第32話 1本だたら
1本だたら。
熊野地方の山奥に住んでいると言われる妖怪。雪の山中で、大きな一つだけの足跡が目撃されると言われている。姿を目撃したという話は聞かれないが、大きな口に一つ目、1本足の獣のような存在として伝承されている。また、普段はおとなしいが、果ての20日(旧暦の12月20日)には人を食べるという言い伝えも残っている。
トイレから外までぶっ飛ばされた影山はグランドにて1本だたらと戦っていた。影山は刀を振るい、1本だたらは幽術で固めた岩の拳で刀を防いだ。
(さっき、遠くで大きな音がなってたけど、冬野も戦闘してるのか?)
大きな音というのは数分前に花子とさとるの戦闘で生じた音である。その音源を影山は気にしていた。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
1本だたらは拳でラッシュをしかける。影山は刀で丁寧に防いでいった。
「もう、ぶん殴らせてよおー!」
「そう簡単にはいかないっての!」
影山は刀で1本だたらの拳を弾き、刀を前に突き出した。
「幽術、三突の風槍!」
影山の周囲に3本の風の槍が形成され、放たれた。槍は1本だたらに直撃する。しかし、威力で数メートル後退したが、1本だたらは耐えた。
「くそおおおお、痛いぞー!」
「その割には大したダメージになってなさそうだけどな」
実質無傷な1本だたらを見てそう呟く影山。1本だたらは跳び跳ねて、影山に向かって拳を振り上げた。
「幽術、岩突拳!」
岩の拳で殴りにかかる1本だたら。影山は避けて、刀を構えた。
「幽術、切裂の大風!」
影山は刀を振るい、風の刃を放った。向かってくる風の刃に1本だたらは腕でガードした。刃は1本だたらに直撃し、1本だたらの腕を切り裂き、流血させた。
「痛い痛いー!よくもやったなあ!」
「切裂の大風くらって痛い程度か…なかなかに頑丈なやつだな」
「そう!僕は頑丈が取り柄だからね!」
「ホント元気なやつだな!」
影山は刀を振るい、1本だたらは拳で受け止めた。影山は連続で刀を振るい、1本だたらも拳で反撃する。ガキンガキンと音をならし、互いに刀と拳の攻防を続ける。
「オラオラオラオラ!!!」
どんどん1本だたらのラッシュは早くなる。影山は防ぎ切れず、1本だたらの岩の拳を顔面にもろにくらってしまった。
(が、なんて威力…!)
頭が割れるような痛み。頭から大量の血が流血する。怯んだ影山を1本だたらはさらに追撃で拳を影山に叩き込み、ぶっ飛ばした。影山は地面を転がり、倒れた。
「死ね死ねー!アハハ!」
1本だたらは両手を合わせて、前に突き出した。
「幽術、岩石砕震槌!」
1本だたらの両手が巨大な岩のハンマーとなり、1本だたらは飛び上がり、倒れた影山に向かってハンマーを振り下ろした。
「潰れろー!」
「幽術、弾き風!」
影山は自身の付近で風を爆発させ、ハンマーを避けた。ハンマーは地面を粉砕した。
「ありゃあ、外しちゃったよ!」
1本だたらは腕のハンマー状態を解除し、影山の方を見た。影山はなんとか立ち上がり、刀を構えた。
(頭がずきずきするが、致命傷じゃない。傷を妖術で治してもいいが、ここで妖気を消耗したくない)
ペース配分。その事を影山は意識していた。というのも、目の前の1本だたらを全力で戦って倒したとしても、その後にさとると戦う可能性が十分に高い。そのため、ある程度妖気を残して戦わないといけないのである。
(くそ、相手は全力で戦えるのに俺は手加減して戦わないといけないなんて、理不尽だろこれ…!)
全力で戦えない悔しさを感じつつも、影山は1本だたらと対峙した。
「なあ、お前、1本だたらって言ったか?」
「うん。そだよー」
「お前、なんでさとるくんの部下になってるんだ?」
正直なところこの質問に意図はない。影山の妖気を少しでも回復させるための時間稼ぎである。そんな意図を知らない1本だたらは気にしないで話す。
「なんでって、人をいっぱい殺せるからだよー!」
1本だたらは嬉々として話した。影山が考えうる予想の中で最悪な回答であったが、1本だたらのその様子に悪意はなく、純粋な気持ちであった。
「たくさん殺せばほめてもらえるし、僕も強くなれるし、良いことしかないからねえ!」
「そっか。じゃあお前みたいなくそ野郎は遠慮なく切れるな!」
痛みに少しずつ慣れてきた影山は1本だたらに近づき、刀を振るうが、拳で受け止められた。そして、1本だたらはニタッと笑った。
「僕わかってるよ。さとると戦うのに僕とは手加減して戦ってるんだよね?」
1本だたらは拳で攻撃し、影山は刀で防いだ。1本だたらは連続で拳を叩き込み続ける。
「弱いやつを殴るのは楽しいね!楽しいね!本気で戦えないやつを殴るの楽しいね!楽しいね!」
拳はどんどん威力が増していく。影山は防ぎ切れず、殴られぶっと飛ばされた。
「最初の勢いなくなってるね!もう殺してもいい?」
ニタニタと1本だたらは笑っている。地面に倒れている影山はただ黙っていた。「もう殺すねー」と言って1本だたらは再び両手を合わせた。
「幽術、岩石砕震槌!」
影山目掛けて岩のハンマーが振り下ろされる。凄まじい威力で地面は砕けた。
「アハハ。死んだ!死んだ!」
ハンマーを解除し、1本だたらは笑った。すると、突然背中が切られた。何が起きたか分からず、とりあえず振り向くとそこには影山が立っていた。
「もうムカついた。本気で戦うから」
そう言う影山の額には傷がなかった。自身に妖術で全身の傷を治していた。
「お前、なんで傷がない…」
1本だたらが言いかけている途中で、先ほどよりも早く影山は1本だたらに近づき、胴体を切り裂いた。
「な、はやすぎ…!」
影山は追撃でもう一度切り裂き、刀を上に振り上げた。
「幽術、分断の大嵐刃」
影山が刀を振るうと巨大な風の刃が発生し、1本だたらに向かって放たれた。1本だたらは拳で防ぐが、強い攻撃力になすすべなく、弾きとなされた。腕は切断されていないが、かなりの深い傷をおっていた。
「痛い!痛いよおおおおおおお!!」
叫ぶ1本だたら。しかし、影山は容赦なく追撃を叩き込んだ。
「幽術、貫通の大槍!」
巨大な風の槍が影山の刀から放たれ、1本だたらの胴体を貫いた。
「ごば、へ?何が起きて…?」
吐血し、自分の胴体が貫かれたことに唖然とする1本だたら。影山は1本だたらの懐に一気に近づき、横に一閃切り裂いた。1本だたらの胴体に深い傷を与え、1本だたらは力尽きて倒れた。
「血が、血が止まんないよおお!」
1本だたらの体が徐々に消滅していく。影山の勝利であった。
「はぁ、はぁ、どうだデカブツ。俺が本気出したらお前なんて楽勝だよ」
「嫌だあ!死にたくないよお!」
泣き叫ぶ1本だたら。しかし、消滅は終わらず、最後には塵となって消えていった。
「勝てたけど、妖気を使いすぎたな…」
大技の連続使用。そして、普段本気で体を動かさないため、反動が来ていた。そのため、体が重く感じられた。
「少し休まないと幽術も妖術も使えない。だけど…」
影山は自身の安全よりも冬野の心配をしていた。
「冬野、大丈夫なのか?」
影山は無理矢理にでも体を動かし、冬野のもとへと急いで向かった。
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