プールは女の子を大胆にする

 それから俺達は温水プール、流れるプール、ウォータースライダーなどで遊んだ後、プールサイドで昼食をとることにした。


 購買があって、焼きそば弁当を買った。


 近くの椅子に隣同士で座って、俺達は焼きそば弁当に手をつける。


「美味しい。肉、コリコリしているね」


「うん。あと、焼き加減がちょうど良い」


「たしかに……あ、あのさ朝日南?」


「ん、なに?」


「いつも学校とかでは、昼食の時でもこんなに密着していないよね?」


「まあ、そうかも……どうかした?」


「どうかしたって……胸だけじゃなく、頬とかもすりすり擦らせながら上目遣いでこちら見ている状況について、あなたはどう思いますか?」


「それはもちろん、望月君の可愛い照れ顔を見れて嬉しいよ」


 朝日南は嬉しそうな顔を見せる。


 頬赤いくせに、恥ずかしいくせに……なぜ、そこまであざといことができるんだ。


「はい、あ~ん」


 朝日南は自分の焼きそば弁当の肉をこちらに近づける。


 こんなに近い距離で、あ~んをされるなんて……俺の理性、大丈夫かな。


「あ、あ~ん……」


 俺は顔を赤くして、心をドキドキさせながらも、肉を口にする。


 すると、朝日南は嬉しげな笑みを見せた。


「美味しい?」


「う、うん……美味しいよ。あと、なんか甘い……」


「甘いかぁ……もしかして、私の食べかけだから?」


「ごほっ!?ちょ、い、いきなり何言って……」


「わかりやすいなぁ。じゃあ、今度は……」


 朝日南は上目遣いで体を密着させている状況の中、口を開ける。


 え、あ~んをするんだよね。


 どうしてだろう、心臓がおかしくなりそうだ。


 今まで、あ~んする時は、ある程度離れているか、向かい合わせだった。


 けど、こんなに隣同士で体を擦り付けるように密着させられ、肩には頭を乗せられ、目を瞑りながら口を開けている。


 なんだこれ……本当に恋人同士のあ~んなのか!?


 俺は震える手で、自分の焼きそば弁当から麺を箸で掴み、朝日南の口へと運ぶ。


 すると、彼女はパクッと口に咥えて食べる。


「……あむ……ん」


 焼きそばの麺は熱いので、少し冷ました方が良かったかもしれない。


 だって、さっきから焼きそばを食べた後も妙に吐息を荒くさせていたから。


 彼女は甘噛みをしながら麺をすすっていたが、その後の表情は赤くなっていた。


「望月君……あむ」


 朝日南はいきなり俺の指を咥えて舌で舐める。


「ちょ、ちょっと!?な、なにしているの?」


「あむあむ……えへへ、望月君の指、美味しい」


「お、おおおお落ち着け!?ど、どうしたんだよ……」


「ん?だって、望月君の指に焼きそばのソース付いていたから……それに……」


「それに?」


「望月君の焼きそばの方が美味しい……よ?」


 朝日南は目をトロンとさせていた。


 え、なにこの……エロ可愛い生き物。


 完全に顔がいつもの朝日南じゃない。


 からかったり、恥ずかしがったりする顔は、見たことあるけど……こんな表情は初めて見た。


 朝日南の舌の感触は柔らかくて、生温かいものだった。


 や、ヤバい……理性が……。


 けど、ここで欲望のままに動くのも……なんか違う。


 それに、こんな場所でする行為じゃない。


 だから、俺は彼女の口から指を抜いた。


「ぷはぁ……むぅ、どうしてぇ」


「ご、ごめんごめん。けど、その……ほら、焼きそば……ど、どうぞ。あ、あ~ん……」


 俺は朝日南のうっとりした顔に理性を乱されながらも、ゆっくりと麺を彼女の口へと運ぶ。


「えへへ……ありがとぉ……あむ……ん」


 朝日南は先程のように吐息を荒くしながら、麺を冷まさずに咥える。


 頬を赤くして、麺をすする姿は……エロ可愛い。


「あむ……」


「美味しいかな?」


「うん、美味しいよぉ……ふふ、望月君にもあげるね」


「え、お、俺はいいよ……」


「むぅ……私のお弁当は望月君にあげたいのぉ」


 朝日南は自分の焼きそば弁当から、麺を箸で掴み、俺の口へと運ぶ。


「わ、わかったよ……あむ……」


 俺は彼女から箸で麺をもらう。


 もちろん、味は焼きそば……なんだけど、妙に甘い。


「美味しい?」


「うん、美味しいです……ありがとう」


「良かったぁ……はい、今度は私に……」


 朝日南はおねだりするように目を瞑って、口を開ける。


 どうやら、完全にキャラが変わっている。


 いつの間にか、俺の彼女は物静かな美少女から、あざとい系美少女、恥ずかしがり屋美少女……今度はエチエチ系美少女になったようだ。


「わかったよ……あ、あ~ん」


「えへへ、ありがとうぉ……あむ……うん、美味しい~」


「そ、それは何より……」


 紐水着を着た美少女が俺にだけ見せる、扇情的な笑み……最高ですね!!


 朝日南の新しいところを知れて、嬉しいという気持ちだけじゃなく……いつの間にか、俺は年相応のことを考えていたのだった。


 その後、昼食を食べ終わった後、俺達はプールでゆっくり遊びながらも、人があまりいない場所で休憩をしていた。


 朝日南は昼食を終えて、少しウォータースライダーとかで滑った後、眠くなったようだ。


 午前中に遊んだからなのか、それとも昼食でテンションがおかしくなったからなのか、とにかく眠たそうにしていたので、少し早いけど帰ることにした。


 帰り道、朝日南は俺の手を握りながら静かに夕日を見て、ポカンとした顔を浮かべている。


「ねえ、望月君……」


「ん?」


「今日、私……何かあったかなぁ」


「え!?そ、そうだなぁ……俺にセクシーな水着姿を見せてくれたことかな」


「それは覚えているよ。けど、その後のこと……全然覚えていない」


「あ、マジですか……」


 朝日南は昼食以降のことをあまり覚えていないようだ。


 あの朝日南は最高に良かった。


 腕にいつも以上の強さで抱きついただけじゃなく、柔らかくて大きい胸を押し付けてくれた。


 昼食の時だって、隣同士で密着させながら上目遣いで火照った顔を浮かべていたな。


 俺が焼きそば弁当の肉とか麺をあ~んしてあげると、頬をより赤くして甘い吐息を荒くしていた。


 当然、昼食を終える頃には理性の乱れどころか、目まいがした。


 よく倒れなかったな俺……。


 ということを今の朝日南は覚えていない。


 わざわざ、それを素直に言わない方がいいだろう。


 今、言ったら朝日南はあまりの恥ずかしさにここで何をするかわからない。


「望月君?」


 朝日南はまだボーッとしながら俺の肩に頭を乗せてきた。


 とても甘いい香りだ。


 ここはあえて、上手く話を合わせよう。


「えっと……うん、特に変わったことは無かったよ。その後は美味しい焼きそば弁当を食べて、ウォータースライダーで遊んだり、ゆっくりした場所で休憩したからね。本当に楽しかった」


「そっか……私も楽しかった……凄く楽しかったよ。望月君、今日はプールに誘ってくれて、ありがとう。プールは初めてだったから……私、色々知れたよ」


「おぉ……色々とは?」


「望月君の筋肉とか、望月君が私の紐水着を好きになったこと……望月君がスケベだということ」


「ちょ、最後の方、俺スケベじゃないんだけど!?」


「ふふ……冗談だよ。でも、本当に楽しかった」


 朝日南は本当に嬉しそうに微笑んでいる。


 彼女の笑顔を見ると、俺も嬉しくなるし、幸せな気持ちになるな。


「ねえ、望月君……私、今……幸せ」


「え?」


「望月君と一緒にいて、一緒に遊んで……凄く幸せ。だから、私はこれからも望月君と一緒にいたいなぁって……」


「……ずっと俺は朝日南と一緒にいるよ。大丈夫、これからも色々な青春を楽しもうよ」


「うん……」


 俺達は約束を交わすように手を握り合い、自然とお互いに視線を向け合っていた。


 緊張などはなく、ただここに朝日南が存在する……俺の隣にいるという事実に幸せを感じる。


 夏の夕暮れの光に照らされながら、俺は朝日南の手を強く握って彼女の温もりを大切にするのだった。

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