青春の色

 商店街を歩いて数分が経ち、俺達はある店に寄った。


 そこはアクセサリーショップだ。


 ガラスケースの中にはネックレスや指輪などが置かれている。


 学生から大人向けのものまで、幅広く取り揃えている。


 朝日南は静かにケースの中を見ながらも、こちらに視線を向けた。


「ねえ、望月君の読んでいるライトノベルの主人公は女の子がアクセサリーを見ている時、どうしてる?」


「そうだなぁ…『これ、可愛いな』とか……かな?」


「他には?」


「もし、そのヒロインを好きなら、『そのネックレス、良かったら買おうか?』と言って…ヒロインは『あ、ありがとう』って言って頬を染めるかな。……な、なにこれ?何の質問?」


 俺は朝日南にそう聞くと、彼女は周りを見ながら頷いた。


「そっかぁ……たしかに、その対応は女の子にとって嬉しいかもね。けど、高校生にそれだけのお金はないでしょ?」


「まあ……バイトをしているなら別だけど…わざわざ高いものをプレゼントするよりも気持ちの方が大事じゃないか?」


「気持ちね……ふふ、じゃあ望月君は彼女である私に何かプレゼントしてくれるの?」


「え!?そ、それは……」


 これは朝日南からの挑戦状か? 彼女は俺にプレゼントを期待している。


 もしくは、恋愛における気持ちの大切さについて知りたいのか。


 どちらにしろ、ここでハッキリと答えなければ……俺は彼氏として失格だ。


 現在、俺の所持金は1万5千円……ケースの中にある指輪とかネックレスはどれも10万以上はする。


 女子高校生に人気な安価のアクセサリー類は5千円前後だ。


 その中から、朝日南の好む色、デザインを想定して選ぶ………難易度、高いな。


 けど、彼女は青春を知りたいのだ。


 特に俺が何よりも大切に考えている恋愛を……。


「朝日南、俺探してくるね」


「お、なんだかいつも以上にやる気だね。期待してるよ」


「ああ、任せろ!!」


 俺は朝日南から離れて、アクセサリーショップの店内を歩き回った。


 女子高校生に人気のアクセサリーはたしか……あ、これかな。


 俺が見つけたのは、鮮やかな色合いが特徴的なブレスレット、バングル、ブローチからコサージュ、ヘアバンド、シュシュ、ヘアゴム、カチューシャなどだ。


 朝日南が好む色……いつもクリーム色のシュシュを持っていることから、明るくて柔らかい色がいいかもしれない。


 もしくは、彼女の綺麗な赤茶色の髪に合う白、黒系の色もいいな。


「……何色が良いんだ?」


 朝日南はどの色でも似合うかもしれない。


 女子が好む色だったら、たいてのものは、彼女も受け取ってくれるだろう。


 けど、何か見落としているような……。


 青春は誰にとっても鮮やかなものじゃない。


 朝日南は青春に対してどのような色を想像しているのか。


「……青春……海か?」


 彼女は俺にとっての青春を知りたがっている……だったら、俺にとっての青春の色を考えて、それをプレゼントすれば、彼女もわかってくれるだろう。


 青春……青春の色……すなわち、それは海の色。


 どこまでも自由で、いろいろな表現ができる存在……海が俺にとっての青春を表す象徴なのだろう。


「……これだな」


 俺が取ったのはブレスレットだ。


 柔らかい数珠が輪状にならんでいて、白から水色、青、濃い青と彩られている。


 少し揺らすだけで、数珠が擦れる音が聞こえる。


 なんとも、夏らしいデザインだ。


 価格は3500円……高校生に優しい値段じゃないか。


 ブレスレット選び、朝日南の方へ向かうと椅子に座っていた。


 眠そうな顔でスマホを見ながらも、こちらに気づいたのか立ち上がり、視線を向けている。


「おかえり」


「お、おう……あ、あのさ……え、選んだよ」


「そっか……じゃあ、見せてもらおうかな」


「はい、どうぞ」


 俺はゆっくりと、朝日南にブレスレットを渡した。


 すると、いつも変わらない涼しげな青い目は……なぜか輝いていた……未知の発見をした少女のように。


「ど、どうかな……あ、朝日南って、落ち着いた色の方が似合うかなって思って……その、数珠が擦れる音が綺麗でさ。気に入ってくれるといいんだけど……」


「……手につけてもいい?」


「え、あ………はい、どうぞ」


 どうしたんだろう……もしかして、他の色が良かったのかな。


 あとで、他のアクセサリーも買って……。


 そう考えていたが、いつの間にか彼女は左手につけていた。


 朝日南は腕を上にあげて、静かに微笑んだ後、彼女はゆっくりとこちらに視線を向ける。


「綺麗……ねえ、似合っているかな……」


「も、もちろんだよ!!すげえ、似合ってる!!可愛い………あ」


「えへへ、ありがとう。望月君……とても嬉しいよ」


 普段のからかうような笑みとは違い、心からの笑みだった。


 俺もそんな彼女を見て……自然と笑みが溢れる。


 良かった……本当に良かったという気持ちだけ……むしろ、先程までの恥ずかしい感情は忘れた。


 それだけ、こちらも嬉しかったのだ。


「ねえ、望月君。私、なんだか少しだけわかったことがあるよ」


「わかったこと?」


「うん、それはね……青春の色は、海の色……。君にとって、青春は明るいだけじゃなく、自由で、いろんな表現ができる存在……海が青春を表す象徴なんだ」


「そ、そう……まあ、ありきたりかな」


「そんなことはないよ。望月君らしい考えだと思う。青春の色を知ることができたから、少しは見直しかもしれない」


「……じゃあ、今日は収穫ありかな」


「ええ、そうね。望月君がこんなに素敵なプレゼントをくれたんだから」


 朝日南はブレスレットをつけた左手を握って見せてくる。


 あと、右手で俺の手を握って来たので、こちらも握ったら、なぜか頬を赤くした。


「こ、このタイミングで顔を赤くされると、こっちまで恥ずかしいじゃん!!」


「だって、いつも以上に力が入っているから……。それに、望月君だって顔赤いよ」


「うぐ……」


「さっきまであんなに男らしかったのに、急に女の子みたいになるんだから」


「うぐぐ……」


 俺は朝日南の手を握りながら、顔を赤くする。


 すると、彼女はクスクスと笑い始めた。


「ふふ……望月君って可愛いよね」


「お、男に可愛いなんて言うなよ!!それに……朝日南の方が可愛いよ!!」


「……え?」


「あ……」


 俺何言っちゃてんの!?


 け、けどこれは本音だから仕方ないだろ!!だって、朝日南はめちゃくちゃ可愛いんだから。


「あ、あはは……そ、その……ご、ごめん……急に変なこと言って。け、けど、俺は可愛いよりかっこいい……て……え、朝日南?」


「……あ、ありがとう」


 彼女は頬を赤くしながら、そっぽを向いた。


 この反応は……もしかして……照れているのか?


「朝日南……その……」


「な、なに?」


「……そ、そろそろ帰るか?」


「うん……」


 朝日南は力強く俺の手を握って、顔を赤くしながらも上目遣いをしてきた。


 え、なにこの可愛い生き物。


「まだ……手を握ってていい?」


「……ああ」


 俺達はそのまま会計を済ませて、帰宅するのだった。


 お互い静かに、ただ視線は合わせながら……。


 青春に意味は無いとか言っていた朝日南にも、女の子らしいところがあって、俺は安心した。


 今日の彼女の笑顔はこれまで以上に……魅力的だったことは忘れないだろう。 

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