第30話 桁違いだね

さとるくんは1人校舎の中を歩き、目的の場所である2階トイレにたどり着いた。そして、トイレの扉を開くと、そこには花子の姿があった。


「へえー、僕がもう一回張った結界をもう破って来たんだ。流石は6英雄と言ったところだね」


「たく、1分もかかったよあんたの結界を破るの。それに、この世界にはいる時にトイレの場所もずらしてさ、めんどくさいことしてくれるね」


「それだけ君が厄介ということだよ」


硬度を上げて結界を作ったさとるくんは、1時間は花子の侵入を防げるだろうと予測していた。しかし、実際には1分で破壊され、あまりにも予想外であった。


(僕が考える以上に桁外れということか…)


そう考えるさとるくんは心のどこかでワクワクする気持ちがあった。


「すぐにあんたをボコボコにしてもいいんだけどさ。その前に質問させてよ」


「何かな?」


「巡礼者は今どこにいるの?」


「さっきの男にも言ったけど教えるわけないだろ。教えて僕に何のメリットがあるわけ?」


「メリットならあるよ。素直に話してくれたらあたしのボコボコタイムが短くなるっていうね」


「へー、そんな特典いらないかなあ」


余裕そうに返答するさとる。その態度に若干の不快感を感じつつ、花子は質問を続けた。


「じゃあ、もう一つ質問。巡礼者代行は全員で何人いるの?」


「それは知らない。もっと上の立場にならないと人数なんて把握してないし」


「上の立場?」


「おっと口を滑らすぎたか。ともかく、これ以上はしゃべれないよ」


「もう少し情報を絞り出したかったけど、この先はボコボコにして話す気になってもらってからにしようかな」


花子は構える。そして、目の前の敵に集中した。対して、さとるも余裕のある表情を消した。そして、先に動いたのはさとるの方だった。


「幽術、雷ベーゴマ遊び」


さとるの両手から雷でできた1メートルほどの大きさのコマのような物が形成される。そのコマは回転して花子めがけて放たれた。コマを避けるため花子はトイレからでて、コマを避けるが、コマは花子を追尾してきた。


(なるほど。対象に当たるまで消えない攻撃か)


避けても無駄と考えた花子は追尾してくるコマと対峙した。


「幽術、流壁」


花子の目の前に水の壁が形成される。雷のコマは水の壁に衝突し、消え去った。そして、水の壁が消えるのと同時に、さとるが花子に向かって一気に近づいてきていた。


「幽術、雷チャンバラ遊び!」


さとるの右手に雷の剣が形成され、雷の斬撃を一閃。花子は避けて、カウンターの回し蹴りをさとるの胴体に叩き込み、弾き飛ばした。さとるは壁に激突し、床に倒れそうになるが、なんとか持ちこたえた。その様子を花子はジッと見ていた。


(なんか違和感。手加減されてるって感じじゃないけど…)


そう花子が考えていると、さとるが一瞬で花子に近づき、雷の剣を振るう。連続で剣の攻撃は続き、花子は避けてさとるを分析していた。


(全力で戦いにきてるけど、あたしに勝てないのを承知の上で戦ってるのか?だったら何のために戦って…)


そう考えていると、少し油断した花子が雷の剣の斬撃を腕にかすった。その一瞬の怯みをさとるは見逃さず、追撃の斬撃を縦に振るうが、その剣を花子は鷲掴みした。


「その程度の攻撃、大したことないよ」


掴んだ手の平が雷で焼けるが、その事を構うことなく花子はさとるの胴体に拳を叩き込んだ。「おえっ」とさとるは唾液を吐き出し、その場に跪いた。


「へへ、いい威力だ」


「何あんた?攻撃くらって喜んで。ドM?」


「ドMでもなんでもいいよ。さ、もっと君の強さを見せてよ!」


雷の剣を凪払い、さとるは立ち上がり、再び連続で攻撃する。花子は避けて、さとるを蹴り飛ばし、目の前に手を突き出した。


「幽術、爆水砲撃」


花子の手にバスケットボールくらいの水の塊が形成され、放たれた。水の塊はさとるに直撃し、爆発した。さとるはその威力で吹き飛び、壁を突き破って外まで飛ばされ、そのまま地面へと落下した。


(なんて威力、あの方が一目置くだけはあるな)


地面に倒れ、ふらふら立ち上がろうとすると、目の前にはすでに花子が立っていた。


「何となく、わかってきたよ。あんたのこと」


「へー、何の話?」


「最初は手加減して戦ってるかなと思ったよ。弱すぎるから。でも、違う。本当に全力で戦いにきてるんだよ。今の実力で」


(バレたね…)


今の実力。その言葉を聞いてからさとるの狙いが見抜かれたとさとるは察した。


「あたしが思うにあんた、本体じゃないでしょ?だから本来の力が出せてない。でも、あんたにとってはそれでいいんだよね。目的はあたしに勝つことじゃないから」


「へへ、もうわかってるみたいだね。そうだよ、最初から君に勝とうなんて思ってない。僕の目的は君の実力・能力を知ること」


さとるは立ち上がり、幽術で再び雷の剣を生成した。


「あの方は君のこと知りたがってるよ。どうしてかな?君とあの方の間に何があったの?教えてよ?」


「何がって、あたしがあいつをボコボコにしたことがあるだけよ。ただ、それだけ。まあ、あの時は逃げられちゃったけど」


「あの方が君に負けたってこと?へー、そうなんだ」


「さて、おしゃべりはもういいね。あんたの正体も目的もわかったし、もう終わらせるから」


花子はふぅと息をつく。そして、集中し構えると先ほどまでとは異なる目つきに変わった。


(雰囲気が変わった…?)


そうさとるが思った瞬間。さとるは避ける隙もなく顔面を殴られ、そして、凄まじい早さで胴を蹴られた。


(なんだこの速さ!避けられない!)


花子は連続で顔面、胴体を殴り続ける。そして、回り蹴りをさとるの胴体に叩き込み、蹴り飛ばした。数回地面を転がり、立ち上がろうとすると顔面を蹴られ、さとるは地面を転がった。


「容赦なさ過ぎだろ…!」


怒涛の連続攻撃にさとるから余裕そうな態度はなくなっていた。


「幽術、雷ベーゴマ遊び!」


さとるは雷のコマを花子に向かって放った。だが、花子は雷のコマを気にすることなく、コマを手で払いのけて消し去った。


「おいおい。ダメージなしかよ!」


雷を手に受けても平然としている花子。さとるの叫びを気にすることなく、花子は手を前に突き出した。


「幽術、十六連・爆水砲撃」


花子の手の前に水の塊が形成され、放たれた。その水の塊はマシンガンのように16回連続で放たれ続ける。さとるは立ち上がる気力もなく、腕でガードした。その怒涛の威力にさとるは「ああああああああああ!!!」と叫びながら耐えた。攻撃が終わる頃にはさとるは力尽き、倒れていた。


「某漫画でグミ撃ちは負けフラグみたいな風潮があるけど、普通に強技だよねー。やっぱ弾幕って最強だわ」


倒れているさとるに向かって話す花子。対して、さとるは足先から徐々に塵となって消えてきていた。


「はは、君、僕のこと本体じゃないって言ってたけど、ちゃんと本体なんだよ僕」


「じゃあなんで弱いわけ?こんな巨大な空間作れるようなやつがこんな簡単にやられるとは思えないけど」


「それは僕の妖術の制約のせいさ。僕は僕を呼び出した人の数だけ存在することができる能力を持つ」


「つまり、意図しない分身を作り出す能力ってこと?」


「そう。今回この世界に入ってきた人数分僕は分身を作ることになる。今君が1人連れてったから今の僕は2人。デメリットとして厄介なことに分身を作ることで実力も半分になってしまうけど」


「なるほどね。だから、あんたは弱体化してたのね」


「まあ、メリットもあるよ。こうして僕が消滅してももう1人の僕が生きてたら、さとるという妖怪自体は死ぬことはない」


さとるの体の下半身は消滅し、上半身が徐々に消滅していく。


「君の実力の一部を見ることもできたし、目的は達成かな」


「なんか1人で満足してるけど、もう1人の方もあたしが消したらあんた終わりだけど、それわかってる?」


「もちろん、わかってるよ。ただ、君にもう1人の僕を見つけられないよ」


「どういうこと?」


「あとは残ってる部下に任せるよ。また会おうね。花子さん」


花子の質問には答えず、そう言ってさとるは完全に消滅し、花子だけがその場に残された。


「はあ、なんか勝ったのに負けた感じだね」


残された花子は歩きだし、校舎の方に向かった。


「さて、陸と雪は大丈夫かな?」


2人の安否を確かめるために、花子は歩いていると、花子のポケットに入ってるスマホから着信が入った。花子はスマホを取り出し、スマホをタップして電話にでた。


「花子、依頼の方どうだ?」


「問題ないよ。てか九十九、どうやって電話かけてんの?ここ結界の中で電波通じないはずだけど?」


「それはまあ、俺だからな。結界なんて関係ねえよ。それより、花子。今すぐガイストに来てくれないか?てか、助けて」


「助けて?何かあったの?」


「ガイストが妖怪に取り囲まれてるの。絶賛俺ピンチ。助けて」


「なんでガイストのまわりに?とりあえずわかった。今帰るから持ちこたえてて」


影山と冬野の助けに行こうと思ったが、急遽花子はトイレに向かうこととした。


(陸と雪ならたぶん大丈夫だと思うけど、さとるの最後の台詞が気になる。ガイストの妖怪退治が終わったらすぐに戻ってこないと…!頑張ってよ2人とも…!)


花子は急いでトイレに向かった。



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