あざとさは、放課後のスパイス

 放課後になり、俺と朝日南は一緒に下校していた。


 夕日が海を照らしており、その光を背に歩く道はどこか鮮やかだった。


 俺は朝日南と歩きながら彼女の横顔を見る。


 落ち着いた表情、綺麗な青い目は海のように澄んでおり、見ているだけで心が落ち着く。


 彼女はそんな俺に気付いたのか、こちらに視線を向けて静かに微笑んだ。


「どうしたの、望月君。もしかして、夕日に照らされた私に見惚れていた?」


「な…………そ、そうだけど」


「素直だね。可愛い」


「か、可愛いとか…言われても……」


 顔に熱を帯びて、俺は手で顔を扇ぎながら、視線を逸らす。


 朝日南は相変わらず、クスっと笑って俺の様子を静かに見ている。


 なんだか、今日はからかわれてばかりだな。


 童貞男子の純情をからかうなんて……けど、そんなところも可愛い。


「あ、朝日南は俺をチョロい男だとか、思わないの?」


「ん?チョロい男には見えないよ。……どちらかと言えば、恋愛に憧れる女の子みたい」


「なんだよ、それ!?」


 男として見られていなかったのか!?


 なんだか、ショックだ。


 そんな俺を見ながら、彼女はより体を近づける。


「今だって、ほら……近づくだけで、こんなに顔を赤くする」


「ちょ……だ、誰かに見られたら……」


「この道、誰もいないよ。あまり目立たないところだから……それよりも、どうする?」


「な、なにを?」


「こんなに体を密着させた男女、暗い道……」


「お、落ち着け!?恋人同士になって初日だというのに、いきなり男女の営みは……」


 俺は慌てて、余計に顔を赤くしていた。


 けど、朝日南はクスっと笑って手を握ったのだ。


「え……」


 この状況で何をするかと心配していたが、まさかの手を握るだけだった。


 彼女の手は柔らかくて、とても暖かい。


 指は細くて、綺麗な手をしている。


 もし、恋人繋ぎをしていたら指が絡まって……。


 こちらも朝日南の手を握り、彼女に視線を向けた。


 すると、彼女は少し頬を赤くしながらもニコっと笑みを浮かべていた。


「ふふ、何を想像していたのかな?」


「べ、別に……何も……」


「男女の営みとか、エッチなこととか……考えていたでしょ」


「……体を近づけて、密着させられたら誰だって勘違いするって」


「そうかな?ほとんどのカップルは、こんぐらい近づいて手を繋いでいると思うけど」


「え、そうなのか?」


「さぁ、知らない」


「知らないんかい!!だったら、どうして……」


「それはね……」


 朝日南は顔を近づけて耳に囁いてきた。


 甘い香りだけじゃなく、彼女の息が耳に当たり……俺はドキッとする。


「望月君の鼓動を知りたかったから……どんな時に、どのようにドキドキしているのか……あなたが何を考えているのか」


「そ、そこまで詳しく知らなくても……」


「私に恋愛を教えてくれるんでしょ?恋愛って、お互いを知ることが大切なんじゃない?」


「た、たしかに……ライトノベルでも、主人公はヒロインのことを知って、仲良くしながら恋愛をしている」


「でしょ?だから、教えて。望月君の鼓動を……ね?」


 朝日南はニコっと笑い、肩に頭を乗せながら歩く。


 彼女の温もりが肩に伝わり、俺は顔を赤くしながらも前を向いた。


 お、落ち着け……お、俺達は恋人同士……手を繋いて、彼女に体を密着されるなんて、よくあること……。


 俺は深呼吸をして、心臓を落ち着かせる。


 けど、状況をより鮮明に理解したので、心が乱されるだけだった。


 そんな俺を見て、彼女はこちらの腕により強く抱きついてきた。


 本当に、こっちの気持ちも考えてくれ。


 ……まあ、柔らかい胸が当たって、嬉しいけど。


 俺は彼女の温もりを感じながら、一緒に下校するのであった。

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