第24話 ラッキースケベって実際にあるんだな

事故物件の依頼を終えて2日後の月曜日。昼休みになって早々に影山は教室から出ていつもの屋上前階段に来ていた。昼ご飯のあんパンと牛乳、ゲームを取り出し、あんパンを食べながらスマホでSNS見ていた。


(今月、めっちゃ金が入ったからな。ゲーム買うか、漫画買うか、迷うな…)


ガイストで請け負う心霊調査の依頼料は内容によって多少変わるが10~20万となっている。大体のペースとして1ヶ月に1回依頼が来るかどうかという感じであるが、今回2回依頼がきたことで今月の依頼料の合計は30万円になっている。影山の1ヶ月のバイト料が大体4万円~5万円であり、依頼が一回達成毎に+1万円の報酬を貰えている。そのため、今回臨時収入2万円が入ることが確定であるので、影山は何かほしいものを買おうとネットで模索していた。


(美味しいもの食べに行くのもいいな…と、思ったけど、1人でご馳走って言うのも惨めだな…)


1人で焼き肉をしている自分を想像し、哀れに感じた影山は友達を誘うという発想になって真っ先に冬野が思い付いたが、自分から誘う勇気がないのでやめた。次に浮かんだのが、花子。一番誘いやすく無難ではあるので、候補として考えとくことに影山は決めた。


「さて、ゲームでもするか」


パンを食べ終え、鞄からゲームを取り出す影山。すると、屋上の方から「きゃあ!」と女の子の悲鳴が聞こえた。


「今の声、冬野か!?」


聞いたことのある声であったので、影山はすぐに屋上の扉を開いた。


そこには、下着姿の冬野がいた。


冬野は影山を見てみるみる顔を赤くし、すぐに近くに置いてある制服を手に持ち、体を隠した。


「影山くん、もういたんだ…」


「ごめん!わざとじゃなくて…」


「うん。わかった。とりあえず、扉閉めてくれないかな?」


「ごめん!」


影山は再度謝り、すぐに扉を閉めた。そして、脳裏に張り付いた冬野の下着姿を思い出していた。


(結構、大きかったな…)


思春期むっつりスケベの影山にとって冬野の下着姿はあまりにも刺激的過ぎた。頭の中は冬野のおっぱいで頭がいっぱいになっていた。5分して屋上の扉が開き、冬野は無言で影山の隣に座った。何も話さない冬野。影山は気まずかった。


(絶対に怒ってる)


影山はそう確信した。そして心の底から「ごめんなさい」と謝罪した。


「ごめんはもういいよ。わざとじゃないってわかってるし。私が声だしたから屋上の扉開いたんだよね?」


「うん。何かあったの?」


「実は水溜まりに足入れちゃって。冷たくてビックリして声出しちゃったの」


影山は先ほどのことをよく思い出す。下着姿がインパクト強すぎたが、よくよく考えたら冬野の靴下が汚れていたような気がすると思い出した。


「おかげで足びしょびしょ。裸足で過ごすしかないねーこれは」


「そもそも、なんで屋上で裸になってたの?」


「あー、4時間目の授業が体育で。体操着着替えたいけど更衣室混んでてねー。だから、面倒だから屋上で着替えちゃおうと思ったらこの有り様」


「なるほど…」


「まあいいや。私もここでご飯食べちゃおうかな」


冬野は鞄から弁当箱を取り出し、蓋を開いた。本日の料理は肉じゃががメインのようであった。冬野が弁当を食べようとすると、下からコツコツと誰かが上がってくる音が聞こえ、影山はゲームを隠した。そして、上がってきたのは花子であった。


「よお」


「いや、よお、じゃないよ。何で花子がここにいるんだよ」


「んー、暇だから遊びに来た」


花子の格好はいつもの赤いスカートに白シャツ。一般的なトイレの花子さんの衣装。一般生徒が見たら小学生が迷い混んだか、あるいは幽霊を見たと怯えるか2択であるが、どのみち先生に通報されかねない状況である。


「花子さん、こっちに来ておしゃべりしましょー」


「行く行くー。ノリが悪い陸より雪とおしゃべりするー」


「ノリが悪くて悪かったな」


冬野は2段下がり、花子と並んで楽しそうにおしゃべりを始めた。


「ところで花子さん、ここまで来るのに生徒と会わなかったんですか?」


「会わないよ。霊体化して来てるし」


霊体化は姿を消す妖怪のもつ生まれついての特性である。妖気をもつものでなければ、視認することは不可能であり、ほとんどの妖怪がこの霊体化を使用できる。


「確かに霊感ないと見えないからな霊体化は。まあ、だからと言って学校に来るのはどうかと思うけど…」


「ほう、言うようになったな小僧。最近まであたし以外友達いなかったくせにー。雪という友達ができたからあたしはポイっか?冷たくなったねえー」


「いや、そう言うわけでは…」


「そうだよ影山くん。せっかく花子さん遊び来てくれたんだから感謝しないと」


「えー、俺が悪いのか?」


「雪はわかってるねー、はい、雪は可愛いからチョコあげる。陸はやらない」


「ありがとうございます。花子さん」


冬野と花子は仲良さげにチョコを食べる。影山はため息をついた。その後、各々弁当を食べて、冬野と花子はおしゃべり、影山はゲームに集中していた。すると、花子が「ところでさあ…」と呟いた。


「2人はさとるくんっていう妖怪のこと知ってる?」


「さとるくん?私はわからないです。影山くんは?」


「知ってるよ。知名度はあまりないけど、オカルト好きには有名な妖怪だよ」


さとるくん。

2000年代前半から流行り始めた都市伝説の一つ。さとるくんは電話で呼び出すことができ、さとるくんに質問すればどんなことでも答えてくれるという。やり方は以下の通りである。


まず公衆電話を探し、10円玉を入れて自分の携帯電話にかける。繋がったら公衆電話から「さとるくん、さとるくん、おいでください」と唱える。それから24時間以内にさとるくんから電話がかかってくれば成功。電話にでると、さとるくんは今どこにいるか知らせてくる。そんな電話が何回か続き、どんどん自分の近くへと移動してくる。そして、最後の電話のときには自分の背後にいることを知らせてくる。このときに、さとるくんに質問すれば何でも答えてくれるという。しかし、このとき振り返ったり、質問をしなかった場合にはどこかに連れ去ってしまうという。


「へえー、何かメリーさんの話に似てるね」


「今、小学生の間でこのさとるくんが流行ってるって噂あるんだよね」


「さとるくんの再ブームっていうやつだな。でも、ホントにさとるくんなんて現れるのか?」


様々な都市伝説系の妖怪はいるが、実際には存在しない作り話も中にはある。しかし、妖怪が誕生する経緯は様々である。都市伝説系の妖怪は人の恐れや強い念が妖怪を生み出すこともあるため、完全には否定できない部分もある。


「ホントに出るのかはわかんない。でも、そろそろガイストにもさとるくん関連の依頼来るかもね」


「ん?どういうこと花子さん?」


「市内にあるS小学校あるでしょ?そこで子どもが2人行方不明だってさ。噂だとその2人、さとるくんを呼び出したって話だよ」


「それが本当なら来るかもな、依頼」


シリアスな雰囲気になっているところで、休み時間終了10分前となった。影山と冬野は教室に帰る準備を始めた。


「じゃあ、あたし帰るから。またねー」


「バイバイ、花子さん」


「またなー」


2人は花子を見送り、教室に戻ることにした。


(さとるくん、か…)


このさとるくんの件が影山にとって大きな事件となるとはこのとき、思ってもいなかった。



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