二人だけの世界

 あれから数日が経過して、今日は終業式……明日から夏休みだ。


 秋からは体育祭、文化祭、修学旅行など学生にとって楽しいイベントが盛りだくさんだ。


 教室には俺と朝日南しかいない。


 他の生徒は皆すぐ帰ったので、静かな空間になっている。


 今日はいつもより早く学校が終わったので、まだ日が昇っている……けど、暑いのには変わりないな。


 この暑さは異常だ。地球温暖化の影響かな?


 朝日南は腕を枕に机で眠っている。


 俺はそんな彼女の寝顔を見ながら、隣でボーっとしていた。


 なんだろう、この寝顔を見ていると安心する。


 俺は朝日南の寝顔を静かに見ながら、これからどうするか考えていた。


 夏休みは高校生にとって、一番時間のある期間……特に付き合ったばかりのカップルは、これを上手く活用してより仲を深めていくだろう。


 朝日南と付き合って、もう三ヶ月が経過している。


 春はイベントがほとんど無かったので、平日は商店街、ファミレス、休日は隣町に行って店に寄ったり、映画を見たりしていた。


 しかし、夏休みは違う……海、プール、花火大会などイベントが盛りだくさんだ。


 朝日南との仲を深めるには良い機会だと思う。


 最初に出会った頃よりも彼女の青春に対する価値観は変わったかもしれない。


 意味のないものと決めつけていたけど、今はどんな色、、形にもなれる自由なものだと評価した。


 青春は人それぞれだ。


 大切なのは、自分にとっての青春がどのようなものかをはっきりさせること。


 彼女にとっての青春を見つけられて何よりだ。


 けど、俺を朝日南が選んでくれた本当の理由、彼女の俺に対する本当の気持ちを未だに知らない。


 俺は朝日南のこと、本当に好きだ。


 教室では物静かで落ち着いているのに、それ以外の場所……特に二人きりで一緒にいる時は可愛らしい笑みからあざとい笑みまで見せてくれる。


 ラノベのヒロインに負けないぐらい可愛くて、優しい……そんな彼女のことを愛している。


 あ、ちょっと……ちょっとどころじゃない、めちゃくちゃ恥ずかしい表現をしたかもな。


 けど、それぐらい朝日南は大切な彼女だ。


 だから、俺は朝日南との恋愛を大事にしたい……彼女も似たような気持ちなのかな。


 いつか知りたいものだ。


 朝日南の寝顔を見ていると、自然と頬が緩んでしまうな。


 あ~……なんか幸せだなぁ。


「……ん……あ、望月君?」


 すると、彼女はゆっくりと瞼を開いた。


 俺と目が合うと、少し頬を赤くして慌てて視線を逸らした。


 俺も恥ずかしくなってきて、顔を逸らす。


 なんか……気まずいな。


 ゆっくりと落ち着かせて、俺は朝日南の方を向く。


「お、おはよう……ございます」


「……お、おはよう……見てた?」


「え、なにを?」


「私の寝顔……見た?」


 朝日南は腕を枕にしながら、頬を赤くしてこちらを窺っている。


 朝日南の寝顔を見ていたことはバレているようだ。


 ここは正直に言った方がいいよな?


「見た……か、可愛かった……」


「……望月君のえっち」


「なんで!?寝顔見ただけなのに?」


「女の子にとって、寝顔を見られるのは相手が彼氏でも恥ずかしいと思うよ?」


「そ、そうなのか……ごめん」


「別にいいけど……ふふ、そんなに私の寝顔が見たかったの?」


「あ……そ、それは……」


「顔、赤いよ~?」


 朝日南は俺の反応を見て、クスクスと笑っている。


 完全にからかってるな……いつもの彼女だ。


 けど、さっきの頬を赤くしながらもさりげなく怒っていたような表情が……なんか、良かったな。


「……もう、皆帰ったよ」


「そうみたい。凄く静かだよね……まるで、私と望月君だけの世界みたい」


「俺達の……世界?」


「うん。二人きりになれる場所って、いつもは屋上か放課後の帰り道ぐらいでしょ?けど、どっちも落ち着かないよね」


「たしかに……それに比べて、今の教室は落ち着くな」


「でしょ。だから、こういう二人だけの空間は……特別感があるよね。私は好きだよ」


 朝日南はニコっと微笑んだ。


 彼女から好きと言う言葉を聞いて、ドキッとした。


 自然と俺も今の感情が溢れた。


「俺も好きだな……」


「……え?」


「あ……い、今のは……その……こ、この教室、良いよなぁ」


「え、ええ、そうね……」


 朝日南はきょとんとした顔でこちらを見ている。


 今の俺の発言がなんだったのか、どんな意味だったかを知りたがっているようだ。


 そんな俺は顔どころか耳を赤くして、慌てながら別の話題に変えた。


「あ、そう言えば……今度、水族館とかどう?」


「水族館……この街にあったね。けど、望月君は予定とか大丈夫なの?」


「ああ、大丈夫!!それに、朝日南と恋人同士なったんだから、今年の夏は今までよりも楽しくなりそう」


「大げさ~……ふふ、望月君らしいね。私も予定は特に無いから全然良いよ」


「良かった。水族館、プール、夏祭り……いかにも青春ぽい」


「青春かぁ。今年の夏は、新鮮に見えるだろうね。青春、恋……本当の意味、素晴らしさなんてものを私が理解できるかはわからないけど」


「だったら、一緒に探していこうよ。恋人同士なんだから」


「望月君……うん、そうだね。えっと……夏休みもよろしくね」


「こちらこそ、よ、よろしくお願いいたします!!」


「ふふ、話し方変だよ?」


「ちょ……俺だってかなりドキドキしているんだから、少しはわかってくれよ」


「そうだよね~。恋愛に憧れる男子にとっては、女の子との夏休みは特別なものだもんね~」


 朝日南はニコっと微笑みながら、俺の目を見る。


 もう、彼女の笑顔は何度も見ているというのに……やっぱり可愛いなぁ。


 からかうところは相変わらずだけど、本当は彼女もドキドキしているんじゃないのか?


 まあ、それはこれからの夏休みで確認していくか。


 俺は朝日南との夏休みを想像しながら、これからの予定を考えるのだった。

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