第29話 殺してもいい?
「花子…?」
突然現れた花子に影山と冬野は困惑していた。そんな2人を見て、花子はニヤッと笑った。
「助けにきたぜ、もう大丈夫だ」
「すげーイケメン台詞だな」
「だね…」
ちょっと決めポーズ取りながらどや顔してる花子に感想を言う影山と冬野。
「それで、その子が依頼の子?」
「そう。花子はやっぱりトイレから来たのか?」
「まあね。トイレがある場所なら基本的に来れるからねえ。けど、今回は少しやんちゃしたけどね」
「どういうことですか?」
冬野が尋ねると、花子は腕組をした。
「ここのトイレにワープしようとしたとき、結界が張ってあった。たぶん、さとるが認めた者しか入れないように結界を張ってたんだろうね。それをね、ぶっ壊して入ってきたのよ」
「なんか簡単に言ってるけど、それって普通壊せるものなの?」
「難しいんじゃない?まあ、あたしは壊せたけど」
強キャラ感溢れる台詞に影山は反応に困った。
「とにかく、依頼の子が見つかったならここからすぐに出るよ。トイレに行こう」
「わかった」
影山、冬野、花子、大貴くんの4人は体育館すぐ近くのトイレに入った。
「先にこの子を送り届けてくるから、2人はその後ね」
「ちょっと待った花子。俺らはさとるくんに会うまで帰るつもりはない」
「ダメ。帰りなさい。さとるはあたしがボコボコにするからあんたたちはおとなしく帰りなさい」
「いや、でも…!」
「陸、あんたの目的は何?」
真剣な声色で、花子は尋ねた。その表情に影山は息を飲んだ。
「それは、巡礼者の情報を引き出すことだろ?」
「だったら、陸が直接やらなくてもあたしでもできる。そもそも、陸の目的は巡礼者を倒すこと。代行を倒すことじゃない。そうでしょ?」
「そう、だけど…」
「だけど、何?」
いつもの柔らかい口調はなく、明らかに怒ったような声色を出す花子。しかし、それに怯むことなく影山は対抗する。
「ここに来て、子どものバラバラ死体を見た。あんなの見たら、許せない」
「つまり、正義感でさとるを倒したいと思ったってわけ?思い上がりも図々しいね」
「実力が足りてないのはわかってる。けど…」
言葉が出てこない影山。実力不足と言われると、結局何も言い返せなかった。
「花子さん、私もさとるくんは倒したいです。私も、はっきり言って許せないと思いました」
「雪までそういうこと言う?ホントあんたたち正義感強すぎでしょ」
ハアとため息を付き、呆れる花子。
「とりあえず、この子を送り届けてくるから。その後、また話し合うよ。それでいい?」
「わかった」
「じゃあ行くからね」
花子と大貴くんは共にトイレに入った。すぐに戻ってくるだろうと影山と冬野はトイレで待つことにした。しかし、いつもであればすぐに花子が戻ってくるはずなのに、今回は5分ほど待っても来ることはなかった。影山がトイレの扉を開くが、花子の姿はなかった。
「花子さん遅いね」
「だな」
「残念だけど、迎えは来ないよ」
影山と冬野以外の声が聞こえ、2人は一斉に声の方向を見た。そこには、小学5年生くらいの見た目の男の子が立っていた。影山と冬野はその男の子はさとるくんであるとすぐに認識し、警戒した。
「おまえが、さとるくんだな…!」
「うん。ぼくがさとるだよ」
ニコッと笑うその表情は青白く、笑っているのに目は笑っていない。
「せっかく手に入れたおもちゃをどっかにやっちゃうとか酷いことするね君たち」
「…おもちゃ?」
「そう。おもちゃ。僕は分解するのが好きなんだ。君たちが連れてった子もバラバラにするつもりだったんだよ」
悪びれる様子もなく、純粋なる気持ちであった。その心境を影山と冬野は理解できない。
「どうしてそんな酷いことできるの?魂を食らうだけならそんなことしなくてもいいのに…!」
「そんなの決まってるだろ。残酷な死を!あの方に捧げるためだよ!」
さとるくんは声を高くし、目を見開く。そして、法悦した様子で天を仰いだ。
「あの方は僕の憧れだよ。僕たち妖怪にとって神様だ。あの方は死を求めてる。だから、あの方のためにも極上の死を提供しなきゃならないんだ…」
「言ってる意味がわからないけど、これだけはわかったよ。お前がどうしようもないくそ野郎だってことは!」
影山は右手に妖武具を取り出した。冬野も幽術で氷の刀を作り出し構えた。
「答えろ。お前は巡礼者とつながりがあるんだな?」
「巡礼者?ああ、そう言えばそういう言われ方されてるんだよね。あの方は…」
殺気をだす影山と冬野のことは何一つ気にせずさとるくんは話す。しかし、さとるくんの言動から巡礼者との繋がりがあることに影山は確信した。影山はさらに追求した。
「巡礼者の名前は?あの男は今どこにいる!?」
「そんなの教えるわけないだろ」
さとるくんは法悦した表情から真顔に戻り、一言で返答した。
「そろそろお話も終わりだ。そろそろ君たちにも退場してもらおうかな。…1本だたら、山姥、相手してやって」
さとるくんがそう宣言すると、トイレの外から壁を突き破って、1本足の巨大な毛むくじゃらの妖怪が乱入してきた。
「さとるー!さとるー!、殺していい?殺していい?」
「いいよー。1本だたらの好きにして」
「わーい!!」
1本だたらと呼ばれた妖怪は巨大な手で影山に殴りかかった。影山は咄嗟に刀で防いだが、とてつもない威力で弾き飛ばされ、壁を突き破り、外まで飛ばされてしまった。
「影山くん!?」
突き飛ばされた影山を追おうと、冬野が走り出そうとすると後ろから殺気を感じ、咄嗟に振り向いて刀を振るった。そこには、両手に包丁を持った老婆が冬野に切りかかろうという寸前で冬野の刀が老婆の持つ包丁に当たり、冬野は老婆を弾き飛ばした。
「へえー、反応がいい小娘だねえ。ひひ」
「おっかないおばあちゃんだね。何者なのかな?」
「山姥だよ。ひひ、可愛い小娘、バラバラにして食ってやるよ」
「怖いねえ、でも、簡単にやられると思わないでよね!」
冬野の刀と山姥の包丁がぶつかり合い、互いに戦闘を始めた。さとるくんはその戦闘に参加せず、トイレから出ていった。
「さて、僕は強い方を相手にするかな」
さとるくんは薄暗い廊下を歩き、目的の場所へと向かった。一方その頃、外まで飛ばされた影山は地面に倒れていた。
「痛いなあ、くそ!」
すぐに立ち上がり、壊れた壁の奥から外に出てきた毛むくじゃらの巨体を影山は睨み付けた。
「やってくれたな毛むくじゃら。絶対に許さん」
「うんうん。元気だー!もっともっと僕と遊ぼうよ!!」
大声をあげる毛むくじゃらの妖怪、1本だたら。影山は刀を構えた。
(残された冬野が心配だ。早くこいつをなんとかしないと…!)
影山と1本だたら、冬野と山姥。2つの戦いは始まった。
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