恋する少年は甘いものに弱い

 朝日南と恋人同士になってから数日が経ったある日の放課後。


 俺と朝日南は一緒に帰宅していた。


 恋人繋ぎをして、歩くのは慣れてきたかもしれない。


 けど、周りの目が気になって、落ち着かないのは相変わらずだ。


 朝日南はそんな俺を見ながら相変わらず、楽しそうに笑っている。


 この数日で分かったことがある。


 彼女は俺と一緒にいる時だけ笑うのだ。


 教室だと、他の生徒もいるので、俺と軽く話をしたり、授業中こちらを見ながら静かに微笑むだけだ。


 それ以外の場所、周りに誰もいない時は体を密着させたり、耳で囁いたり、手を繋いだりしてからかう。


 今、俺達は商店街を歩いており、周りには買い物をする主婦、帰宅している学生が歩いていた。


 一応、他の視線はあるのに彼女は体を密着させて、耳元で囁いてくる。


「放課後に商店街、なんだかデートぽいね」


「そ、そうだね。あ、あのさ…周りの視線とか気にならない?」


「別に気にならないよ。ここは教室じゃないからね。仮に、クラスメイトがいたとしても、こんなに人が多い中、私達を目撃する人はいないよ」


「そ、そうか……」


 教室は学校の中で、一番目立ちやすい場所だ。


 普段から本を読んでいる俺、寝ている朝日南が仲良さげに話をしたり、体を寄せ合ったりすれば、すぐに噂になる。


 それを朝日南は気にしているのだろう。


 もちろん、俺だって噂になったら、学校休むかもしれない。


 恋愛はたしかに素晴らしいものだ。


 けど、それだけリスクもある。


 それまで仲良くしていた女子に告白して、それ以降仲良かった関係がなくなり、周りからバカにされる。


 クラスによってだが、たいていの学校では告白した後の男女に対してからかったりする。


 俺はそんな光景を何度も見てきた。


 だからこそ、恋愛はゆっくりとするべきなのだ。


 偶然仲良く話せたから、好きになったから、といっていきなり告白する奴はたいていフラれて、クラスからバカにされる。


 それなりのリスクを背負わないと、恋愛なんて上手くいかない。


 現実は残酷だ。


 ライトノベル、アニメのように理解のある生徒ばかりが教室にいて、美少女と仲良く話をしたり、イチャイチャしても優しく応援してくれるような環境だったら、俺も今頃は……。


 そう考えていると、今の状況…………かなり、恵まれている。


 朝日南は恋愛に意味はないと考え、俺が恋愛に憧れる理由を知りたいから恋人になってくれた。


 どのような理由であろうと、彼女は俺が望む恋愛を体験させてくれる。


 朝日南は俺が特徴的、魅力的だから選んでくれたようだが……本当にそうなのか。


 ただ扱いやすいモブキャラ以下の男子だから……という可能性もある。


 けど、今はそれでもいいと俺は思っている。


 朝日南が俺を選んでくれたのは事実だ。


 彼女はこちらの様子を見て楽しげに微笑んでいる。


 この笑みは本物だ。


 仕草も、言葉も……全てが本物だ。


 それを俺だけに見せてくれるのだから、とても嬉しいことだ。


 彼女は純粋に俺のことを好きなのかどうかは、まだわからない。


 それをはっきりさせないと、今の俺達は本当の恋人同士とは言えないだろう。


「商店街……朝日南はいつも寄るのか?」


「学校帰りに寄っても、特にすることないから家に帰るだけ……今は望月君という素敵な彼氏と一緒にいるから、楽しいよ」


「か、彼氏って……そんなハッキリと……」


「ふふ、照れてる。可愛い」


 朝日南はニコッと笑いながら俺の腕に抱きつく。


 相変わらず柔らかくて大きい胸が当たり、理性が乱される。


 甘い香りもなんだかいつもと違う…クリーム、チョコ、フルーツといったものが混ざっているような匂いだ。


「朝日南、シャンプーでも変えた?」


「あ、わかった?いつもは、みかんとか桃の香りなんだけど、変わった甘さのシャンプーに変えたんだ。どう?」


「と、とても大人っぽい甘さ……色気のある女の子みたいだ」


「ふふ、ありがとう。けど、この匂いは望月君専用だよ」


 彼女は俺の腕により強く抱きついて言うので、余計に意識してしまう。


 朝日南はそんな俺を見て、いつものようにクスクスと笑っている。


 俺は彼女の笑顔に弱いな……。

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