浴衣って、いいよねぇ。
数日後、今日はこの街で夏祭りがある。
商店街から徒歩20分以上のところに、神社があって、そこでは海の神を信仰している。
江戸時代かな、この街の海で魚がいなくなる時期があった。
そんな中、住民は少しでも早く、海が以前のようになるよう神に祈り、数日後、偶然にも魚が海の浅瀬で大量発生していた。
その出来事から、この街の住民は海の神を信仰するようになった。
それから、海全体を見渡せるところに神社を建造、祭壇には獲れた魚、海で採れた海苔といったものを捧げている。
俺はそんな夏祭りに朝日南を誘った。
プールデートの痕は、宿題を一緒に図書館とかファミレスでやったおかげで、なんとか終わらせることができた。
神社は商店街から少し離れた住宅街にあるので、いつもの駅前で待つことにした。
俺は一応、浴衣を着てきた。
少し前、商店街のくじで当てたものだ。
全体的に黒いが、帯は灰色といった大人の男性らしさを表現している。
腕時計を見て時間を確認しながら待つ。
あ、そういえば、朝日南の浴衣姿ってどんなのだろう? 彼女の浴衣姿は見たことがないので、楽しみだ。
何色かは……予想が難しいかもしれない。
これまでのデートでクリーム系、青白系、黒……と様々な色が好みだということがわかった。
本当に重要なのは、色じゃなくて服のデザイン……浴衣を少しくずして胸の谷間丸出しだったら、俺はその場で鼻血をまき散らすだろう。
そう、俺は朝日南の浴衣姿を妄想しながら待っていた。
すると、前からコンコンと下駄を鳴らしながら歩いている美女がいた。
白く細い腕に綺麗な脚が映し出され、白をベースに桃色の花が所々添えられている浴衣、腰の帯は薄紫色……後ろにまとめられた団子状の髪には華やかな髪飾りが添えられている。
そよ風が彼女の体を通り過ぎ、揺れる浴衣の袖が色気を引き立てる。
……俺は朝日南の浴衣姿に見惚れて言葉を失っていた。
「お、お待たせ……望月君」
「……朝日南、今から凄く恥ずかしいこと言っていい?というか言うね」
「え、ちょ……」
朝日南は俺が何を言うかある程度察したのか、顔を赤くする。
けど、俺は朝日南に言う。
「浴衣の着こなし、超絶似合っていて可愛いぞ~!!ラブコメヒロイン顔負けの可愛さ……まさしく、俺の朝日南は超絶無敵で最高だああああ!!!!」
「だから言わなくて良いからあああああ!!」
朝日南は急に顔を赤くした。
ゆでだこどころか、顔から蒸気が駄々洩れになっている。
可愛い……その表情、仕草……ずるいですねぇ。
「だって、ここは言うべきでしょ!!今言わなきゃ、いつ言うの!?」
「うぅ……望月君のバカ。他の人もいるんだから……少しは声とかも気にしてよぉ……」
「あ……すみません。あまりも可愛すぎて、興奮しました」
「えぇ!?……どこでも望月君は変わらないね。プールの時といい、私の珍しい服装に敏感すぎない?」
「あの紐水着のことか……あれは、誰でも俺みたいな反応するよ。今回の浴衣だって、別の目新しさがあるからね」
「目新しさねぇ……じゃあ、今日着ている私の浴衣について、もう少し細かく感想を言ってみて」
朝日南はモジモジしながらも、笑みを浮かべていた。
首を傾げるあたり、いつものあざとさも健全なようだ。
「まず。朝日南の着ている浴衣は全体的に白いけど、桃色の花が描かれているね。桜から椿、梅も所々に小さな花があるみたいだ。清楚って感じがして、物静かで落ち着いた美少女……すなわち、普段の朝日南に似合っている」
「ちょ……」
「次は帯についてだな。濃い紫色の中に可愛らしい斑点があって綺麗だよ。白い浴衣をより鮮やかに引き立てているな。下駄の紐は白、赤が所々に塗ってあるから全体的に映えるデザインの履物だろう。朝日南という可憐な花が咲いているんだな」
「はにゃ!?なんでそんなにスラスラ言えるの!?」
「あと、その髪飾り……透明なガラス細工のようだけど、形は簪に近いな。青い紫陽花が簪の部分に反射し、華やかさが醸し出している。まさに、朝日南のことを表わせる逸品だな」
「……うぅ」
「あと、お団子ヘアーめちゃくちゃ可愛い!!こんなに近くで女の子のうなじを見るの、初めて……」
「わかったからあああ!!も、もういいよ……」
朝日南は頭に手を起きながら、大声を出した。
茹でダコになりながら、チラチラと見上げている姿……気のせいかムスッとした顔もしている。
あれ、言い過ぎたかな。
けど、本当に可愛いから、俺も自然と言葉が溢れてくるんだ。
「ご、ごめん……俺、興奮しすぎた。少し落ち着くね……すぅ……はぁ……」
「全くもぉ……ふふ、けどありがとうね。そこまで言ってもらえて、とても嬉しいよ……朝から色々考えて良かったぁ」
「うおぉ……マジか」
「マジだよ」
朝日南はニコっと可愛らしい笑みを見せる。
……うん、朝の俺にはしばらく朝日南の姿が焼けつくだろう。
白く細く綺麗な腕、下駄の音や静かさが透明感を引き立てる。
そんな美少女が、俺の彼女……なんか、幸せ過ぎて泣きそう。
「望月君?」
「あ、ああ……大丈夫だよ。じゃあ、行こうか」
俺は手を差し伸べる。
朝日南はゆっくりと俺の右手を優しく握り、指を絡めてきた。
浴衣姿の朝日南だからなのか、心臓がさっきから激しく動いている。
そんな俺を見ながら朝日南はちょこんと首を傾げた。
「望月君、浴衣似合ってるよ。かっこいい」
「え……ほ、本当?」
「うん。浴衣の隙間から見える胸板の筋肉……えへへ……」
朝日南は頬を赤くして、俺の胸板を見ながらニヤニヤしていた。
……筋肉フェチにでもなったのかな?
まあ、朝日南が幸せなら、俺も幸せだ。
何はともあれ、俺は彼女の手を握りながら神社に向かうのだった。
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