俺の彼女はトロピカルジュース

転生

恋は気まぐれ

 青春を彩るのは可愛い彼女だと考えている。


 友達と遊んだり、部活をすることよりも恋愛は優先されるべきだと考えている。


 ライトノベルの主人公だってそうじゃないか。


 可愛いヒロインとの出会いから、放課後一緒に帰ったり、部屋で一緒に過ごしたり…恋人同士になって、イチャラブ…そんな甘い日常に憧れている。


 夏祭りに彼女の浴衣を見て、ドキドキしながらも手をゆっくり繋いだり、花火を見ながらキスをしたり……


 青春を彩るのは可愛い彼女だと考えている。


 だから、俺はそんな甘々な恋愛がしたいんだ! なのに、それなのに……なぜ、俺、望月蒼もちづきあおは童貞なのか。


 中学の頃から、ライトノベル、アニメを見ていた。


 特に恋愛系………可愛いヒロインとのイチャラブな展開を夢見てきた。


 いつかこんな恋愛をしたい。


 けど、現実は残酷だ。


 小学校の頃から特に特徴が無く、中学では可愛い女子がいても相手にされない。


 容姿、テストの点数、運動神経、コミュ力……その全てにおいて平均以下だった。


 高校入学後、数週間が経過しているが、特に変わったことは無い。


 会話する相手もいないので、ライトノベルを読んでいるだけだ。


 まあ、いいけどね……どうせ、俺の青春は既に終わっているのだから。


 そんなことを考えながら、俺は窓から海を見て静かに呟く。


「青春って、なんだろうな」


「意味のないものだよ」


「そっかぁ、意味のないものかぁ……え?」


 ……誰だ?


 横を見ると、そこには美少女が座っていた。


 綺麗な赤茶色の髪は胸くらいまで伸びており、整った顔に青い目が特徴的だ。


 肌は白く透き通っており、桜色の唇……さらに、制服の上からでも分かる巨乳!!


 え、こんなに可愛い子……俺の隣にいたっけ。


 それに、なんだか心が落ち着かない。


 顔は赤くなっているかも………え、これ……恋?


「ん?どうかした?」


 彼女はきょとんと首を傾げてこちらに視線を向ける。


 どうやら、今の俺はかなり変な顔をしているらしい。


 俺は慌てて、平然を装う。


「あ、ああ……大丈夫……だよ」


「そう。さっきの話だけど、青春に意味はないよ」


「意味はない…それは、どういうことかな?」


「そのままの意味だよ。青春は、無意味なものだってこと」


 彼女は淡々と言う。


 俺は意味が分からず、彼女に問いかける。


「えっと……それはどういう意味なのかな?」


「言葉通りの意味だけど?友達、部活、恋愛…どれも、社会に役立つものじゃない。友達なんて、偶然価値観があった者同士で群がっているだけ。部活は恋愛は遊びよ。でも、それは悪いことじゃないわ。人は自由に過ごす権利があるし、自分らしく楽しむべきなのよ」


「でも…すべてを単なる遊びとして扱うのは違うんじゃないかな?友達や恋愛って、それぞれに大切な意味があると思う」


 朝日南は少し考え込んでから、穏やかな笑顔で応じた。


「あなたの言う通り、それぞれに大切な意味があるかもしれないわね。でも、私にとっては、その意味がわからないだけかもしれない」


 彼女の言うことはなんとなくわかる。


 誰もが意味を知っているはずなのに、自分だけはそれがわからない。


 けど……それでも、俺は………。


「俺にとっては、ライトノベルに描かれるような恋愛が憧れなんだ。もちろん、それは理想かもしれないけど、少なくとも俺にとっては、大切なことだ」


 俺の声には少しの熱が込められていたかもしれない。


 だって、朝日南は目を見開いてこちらに驚いたからだ。


 しばらくの沈黙の後、やがて彼女は微笑みながら口を開いた。


「そっか……あなたにとって、それだけ恋愛を大切にすることが、あなた自身の青春であり、自分らしく生きることなんだね」


「ああ」


「タイトル『幼馴染みとの恋愛は、最高だ!』のような恋がしたいと」


「……わざわざ読まなくても……」


 俺は顔を赤くしながら、静かにライトノベルを机に置いた。


 クラスメイトの女子に読んでいる本を見られるのは……かなり恥ずかしい。


「いつも君は本を読んでいるね。ライトノベル……特に恋愛かな」


「よ、良く見ているね」


「だって、クラスで読書をしている生徒……あなたしかいないから」


「え、そうなの?」


「ほとんどの生徒は、皆楽しく会話したり、スマホを見ている。けど、本を読んでいるのは望月君だけだよ」


 彼女は、俺に顔を近づける。


 青い目は、本当に綺麗だった。俺は恥ずかしくなり、視線を逸らす。


 甘い香りが漂い、彼女の匂いにドキッとする。


 というか、距離感凄いな……俺達、初対面だよね。


 こんなに可愛い女の子から顔を近づけられ、顔は先程よりも赤くなっていた。


「……お、俺みたいなどこにいるかもわからないモブキャラ以下を、見ているなんて……君は変わっているね」


「モブキャラ以下って……私から見たら、あなたは誰よりも特徴的だよ」


「俺が特徴的だったら、彼女くらいいるよ」


「むしろ、彼女がいない方が望月君は誰よりも特徴的だよ」


「え、それってどういう……」


「ねえ、望月君……君にとって、青春は魅力的なのかな?」


「……ああ……そうだけど」


「じゃあさ……私と、青春してみる?」


「……え?」


 何を言っているんだこの子は!?


 そんな簡単に言えることか?


 青春してみるって…先程まで青春に意味は無いとか言っていたくせに……どういうことだ。


「あなたは青春の中でも、特に恋愛を何よりも大切に考えている。けど、私は理解できない。だから、教えてほしいの」


「それって……」


 俺は彼女が何を言いたいのか、既に分かっていた。


 ドキドキしていた心は、余計に落ち着かない。


 彼女は俺に顔を近づけ、耳元で囁く。


「私と、形だけの恋人同士にならない?」


「……えええええ!?」


 ほとんど目立たない俺がいきなり声をあげたからか、クラスメイトは一こちらを向く。


 彼女は、そんなクラスメイトを気にせずにクスっと笑みを浮かべていた。


 なぜ、この状況で笑っていられるのか……。


「ど、どうして……いいのか、俺なんかと恋人同士になって……」


「もちろんだよ。そこまで恋愛を大切にしている望月君を見て、私もなんだか知りたくなってきた。それに………」


「そ、それに?」


「望月君はエッチなことよりも、恋愛に興味ある健全な男子でしょ?」


 いったい、どこからそこまでの信頼を得たのか……。


 俺だって、思春期の高校生男子だぞ……エッチなことだって、少しぐらいは考えたことある。


 まあ、そういうのは純粋な恋愛から成立するものだからな……エッチなことばかり考える変態男子とは、違う。


「も、もちろんだよ!!……えっと……俺さえ、よければ……よろしくお願いします」


「うん、よろしくね。私は朝日南澪。私に恋愛を教えてね、望月君」


「なっ!?」


 いきなり、下の名前で呼ばれたことに俺は驚く。


 あと、名前が可愛い。


 容姿、仕草だけじゃなく、名前まで可愛いとか……ラブコメのヒロインかよ。


 彼女はそんな俺の反応を見て、クスッと笑った。


 その笑顔は、とても可愛いものだった。


 これが……朝日南あさひなみおとの出会いだった。


 彼女との出会いが、俺の青春を変えることになるなんて……この時の俺は想像もしていなかっただろう。


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