昼休みにクリームを添えて

 授業を終えて、昼休み。


 学校の屋上で、俺と朝日南澪は昼食を食べていた。


 教室、食堂、だと他のクラスメイトに見られるかもしれないので、この場所しかなかったのだ。


 海から漂う潮の匂い……屋上だと、より強く感じる。


 俺は、クリームパンを食べながら隣に座っている朝日南を見る。


 彼女は購買のお弁当を丁寧に味わいながら、こちらにさりげなく視線を向けている。


 綺麗な髪は静かに風で揺れており、青い目は海のように澄んでいた。


 俺はそんな朝日南の綺麗な顔から視線を逸らして、クリームパンにかぶりつく。


「甘い……」


「美味しそうね。良かったら、私にあ~んして」


「ごほっ!?」


 朝日南の言葉に、俺はむせてしまう。


 たしかに恋人同士だったら、あ~んをするのは当たり前かもしれない。


 けど、いきなり……あ~んして、なんて言われたら驚くだろ。


「えっと…はい」


 俺はクリームパンを手で少しちぎって朝日南の口元に近づける。


 すると、彼女はニコっと微笑みながら体を近づける。


 桜色の唇はクリームパンに近づいていき、パクッと口に含む。


 彼女は美味しそうに目を細めながら、ゆっくりとクリームパンを味わう。


 その姿は、とても可愛いものだった。


 俺は彼女の姿に見惚れていると、朝日南がこちらに視線を向けていることに気付く。


「ありがとう、望月君。とても美味しかった……あ、手にクリーム付いてる」


「え、本当?どこに……」


「ここだよ」


 朝日南は俺の手を掴み、クリームが付いていた指をペロッと舐める。


 彼女の唇は柔らかくて、暖かくて……って、この状況はまずい!!


「あ、あのさ……こ、これ」


「ふふ、なんだか恋人らしくなってきたね」


「そ、そうだね……けど、落ち着かないと言うか……」


「私は落ち着いているよ。望月君、もっと恋人らしいこと……する?」


 朝日南は俺の肩に頭を乗せ、上目遣いでこちらを見る。


 その仕草はずるいだろ。


 今、屋上には俺達しかいない。


 だからといって、ここで恋愛の順序を履き違える程俺はバカじゃない。


「恋愛って、いうのはゆっくり段階を踏んでいくものだよ。いきなり今日、いろいろやったら……上手くいかないと思う」


「それもそうね。なら、ゆっくり恋愛を学ぼうね。望月君」


 朝日南は俺から少し離れて、お弁当の肉を取り、こちらに向ける。


「え?」


「ほら、あ~ん」


「あ、あーん……」


 俺は肉を食べる。


 すると、朝日南は嬉しそうな顔をした。


「彼女ぽいでしょ?こういうのは、お互いにやっていかないとね」


「そうだね……朝日南も恥ずかしくない?」


「私?……望月君の照れる顔見てたら、恥ずかしいと言う気持ちも無くなるかな」


「お、俺のせい?」


「ふふ」


 朝日南は楽しそうな笑みを浮かべて、海に視線を向けた。


 彼女の笑みは本物だ。


 恋愛に意味は無いと考えているはず……だというのに、そんな顔をしているのは……何故だ?


 もしかして、本当は彼女も俺と同様……恋愛に憧れていたんだろうか。


 何かしらの過去があって、もしくは現実を知って……恋愛どころか、青春を卑下するようになった。


 これは俺の勝手な予想だ。


 それに、朝日南との恋愛は、まだ始まったばかりだ。


 これから彼女のこと色々わかるかもしれない。


 全てを知った時、俺は何を思うのだろうか。

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