第26話 さとるくんの依頼
翌日。影山と冬野はいつも通りガイストでバイトをしていた。
「さとるくんか。ちょうど今日そのことで、依頼来てるよ」
前日花子と話したさとるくんについて、影山が九十九に話すと、ガイストにもその件に関する依頼が入ってきていた。
「なんか流行ってるらしいなその噂。俺も客から聞いたよ」
「再ブームといえば聞こえはいいけど、なんか唐突だよね。変な感じがする」
冬野の意見に影山は頷いた。
「ネットで確認しても、全国的に流行ってる様子もないし、この街限定の流行りになってるんだよな。そこが変な違和感を感じさせるというか…」
「いや、それは違うぞ陸。さとるくんの件に関しては今全国で被害例が上がってる」
「え、ホントですか店長?」
「ああ。情報通の妖怪の知り合いに聞いてみたらな。表面的に話題になってないが、全国の小学校でちらほらと。多くはないが被害の依頼が上がってる」
「それって、滅幽会の介入レベルの被害じゃないですか?」
基本的に妖怪退治のプロフェッショナルである滅幽会は顕著に妖怪被害のある事件が確認された場合には本部より出動要請される。また、野寺坊が襲われた件のように個人の依頼から妖怪退治を請け負う場合があるが、基本的には前者である場合が多い。
「この件に関してはすでに滅幽会は動いてるらしい。ただ、上手くいってはないらしいな」
「どうゆうことですか?」
「捜査中の滅幽会2人が行方不明だとよ」
「…返り討ちにあったということですか?」
滅幽会は妖怪退治のプロフェッショナルであるため、簡単に敗北するということはまずない。つまり、2人の行方不明は妖怪退治のプロフェッショナルをも手に終えない状況であることを示唆している。
「捜査に出たのは滅幽会でも下の階級。今、本部でも上の階級…しかも芦屋一族の出動も考えてるみたいだな」
滅幽会にはそれぞれ、階級があり世間一般の妖怪被害を担当する下級陰陽師。被害件数の多い重要案件を担当する上級陰陽師。そして、国に被害レベルをもたらす強い妖怪・怨霊に対しては最上級陰陽師『芦屋一族』と呼ばれる陰陽師が対応することとなっている。ちなみに、冬野がこの前戦った滅幽会は下級に属する。
「まあ、芦屋一族が動くのは滅多にないからな。上級が動くだろきっと」
「なんにせよ、結構でかい案件ってことか…」
(もしかして、巡礼者絡みなのか…?)
影山がそう期待していると、店の扉が開いた。入ってきたのは30代後半の見た目の女性であった。しかし、影山と冬野、九十九が気になったのは容姿ではなかった。その女性がもつ鞄から発せられる妖気の痕跡だった。
(なんだよこの強力な妖気…!まさかホントに…!)
影山の心臓が高鳴る。影山が緊張して女性の様子を見ていると、女性が「あの…」と声を出した。
「依頼をお願いした清水です。…ここでよろしかったでしょうか?」
「ええ、もちろんです。どうぞ、お席へ」
九十九が清水を席へ誘導しその間に影山がコーヒーを作った。それを、冬野が「どうぞ」と言ってコーヒーを清水の前に置いた。
「メールで伺った内容ですと、息子様が行方不明になられたという話でしたが…」
「はい。息子の大貴が友達とさとるくん、とかいう都市伝説をやったとかで…。あまり、信じてはいないのですが、急にいなくなったきっかけとしてそれしか思い付かなくて…」
「息子様が消えた当日のことをお聞きしても?」
「はい。その日は5時くらいに大貴が家から帰ってきて、何だかあわてて、「どうしたの?」って聞いても「なんでもない」と言われてしまって。それから、夕御飯を食べて、一緒に居間でテレビ見ていると急に慌てた様子でスマホを持って居間から出ていったんです。その時はあまり気にしてなかったんですけど、10分しても戻ってこないので家を探したんです。でも、どこにもいなくて。靴も玄関にありましたので、家のどこかにいると探し回っても結局見つからなくて…」
そう言うと清水は鞄の中から一台のスマホを取り出した。そのスマホが濃い妖気を発している物であった。
「洗面所にこれだけが落ちてたんです。それで、着信履歴があったので電話をしたのですが、繋がらなくて。それからは学校、友達の家と色々電話してみても、わからないって言われて。今、警察にも捜索してもらってます。でも、警察も全然で…。気になったのが、大貴の友達がさとるくんに大貴がさらわれたと聞いて、それでここに…」
「なるほど。経緯はわかりました。おそらく、息子様の友達の言う通り、さとるくんにさらわれたのでしょう」
「頼んでおいて何ですが、あまり信じてないんです。その、さとるくんとかいうのを。ただ、警察の捜索に進展がないので藁にもすがりたいんです。だから、お願いします。大貴を見つけて下さい」
清水は頭を深く下げた。それに対して九十九は「頭をあげてください」と優しく答えた。
「息子様は必ず見つけます。それと、聞きたいのですが、息子様が行方不明になってどれくらいになるのでしょうか?」
「3日です」
「…わかりました。息子様が発見次第連絡させていただきます」
「はい。よろしくお願いします」
依頼を請け負い、清水を見送ると九十九はハァとため息をつき、頭を抱えた。
「これ、最悪な結果もあり得るな…」
「どういうことですか?」
冬野が九十九に尋ねると、九十九は少し間を置いて話した。
「息子さん、すでに死んでる可能性がある」
その発言に影山と冬野は息を飲んだ。
「さらった人間を放置しとく理由はあまりないからな。まあ、あくまで可能性の話だ。それでも、早く捜索した方がいい。今日すぐに始める」
「わかりました。そしたら、近くの電話ボックスに…」
「誰がお前にやれって言った陸?お前は今回は休みだ。依頼は、花子にやってもらう」
一瞬何を言われたかわからず影山は「は?」と声が出た。それから、少しずつ言われた内容を理解し、怒りが沸き上がった。
「なんだよそれ、どういうことだよ!」
敬語も忘れて怒鳴る影山。そんな姿を冬野は初めて見て面と食らった。そんな影山を見ながら九十九は冷静に返事をした。
「お前じゃまだ実力不足だ。ただ死ぬだけだ」
「そんなのやってみないとわからないだろ!」
「無理だ。あの妖気の濃さ感じたろ?今のお前じゃ勝てない。ここは実力のある花子に任せろ」
「…くそ!」
影山は九十九に反論できず、勢いよく店を出ていった。それを追いかけるように冬野も「影山くん!」と言って出ていってしまった。そんな2人を九十九はただ見ていることしかできなかった。
「はぁ、ありゃあ、止めても無駄だったか…」
九十九は立ち上がり、トイレの前で立ち止まった。
「花子、あいつらのこと任せたぞ」
「…わかってるよ」
トイレからその一言だけ返ってきた。
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