第1章 第7話 倒れない男
第34話 冬野vsさとるくん
先に動いたのは冬野であった。今ある全力の力でさとるの目の前まで一瞬で移動し、氷の刀で切りかかった。しかし、さとるは避けて、冬野の背後に立っていた。
「遅いね」
さとるは冬野を蹴り飛ばし、両手に妖気を集中させた。
「幽術、雷ベーゴマ遊び」
両手に形成された雷のコマが冬野に向かって放たれた。
「幽術、白夜壁!」
冬野は咄嗟に氷の壁を出すが、壁は崩され、コマは冬野に直撃し、感電させた。
「あ、ぐゃ…!」
声にならない感電による激痛が冬野に生じる。体勢を崩し、地面に膝を付く冬野。その目の前にさとるが近づき、冬野の顔面を蹴り飛ばした。
「ほらほら!反撃してみてよ!」
地面に倒れる冬野を連続で蹴飛ばすさとる。冬野は何とか耐えながら、さとるの足元に目を付けた。
「幽術、白刺氷殺!」
さとるの足元から氷のトゲが生えるが、さとるは飛び上がり、トゲを避けた。だが、ここまでの行動は冬野も読めていた。
「幽術、氷柱殺し!」
飛び上がったさとるの頭上に氷柱を複数展開させ、一気に落とした。空中で身動き取れないさとるは甘んじて氷柱の攻撃を手でガードし受け止めた。
「この程度の攻撃大したことはないよ」
空中でガードしたさとるには大ダメージにはならず、かすり傷程度しかダメージは入っていなかった。しかし、冬野の狙いはそこではなかった。地面にさとるが着地する寸前。冬野は居合の構えで素早く動いた。
「幽術、滅夜・塵氷…!」
冬野はさとるを切り裂いた。さとるの胴体には刀で切られた傷ができ、そして、全身が凍りついた。そのまま、地面に着地したさとるは動かなくなった。冬野はその場で跪き、息を荒くしていた。
「はぁ、はぁ、大技2回使えば体力も限界だね…」
冬野は山姥との連戦で限界が近かった。冬野に残っている妖気はもう1割ほどであり、これ以上の幽術の使用は命に関わるレベルである。かろうじて氷の刀はまだ使えるが、それ以外の幽術はもうしばらく使えない。
(早く、さとるくんを倒さないと…!)
体を無理矢理動かし、凍ったさとるを切ろうする冬野。すると、さとるの眼球が動き、次にさとるの全身が動いた。
「んー、いい攻撃だね。なかなかに効いたよ」
さとるは雷の刃を再び取りだし、冬野に切りかかった。冬野は咄嗟に氷の刀で防いだ。しかし、さとるの力の方が強く、どんどん押されていく。
「もう妖気も限界かな?」
さとるは雷の剣を連続で振るい、冬野は何とか防ぐが、その勢いに耐えられず、刀を弾き飛ばされてしまった。
「氷の刀、もう作れる妖気残ってないよね?」
さとるは冬野を蹴り飛ばした。冬野は地面を転がり、立ち上がろうとするが、さとるが、冬野の肩を踏んで阻止した。
「もう少し楽しめるかなあと思ったけど、山姥との戦いで大分消耗しちゃったんだね」
「足、避けてくれないかな?痛いんだけど?」
「ん?あー、足ねえ…」
ニヤッとさとるは笑った。そして、足に力を込めて、踏みつけた。ボキッと骨が折れる音がした。
「…!!」
声にならない悲鳴。肩の骨を折られ、冬野は激痛に耐える。その苦悶の表情を見てさとるの愉悦に浸っていた。
「ああ、いいねその表情…。痛みに必死に耐えているその顔。最高にいいよ…」
「…何それ?なかなかの変態だね君…」
「そうだよ。人が苦しむところを見るのが好きなんだ僕は。だから、君にはもっと苦しんで欲しいんだよ!」
さとるは冬野の折れた方の腕を無理矢理持ち上げた。とてつもない痛みが冬野の全身に走り、冬野は「あああ!!」と声をあげた。今まで味わったことがない激痛に涙が出てくる。その様子を見て、さとるは腕を離し、今度は冬野の右足を踏みつけへし折った。
(痛い…!もう嫌…!)
足と肩を折られ、冬野の精神はもう限界であった。過呼吸となり、意識は遠退いていく。しかし、意識が途切れそうになると、さとるは折れた箇所を踏みつけ、冬野を無理矢理覚醒させた。人に苦痛を与え続ける手段をさとるは熟知していた。
「ああ、最高だ!そろそろ壊しちゃうか?待て待てまだ楽しめる!まだ、壊しちゃダメだ。ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ!うう、たまんないいいいいい!!」
体を小刻みに動かし、口から唾液を垂れ流すさとる。その姿は狂喜に満ちていた。
(イカれてるこいつ…!)
さとるの様子を見て冬野は恐怖で震えた。体は震え、おぞましいものを見る目でさとるを見た。
「やっと、僕の怖さを理解したかな?それじゃ、場所を変えよう!僕の部屋で体をバラバラにしてあげるからさー!」
さとるは冬野の折れた肩の方の腕を掴んで、引きずって学校に向かった。冬野は「嫌あああああ!!」と叫び、その様子は普段の明るい冬野の姿はなかった。その表情は恐怖と絶望に満ちた泣き顔であった。
(助けて、助けて影山くん…!)
痛みに耐えながら、死ぬかもしれないと恐怖しながら、脳裏に浮かんだのは影山の顔だった。
「アハハハハハハ!!」
冬野の叫びとさとるの笑い声が静かな校舎に響き渡る。意識が遠くなる中で、冬野の目に写ったのは屋上から飛び降りて、目の前の敵に刀を振るう最愛の少年の姿だった。
「幽術、分断の大嵐刃!」
高らかに笑っていたさとるの左腕が切断された。突然の出来事で、さとるは最初腕が切られたことに気づけなかった。徐々に襲いくる左からの痛みでなくなった左腕を見てさとるは目を見開いた。
「は?は?僕の腕が、腕があああ!?」
さとるが動揺していると、頭上から降りてきた影山がさとるの顔面を蹴り飛ばした。さとるは何度も地面を転がり、学校の壁に激突した。そんなさとるを気にせず、影山は地面に倒れている冬野を抱き起こした。
「かげ、やまくん…?」
「ごめん、遅くなった…」
冬野は自身の体に痛みがないことに気づいた。抱き起こすのと同時に影山は妖術で冬野の傷を全て治していた。
「もう大丈夫。冬野は休んでて」
「うん。ありがとう。来てくれるって信じてたよ」
冬野は涙を流し、影山に抱きついた。影山も冬野を抱き締め返した。
「怖い思いさせてごめん。後は俺が終わらせるから…!」
影山は冬野を抱え、近くにあったベンチに横にした。安心した冬野はその場で気を失ってしまった。影山は心配して「冬野?」と呟くが、息をして眠っているだけなことを確認し、安心した。そして、さとるをぶっ飛ばした方向を見ると、左腕を失くしたさとるが怒りの表情で近づいてきていた。
「やってくれたねえ!よくも僕の腕を…!」
「俺のこと忘れてたのか?隙だらけだったから思わず切っちゃったよ」
「1本だたらに殺されたのこと思ったけど、妖気を小さくしてコソコソしてたとはね!ゴミがしょうもないことしやがって…!」
「そのしょうもないことで油断して腕切られてるんだから笑えるよな?」
影山の挑発に、さとるの表情がより険しくなる。
「あ?調子に乗るなよゴミ?腕の1本なくてもお前を殺すのに苦労しないんだよ!」
さとるの切断された左腕から雷の腕が生えてきた。その腕は激しくバチバチと音を鳴らし、さとるの怒りに呼応して雷が揺らいでいた。
「お前はただで殺さないぞ。バラバラにするだけじゃたりない。たっぷり拷問して、地獄の苦しみを与えてから殺す!」
「やってみろよ。お前みたいな変態野郎に簡単にやられると思うなよ!」
影山とさとるは互いに走りだした。さとるは雷の剣を作り出し、影山は刀を構えた。刀と剣がぶつかり合う。
「殺してやる!殺してやるぞおおおおお!」
静かな校舎にその怒号は響き渡った。
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