これからの道

 映画を後にした俺達は、近くのファミレスに寄った。


 お互い向かい合うように座って、メニュー表を見ている。


「望月君、どれにする?」


「そうだな……俺はハンバーグ定食にするよ。朝日南は?」


「私は……パスタにしようかな」


 俺達は注文する。


 料理が来るまで、映画の感想を話した。


 俺は主人公の行動に感情移入できたこと、ヒロインが朝日南に似ていることなど話した。


 すると、彼女はクスっと笑みを浮かべていた。


「映画の主人公、本当に望月君そっくりだよね。顔とか耳を赤くするところ……」


「俺って、あんな顔をしているのか……け、けど今の俺よりも男らしい」


「ヒロインが心を乱して泣いても、優しく抱いたりするとか……あそこまで逞しい男子高校生って、あまりいないと思うけど」


「だから、主人公なんだよ……あ、料理きた」


 店員が俺達に料理を持ってきてくれた。


「美味しそう……ねえ、望月君」


「ん?」


「あ~ん」


 朝日南は口を開けて、前屈みになる。


 俺は一瞬、戸惑うが……すぐに朝日南の意図に気づいた。


 そうか、ここはカップルがよくやるあ~んだな! 俺はフォークでハンバーグを一口サイズに切ると、彼女の口に近づける。


 すると、彼女はパクっと食べた。


 もぐもぐと口を動かして、飲み込む。


 可愛い……朝日南が小動物に見えてきた。


 一応、ドキドキしていますけどね。


「朝日南、美味しい?」


「うん、美味しいよ。柔らかくて、焼き加減も良く、肉汁が口の中に広がって……最高だよ」


「そ、それは良かった……」


「じゃあ、次は私の番だね。はい、あ~ん」


 朝日南もパスタを一口サイズにフォークで巻いて、俺の口に近づける。


 俺は口を開けて、パスタを頬張る。


 うん、美味しい。トマトの酸味とチーズのコクが口の中で広がる……って、これも間接キスじゃないか!!


 しかも、朝日南の表情が……なんかエロい!! 俺は朝日南のフォークからパスタを離す。


 けど、これはデートだ!このぐらいで恥ずかしがってどうする。


「あ、ありがとう……美味しいよ」


「えへへ……良かった。じゃあ、次は望月君ね」


「え……」


「はい、あ~ん」


 朝日南は先程と同様に口をあけて、待っている。


 もしかして、今からあ~んを交互にしていくのか。


 なんというか……めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!?


 さりげなく、彼女は少しだけ頬を赤くしていたような……まあ、いいか。


 その後、俺は顔を赤くしながら朝日南とのラブラブな時間を過ごした。


 映画を見た後は、電車で俺達が暮らしている街に帰った。


 いつもの商店街に寄り、本屋、雑貨屋、服屋などを回った。


 朝日南とのデートは楽しかったけど、少し疲れた……朝からドキドキしていたからな。


 彼女にからかわれながらも、今日は俺が店を提案していた。


 楽しんでくれたかな……まあ、いいか。


「そろそろ、夕方だけど……他に行くところある?」


 朝日南は首を傾げてこちらを窺った。


 ちなみに、手を繋いでいる……朝から手汗とか大丈夫だったかな。


 朝日南はクスっと微笑む。


 この反応から、どうやら手汗とかの心配はないようだ。


「えっと……あ、そうだ!!海に行こうよ」


「海?今から?」


「ああ。大丈夫、近道を知っているから」


「そっか……うん、私も海見てみたかも」


「おう、じゃあ決定だ。行こう」


 俺と朝日南は近くの海に向かうことにした。


 なぜ、海に行こうと考えたのか……今日の映画の影響かもしれない。


 けど、純粋に朝日南と一緒に行きたかったから……というのが、本当の理由だ。


 俺達の住んでいる街から海までは歩いて二十分ぐらい、近道として公園を通り抜けることにした。


 近道として通る公園では、小学生達がサッカーをして遊んでいた。


 俺達は手を繋ぎながら静かに歩く。


 しばらく歩いていると、目的の海に到着した。


 砂浜に人はあまりいなく、静かな波の音が聞こえるだけだった。


 夕日の光が海に入り、オレンジ色に光っている。


 朝日南は砂浜を歩きながら、海を見てポカンとした顔を浮かべている。


「こんなに綺麗だったんだ……学校から見える海は、いつも青いのに」


「朝日南は普段、海を見ることって……」


「わざわざ街の海を見に行くような性格じゃないよ。……それに、海って誰かと一緒に見る方が良いと思わない?」


「たしかに……俺は今まで、本屋行った時に海を見る程度だった。けど、朝日南と一緒に見たら、なんか見方が変わったよ」


「ふふ、そうなんだ。私も……望月君と一緒に見れて、何かわかったかもしれない」


「わかったこと?」


「うん……このブレスレットを買ってくれた時、望月君言ってたよね。青春の色は海の色、青春はいろんな表現ができる……て」


「ああ、言ったよ」


「たしかに、普段の海はこのブレスレットのように白くて青い色をしているけど、今見える夕暮れの海は全然違う色だよね。私達の感情も様々だから、仲良くしたり喧嘩する。正直言って、かなり面倒だけど……それが青春なんだ」


「朝日南……」


「仲良くても喧嘩するし、喧嘩してばかりだけどいつの間にか友達になっていることも……この海のように、私達も様々な色になっていくんだなって……」


 朝日南は静かに海を見ながら、自分のわかったことを俺に告げる。


 海はずっと青じゃない。オレンジ色だったり、赤色だったりと落ち着かないのだ……まるで、俺達のように。


「朝日南、青春の意味を見つけることはできた?」


 俺は彼女に視線を向けて、話しかける。


 すると、白いワンピース姿の美少女はこちらに体を向けて、ドレスを揺らす。


「うん、わかったよ。青春は少し落ち着くべきだと思う。海もだけど」


「あはは……たしかにな」


「けど、その青春によって私達は出会えたかもしれないね。同じクラス、隣同士だったからという単純な理由だけかもしれないけど……」


「理由は何でも良いと思う。朝日南と出会って、デートして………一緒に海を見ることができたことには変わりないよ。俺は本当に良かったと思う」


「望月君……ふふ、最後に男らしいこと言えたね」


「な……今日、色々彼氏ぽくできたじゃん!!」


「そうかなぁ?私よりも顔を赤くしていたくせに……」


「ええ……」


 残念……もう少し、朝日南に慣れないといけないかな。


 夕暮れを見ながら俺は今日の自分を反省する。


 すると、朝日南はニコっと笑みを浮かべて、海の方まで走った。


「ちょ、朝日南!?あぶな……」


「えい!!」


 朝日南はいきなり海の水を手ですくい、俺に水しぶきをかける。


 全身、ビショビショだ。


「うわ!?ちょ……げほっ……しょっぱ……」


「望月君、お疲れ様~!!えへへ……」


 朝日南は愛らしい笑みを見せた。


 まるで、今日見た映画のヒロイン……それ以上に可憐な少女の幸せそうな笑顔だ。


「全く……俺も今そっちに行くからな~!!」


 自然と笑みを溢しながら俺も朝日南の方へ走った。


 もうすぐ夕暮れが終わるころだというのに、俺達は子供のように海で遊ぶ。


 青春は色とりどり……俺達の関係はまだ、始まったばかりかもしれない。


 青春とは……人それぞれの色があるのかもしれない。


 けど、朝日南とだったら、どんな色にも染まることができるだろう。


 俺は朝日南と海で遊びながら、そんなことを考えていた。

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