第33話 山姥
山姥。
山奥に住む老女の妖怪。数多くの伝承があり、基本的には人を食らうという話が多い。また、別の話では美女だったりと言われることもあるが、結局は人を襲うという。
「きえええええ!!!」
トイレにて、冬野は山姥と戦闘をしていた。山姥はがむしゃらに包丁を振り回し、それを冬野は刀で弾いていた。
「もう、うるさいよ!」
冬野は氷の刀を大きく振って、山姥をトイレの外までぶっ飛ばした。そして、刀を前に突き出した。
「幽術、氷弾」
バレーボールサイズの氷の塊を作り出し、それを撃ち放った。塊は山姥に直撃し、壁を突き破って外までぶっ飛ばした。
「効かぬはこんなものおおお!」
そう叫ぶ山姥の顔面は血塗れだった。
「いやいや、効いてるじゃん…」
呆れながら冬野は外にでて、叫ぶ山姥にツッコミを入れた。
「小娘の攻撃なんぞ、この婆にはかすり傷よ」
「強がってるけど、足が震えてるよおばあちゃん」
「黙れえい!若造!」
山姥は包丁を構えた。
「幽術、三惨風切!」
素早く包丁を振り回し、3つの風の刃が冬野に向かって放たれた。
「幽術、白夜壁」
冬野の目の前に氷の壁が展開し、風の刃を防いだ。風の刃の衝撃で氷の壁は崩れ、冬野は後退したが、氷の壁の先から山姥が飛び出してきた。
「しねええええええええ!」
山姥のがむしゃらの攻撃。素早く動く包丁捌きに冬野は刀で防ぐが、防ぎきれない斬撃が腕、頬を徐々に切りさいていく。
(さっきより攻撃の早さが上がってる…!怒りでヒートアップしてるのかな…!)
素早い攻撃に耐えられなくなってきている冬野は山姥と一旦距離を取ることに決めた。
「幽術、白刺氷殺」
冬野が勢いよく、足元を踏むと冬野の足先の地面から数本の氷のトゲが生えて、山姥を串刺しにした。山姥が動けなくてなっている隙に冬野は後退して次の攻撃の準備をする。
「幽術、氷霊波!」
水の斬撃を山姥に放ち、さらに凍りつかせる冬野。追撃の氷霊波を放とうとするが、山姥は無理矢理体を動かし、氷を砕いて突撃してきた。
「きえええええ!!!」
「はや…!」
山姥は包丁を前に突き出した。冬野は完全に避けきれず、左脇腹を切り裂かれた。冬野は山姥を切り裂こうと刀を振るうが、山姥は避けて後退した。
「ひひひ、ようやく体が暖まってきたわ!」
山姥はひひひと笑いながら、冬野の血液が付着した包丁を舐めた。冬野は脇腹を押さえながら、山姥を睨み付けた。
「おお、怖い!でも、ドクドクと血が出て大分痛そうだねえ」
「こんなの、全然平気ですけど?」
「ひひひ、強がりだねえ。そんなに血が出て平気なわけないだろう?」
「…」
実際平気ではなかった。平静を保つのが精一杯なほど、冬野は痛みに耐えていた。しかし、ここで倒れるわけにはいかない。その信念で冬野は立っていた。
「ひひひ、強がりだねえ。そんなお前さんの肉はさぞ旨いんだろうねえ」
血液はすでに付いていないのに、山姥は包丁をペロペロと愉快そうに舐めていた。
(まずは、止血だね)
冬野は脇腹の損傷箇所を凍らせて止血した。しかし、痛みはなくならず、一時しのぎでしかなかった。
「氷で傷を塞いだね。器用な能力よ。ひひ、じゃあ次はそのめんこい顔に穴でも空けてやろうかねえ!」
山姥は飛び上がり、包丁を振り上げた。
「幽術、人食風!」
風でできたトゲが冬野に向かって降り注ぐ、冬野はダッシュで避けて、刀を構えた。
「幽術、氷弾!」
氷の弾を放つが、山姥は「効かんわ!」と言い、氷を包丁で砕き落とした。山姥は猪突猛進で冬野に向かってやってくる。
「幽術、氷霊波!」
「幽術、肉切包丁!」
冬野が放った水の刃を山姥は包丁に纏わせた風の刃で切り裂いた。山姥は包丁を振るい、冬野は刀で受け止めた。ガキン、ガキンと鳴らし、互いに刀と包丁をぶつけ合った。
「ほれほれほれほれほれほれほれ!!!」
包丁による連続攻撃。冬野は耐えきれず、足もとに再び幽術を放つ。
「幽術、白刺氷殺!」
「もう効かぬわそんなもん!」
山姥は飛び上がり、氷のトゲを避けた。そして、冬野の顔面を蹴り飛ばし、その威力で冬野は数メートル地面を転がった。
「いったあ…!」
顔面を蹴られ、冬野の鼻から鼻血が出ていた。怯んだ冬野に山姥は幽術の三惨風切を放っていた。冬野は刀で受け止めるが、一枚の刃が冬野の肩を切り裂いた。
「痛い。またやられた…!」
山姥による怒涛の攻撃。冬野は完全に押されていた。
(今ある私の技じゃあのおばあちゃんには勝てない。でも、私の幽術はほとんど使っちゃってる…)
今までの人生において、冬野がここまで全力で戦闘をしたのは生まれて初めてだった。ちょっとした妖怪退治や滅幽会を追い払う程度のことをしてきたことはあるが、自分と同じくらい、または、格上と戦闘をする機会は今までになかった。
(もっと本気で戦わないと勝てない。こんなところで負けてたら、影山くんを助けにいけない!)
冬野は立ち上がる。そして、刀を構えた。
「私は、お前を倒す!」
「ひひ、やってみろ!」
冬野と山姥が互いに走りだし、刀と包丁がぶつかり合った。ガキンガキンと音を鳴らし、互いに武器を振っていた。
「おおおおおおお!!!」
冬野は叫び、刀を全力で振るった。そして、妖気を高め刀に力を込めた。
(この娘、威力がどんどん増している…!)
冬野の攻撃は勢いを増していく。大きく刀を振り、山姥を弾き飛ばした。山姥が体勢を直し、冬野を見ると、冬野は居合切りをするような、ポーズをしていた。
「幽術、滅夜・塵氷…」
冬野は山姥の目の前から消えた。山姥は「何処へいった!?」と言って振り向くと、そこには冬野が立っていた。「そこかあ!」と山姥が走り出そうとしたその瞬間。山姥は全身が凍りついた。そして、そのまま動かなくなった。
「私の新しい技。全力の早さで切り、そして、魂をも凍らせる斬撃。…切られたことにも気づけなかったでしょ?」
凍った山姥の懐には刀で切られた傷があった。冬野は凍った山姥に近づき、刀を横に一閃。山姥は上半身と下半身が分かれ、上半身だけが地面に倒れた。
「ま、さか、わしが、負け、る、なんて…」
「ありがとう。おかげで、私は強くなれた」
「小娘が、お前なんか、さとる様に、消されてしまえ、ひひひ…」
山姥はそれだけ言い残し、消滅していった。山姥を倒し、気が抜けた冬野はその場に座り込んだ。
「あー、よかったあ。勝てた…!」
勝利した冬野。次の目的として影山と合流しようと、立ち上がるが、目の前には1人の少年が立っていた。
「おお、山姥を倒したんだ。結構やるね、君!」
「さとるくん…!」
にこやかな表情で冬野の前に立つさとる。山姥を倒したばかりで体力を消耗している冬野にとって絶望的な状況であった。
「嬉しそうだけど、あなたの部下私が倒しちゃったけど?」
「それで?あんなババア消えたところでなんとも思わないよ」
さとるは淡々と答えて、話を続けた。
「幹部になれなかったただの雑魚たちだよ山姥も1本だたらも。あいつらの変えなんていくらでもなんとでもなるしね」
「そう。なかなかの悪役だね。君」
「まあね。さて、話は終わりでいいかな?わざわざ話だけをしに来たわけじゃないことくらいはわかってるよね?」
「まあね」
冬野は刀を構えた。そんな必死になっている冬野の姿を見てさとるは愉快そうに笑った。
「じゃあ戦おうか。君がぐちゃぐちゃになるまでさ!」
冬野とさとるの戦いが始まった。
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