第35話 さとるくんの最後

「うおおおおおおおおおお!」


影山とさとる、刀と剣がぶつかり合う。ガキンガキンと音を鳴らし、勢いはどんどん増していく。その実力は共に互角であった。


(このゴミカス!僕の剣についてこれてるだと…!)


戦闘力が2分の1になってるとは言え、全力のさとるの剣技に影山は対応していた。つばぜり合いになると、振りになると考えたさとるは刀を弾き、一旦距離をとった。


「幽術、雷巨大コマ回し!」


両手に力を込めて、さとるは5メートルほどの巨大なコマを形成し、撃ち放った。


(僕の大技の1つ!これをくらえばあのゴミも終わりだ…!)


影山は巨大なコマを刀で防ぐが、防ぎきれずコマは影山に直撃。バチバチと音を鳴らし、影山を感電させた。


「ハハ、終わったね!」


コマがクリティカルヒットし、勝利を確信するさとる。だが、影山は倒れず、刀を構えていた。そして、一気にさとるに接近し、さとるの胴体を切り裂いた。


「は?なんで…!」


さとるはダメージを感じつつも、切られた痛みより、攻撃をくらっておいて平気で動ける影山に驚いていた。影山は追撃でもう一閃振るうが、さとるは咄嗟に剣を作って防いだ。大ダメージをくらっているにも関わらず影山の攻撃は勢いは止まらず、鋭い目付きでさとるを追い詰めていく。


「何で倒れないんだよお前!」


「お前を倒すまで倒れるわけないだろ…!」


「しつこいんだよ!ゴミが!」


さとるは雷の腕で影山の顔面を殴り、そして、怯んだ影山の頭を雷の手で掴んだ。影山の頭部は雷の手でつかまれていることで雷による激痛が続く。さとるは右手に構えた雷の剣を影山に突き刺そうと構えた。


「死ね!」


剣をつき出すさとる。しかし、影山が剣を素手で受け止めた。手が雷で焼けるが、影山は気にしないで雷の剣を思い切り引っ張り、剣をぶん投げた。さらに、雷の腕を刀で切り裂き、一旦距離をとった。雷で頭も手も感電し、焼かれたというのに影山は倒れることなく、刀を構えてさとるを見ていた。


(何なんだよこいつ…!化物かよ…!)


優位な立場であるにも関わらず、さとるは恐怖を感じていた。その自身の感情に気づき、さとるは焦った。


(何でこんな雑魚に僕が動揺しないといけないんだよ!)


焦るさとる。そんなさとるの心情を気にすることなく、再び影山がさとるに近づき、刀を振るう。咄嗟にさとるは再び雷の剣を作り出し、攻撃を防いだ。刀と剣をぶつけ合いながら、さとるは影山を分析した。


(落ち着けよ僕。アイツは異常だが、実力的には僕の方が上だ。冷静に戦えば負けることはない)


そんなことを考え、ふと、さとるはあることに気づいた。


(こいつ、さっきから幽術を使ってない?僕の左腕を切り落としてから1度も使ってないよな?それって、つまり…)


1つの結論に達し、さとるはニヤッと笑った。その表情の変化に影山も気づいた。


「君さ、妖気をもうほぼ使いきってるんだよね?」


「…」


「図星かな?1本だたらとの戦い、僕の左腕を切り落としたこと、そして、あの女の傷を治したこと。あの傷を治す能力は君の妖武具の妖術だよね?」


影山はさとるの返答に対して答えることなく、刀を振るい続けるが、さとるは構わず話を続ける。


「傷を治す能力があるにも構わず、君は僕との戦いの最中幽術を使う様子もなければ、怪我を治す様子も見られない。つまり、君は強がって戦ってるけど、すでに満身創痍というわけだ」


「…それはどうかな?俺が実力を隠してるだけかもしれないぞ?」


「だったら、証明してみせてよ!」


さとるの妖気が一気に高まる。そして、さとるは思い切り剣を振るい、影山は刀で防ぐが、威力が強すぎて弾き飛ばされた。さとるは影山に追撃することなく、自身の妖気に集中した。


「幽術、巨大雷鉄砲の遊び…!」


さとるの背後に巨大な雷の手が現れ、さらに、雷の手の中に雷の銃が形成された。


「これが僕の最強の幽術だ!はったりじゃなかったら、お前も幽術で対抗してみろ!」


雷の銃が構えられる。影山は立ち上がり、逃げも隠れもせず、正面から刀を構えた。1本だたらやさとるとの戦いで全身ボロボロであるはずなのに、その姿は堂々としていた。そんな影山を見てさとるは少し怯みつつも目の前の敵を殺すために幽術に集中した。


「撃てええええええええええええ!!!」


銃から雷の弾丸が放たれた。影山は刀で雷の弾丸を受け止めた。


「やっぱり幽術は使えないな!僕の勝ちだ!」


雷の弾丸は爆発し、巨大な雷の衝撃波が影山を襲った。凄まじい威力の衝撃波で周りの地面は砕かれ、その余波は学校にまでおよび、学校の一部をも破壊した。


「ハハ、流石に死んだな。あのゴミカスも…!」


妖気をかなり消耗し、さとるはその場に跪いた。衝撃波によって周りに粉塵が舞い、見えない周囲の中でさとるは勝利に酔っていた。


「ああ、久しぶりだこの感覚。ムカつくやつを殺せたときの爽快感。たまんないよ…!」


さとるはチラッとベンチで横になっている冬野を見てフッと笑った。


「あの娘も殺して遊びたかったけど、もうそれどころじゃない。早く逃げないと花子が来る。こんな状態じゃ勝てないからね…」


さとるは何とか立ち上がり、歩こうとすると、突然後ろから気配を感じ、咄嗟に振り向いた。そこにはいるはずもない、さっきまで戦っていた少年が立っていた。全身血塗れで、立ってるのが不思議なくらいであった。


「は…?何で生きてるんだよ…?」


「こんなところで死んでられないからな」


「ば、化物が…!」


「それと、はったりじゃないよ。俺にはまだ幽術を使える余力はある。お前を倒すための一撃分はな…!」


影山は刀を構えた。その動作にさとるは今までに感じたことがない、とてつもない恐怖と、そして死を直感で予感した。さとるは「ひ、ひぃ、助けて…!」と命乞いするが、影山は無視した。


「幽術、貫通の大槍!」


風の大槍がさとるの胴体を貫いた。貫かれたさとるは吐血し、力尽きてその場に倒れた。


「この僕が、こんな雑魚のゴミに負けるなんて…!」


さとるの体が徐々に消滅していく。妖気をほぼ使い果たした影山は体に力が入らず、その場に倒れた。


「はぁ、はぁ、勝てた…!代行に…!」


「…ハハ、勝てて喜んでるみたいだけど、僕なんかまだ弱い方だからね?」


「あ?」


「僕の実力は代行の中でも5番目。下から数えた方が早いくらいだ」


「…何でそんなこと教えてくれるんだ?」


「だって、苦労して殺した妖怪が雑魚の方だって知った方が絶望するでしょ?」


「別に。俺がお前以上に強くなればいいだけの話だ」


「…ホント、最後まで面白くないやつ…」


さとるは目を閉じた。下半身は完全に消滅し、あと数秒で完全に消滅するであろうさとるは最後に自分の慕っていたあの方のことを思っていた。


「申し訳ありません。必ずや妖怪の国の実現をどうかお願いします」


「妖怪の国…?」


「へへ、僕たちの目的だよ」


そう言い残し、さとるは完全に消滅した。


「巡礼者の目的は、妖怪の国を造ること…?」


そう口にした瞬間、影山の意識が遠退き始めた。


「まずい、妖気の使いすぎで意識が…」


遠退く意識の中で影山が最後に見たのは冬野であった。そして、影山は完全に意識を失い、倒れた。



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