羨ましそうに見ていた。


 ……これは、あ~んをしろと言っているのかな。


 朝日南は熱い食べ物に敏感だということがわかった。


 プールの時もそうだったが、焼きそばを食べさせると、なぜか別人のようになる。


 吐息をこぼしながら、ゆっくりと口につけて……最終的には蕩けた表情を浮かべるのだ。


 もし、ここでイカ焼きをあ~んしたら、どうなるかは予想できるだろう。


「イカ焼きよりもリンゴ飴の方が美味しいと思うけどなぁ」


「なんで、私にあ~んしてくれないの?熱い食べ物も平気だから、大丈夫」


 なぜ、そこまで自信を持てる。


 実際にあなたはプールで情欲的な顔をしていたじゃない。


 今日は浴衣を着ているおかげで、いつも以上に可憐なのに、ここでエチエチ系美少女に変貌したら……俺の思春期は終わる。


 色々な意味で終わる。


 けど……やっぱり、あ~んをしたい。


 俺のイカ焼きを朝日南に……小さくて可愛いお口に…って、俺は変態か!!


「ねえ、あ~んしてよぉ~」


「わ、わかった……わかったから落ち着けって!!……けど、少し場所を変えよう」


「え、なんで?」


「ほら、行くよ!!」


 俺は朝日南の手を強く掴んで、屋台の裏側に移動した。


 なぜ、こんなことをするのか……もし、エチエチになって、俺に大胆なことをしてきた場合、周りに見られない方が良い。


 せっかく好きな人ときた祭りなんだから、せめて完全に終了のリスクは無くしておきたい。


 朝日南はムスッとした顔でこちらを見る。


「なんで、こんなところに?」


「周りの視線……気になっちゃて……なんでだろう、こんなにも素敵な朝日南を他の誰かに見せたくない」


「~っ!?い、いいいきなり、何言ってるの!?」


 朝日南はリンゴ飴で口元を隠しながら、驚いたように目を見開いた。


 頬はリンゴ飴に負けないくらい赤くて、体を左右に揺らす。


 可愛いなぁ。


「と、とりあえず……ほら、イカ焼き、あ~ん」


 俺は自分のイカ焼きを朝日南に向ける。


 既に食べかけなので、間接キスとか気にしても仕方がない。


 朝日南はゆっくりと近づいて、俺のイカ焼きに顔を近づける。


「今日の望月君、変……」


「どっかの誰かさんが可愛すぎるからなぁ……あと、あざとい」


「っ!?……あざとくないから!!……けど、可愛いって言われるのは嬉しいけどね。ありがとう……」


 朝日南は目を逸らしながらも、さりげなくこちらに上目遣いでお礼を言う。


 この子……天然なのかな。


 それもあざとい、けどそれも……朝日南の魅力なんだよな。


「……朝日南、あ~ん」


「ふふ、顔赤いよ~?じゃあ、お言葉に甘えてあ~ん……あむ」


 朝日南はくちを開けて、イカ焼きを食べようとしている。


 ドキドキと俺の心臓の鼓動はより早くなっていた。


 彼女はイカ焼きに口をつけて、ゆっくりと口に入れて……ハムハムとイカ焼きを堪能していた。


 モグモグしている最中でも、なぜか色気を感じるのはなぜだろう。


「はぁ……美味しい……あむ……熱い……んぁ」


 朝日南は甘い吐息をこぼしながら、艶のある表情で上目遣い……俺の理性は当然、乱れる。


 プールの時以上かもしれない。


「そ、そろそろ……いいかな?」


「はむ……ん……美味しいかったぁ、ありがとぉ……」


 朝日南は火照った顔で嬉しそうだった。


 そんな彼女に全神経が激しく刺激されて、俺は頭がおかしくなりそうだ。


「……もう少し落ち着たら、今度は金魚すくいとかでも行く?」


「うん、もちろん行きたい……けど、その前に」


 朝日南は自分のリンゴ飴を俺に向ける。


 彼女が美味しそうに食べていたリンゴ飴……柔らくて綺麗な唇、舌に触れていたからか、リンゴ飴はほんのり濡れて光っていた。


 これは……エチエチどころじゃない。


「望月君、あ~ん」


「あ、朝日南……今の状況……というか、俺の気持ちわかる?」


「望月君の気持ちかぁ……可愛い彼女の浴衣姿を見れて嬉しいとか?」


「うん、そうだね。けど、他にも……」


「もぉ~、なに?」


「ああ、もう!!わかった……わかったよ!!じゃあ、お言葉に甘えて……はむ」


 俺は朝日南のリンゴ飴に口をつける。


 もちろん、リンゴの味だ。


 当然、甘い……けど、甘いのは、朝日南が口にしていたからかもしれない。


 変態的な発言だけど、本当にリンゴ飴だけの味だったら、こんなに甘いとは感じないだろう。


 俺は、朝日南の味を知ってしまったのかもしれない。


 夏祭り……もしかしたら、俺の予想以上に体力を削るのかもしれない。


「美味しい?」


 朝日南は可憐に微笑みながら俺の顔を窺う。


 まあ、この笑みを見れたら、体力ぐらい削っていいかと思ってしまう。


 多分だけど、朝日南は天性の淫魔体質だ。


 最初に出会った頃の物静かな彼女は仮初の姿……本当は特定の相手にだけ誰よりも甘え、誰よりも心を乱していく女の子。


 そんな彼女にとっての相手……俺だということがわかって、嬉しい。


「ああ、とても甘くて美味しいよ。本当にありがとう」


「えへへ、どういたしまして。じゃあ、そろそろ行こうか」


「そうだな」


 お互いに火照った顔でにこやかに微笑みながら手を繋いだ。


 先程よりも体を密着させて、恋人繋ぎをしながら俺達は、屋台の裏側を後にした。

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