第20話 プール気持ちええな

日曜日。影山と花子は市内にある市民プールに来ていた。春という季節もあって人はそこまで多くなく、2人はプールの中にいた。


「気持ちええなあー」


水にプカプカ浮きながら花子はそう呟いた。そんな花子を無言で影山は見つめていた。


休日である本日、部屋で影山がだらだらしていると花子から連絡が来た。内容は「プール行こうぜ」と一言だけ。以前から影山と花子は2人でよくプールに遊びに行く仲で、主に花子が泳ぐのが好きでよく影山を誘っていた。


海パン姿の影山は泳がず、ボッーとしていた。そんな影山の心中は一昨日の1人かくれんぼのときのこと、思わず冬野を抱き締めたことを思い出していた。


(何であんなことを、思い返すとヤバイことしてたよな俺…)


冬野は気にしていないが、対して影山の方はめちゃくちゃ気にしていた。客観的に見てただのセクハラ。内心ドン引きされてしまったのではないかと、この2日間引きずっていた。そんな心境を知らずに呑気に泳いでいる花子が影山がずっと花子を見ていることに気づいた。


「何々?あたしのスク水姿をジッと見てー、見惚れちゃったかな?」


スクール水着を着ている花子がうねうねと謎の動きをしている。ロリコンであれば大興奮するような仕草に影山は特に気にしない様子で「いや、別に」と淡々と言った。その反応が面白くなく、花子が影山の足を蹴り飛ばすと、転んで影山は水の中へと沈んだ。


「ブババッ!何すんだ花子!」


すぐに起き上がり影山は怒った。その反応を見て花子はニヤニヤと笑っていた。


「やーと、反応したね。何かあったのか?」


「まあ、ね…」


「悩んでることがあるなら、お姉さんに話してみなさい。うじうじしないで」


「じゃあ話すけど、引くなよ」


「大丈夫大丈夫。ほれほれ、何があった?」


影山と花子はプールサイドに座り、影山はこの前の抱き締めた件を花子に伝えた。


「陸、それは引くわ」


「引かないって言ったじゃん!」


「まあまあ、冗談だよ。てか、普通抱き締めるか?あー、でも、そう言うことか…」


花子が何かに納得したかのように1人でうんうん頷く。その様子を見て影山は機嫌を悪くする。


「なんだよ。何に納得してるんだよ」


「いやあ、陸くんの気持ちを察してしまってねえ」


「なんだその口調。おばさんくさいな」


「だまっらっしゃい小僧」


「もはや魔女口調だな」


「まあまあ、なんでもいい。とにかく、陸。あんた、さては雪に惚れてるね?」


突然の質問に影山は「はあ!?」と言って顔を赤くした。


「なんで、そこで惚れてるって話しになるんだよ?」


「だって抱き締めるくらい心配したんだろ。普通そんなこと好きなやつにしかしないって」


「えー、そうなのかなあ…?」


影山はこの15年恋をした経験はない。二次元に対して恋をすることはあっても、三次元ではない。というか三次元の知り合いが元々少ないため尚更惚れてるという感情が影山にとってピンとこなかった。


「じゃ陸はあたしが誰かにボコボコにされて、無事に帰ってきたとして、心配してあたしのこと抱き締めるか?」


「んー、そもそも花子が誰かにボコボコにされるとかイメージできないのだが?」


「…それもそうだな。あたし最強だしね」


2人で謎に納得する。しかし、論点はそこじゃないことに2人は気づいていなかった。


「まあいいや。これもまた青春なのかもね。その感情をゆっくり育みたまえ若人よ」


「はあ…」


「では明るい話はここまでとして、シリアスな話をしようか」


「シリアス?」


「巡礼者について、情報が入ったよ」


巡礼者。そのワードを聞いて影山は先程からくだけた表情から真剣な表情になり、花子の話を聞いた。


巡礼者とは、昨今日本中で話題になっている連続殺人鬼である。5年前に現れ、その被害者の数はわかっている範囲でも46人。子供ばかり殺している謎の犯罪者。正体不明で警察も素性を特定できていない。その巡礼者は日本各地を転々とし、まるで巡礼しているようであることから、ネットで巡礼者と名付けられたという。影山はとある理由で巡礼者とは因縁があった。


「巡礼者の情報って?」


「巡礼者には、配下の妖怪がいる。『巡礼者代行』っていうね」


影山が巡礼者について知っている情報として、自分と同じく生まれついての妖気を持つものということ。そして、妖武具を持っているということ。つまり、妖怪との繋がりがあることに特段驚くことはない。しかし、配下がいるということは影山にとっては新情報であった。


「代行…何か代わりにやってることがあるっていうこと?」


「人殺しだよ。代行は巡礼者と同様に無差別に殺しをしている。ここ5年で行方不明者が急激に増えてる」


「目的は何なんだ?」


「それは知らない。あたしが知った情報は代行という存在が各地で殺人をしているということだけ」


「じゃあ、その代行と会えれば、巡礼者がどこにいるのか、目的は何なのかはっきりするってことか」


影山はとある理由で巡礼者を探している。その事は花子も九十九も知っている。影山がガイストで働いている理由も巡礼者絡みの依頼が入ってこないかという淡い希望があってのことである。


「代行と呼ばれる妖怪は普通の妖怪とは違って強い。だから、会った瞬間陸ならすぐにわかると思う」


「わかった。強い妖怪に会ったらまずは代行を疑えってことだね」


「そゆこと。あたしの情報はこれで終わり。さて、気分変えてあとは遊ぼうー」


プールサイドに座っていた花子がザブンと水の中へと入り、再び泳ぎ始めた。影山も続いて水の中に入り、考え事をした。


(巡礼者、か…)


影山と巡礼者との因縁。影山はこの5年、巡礼者を探していた。その目的は…復讐である。


(絶対に殺してやる)


真剣な表情をしていると、急に顔面に水をかけられた。ダイレクトに水が目に入り影山は目を押さえ「目が、目があー!」と唸った。


「いつまでシリアスモードでいるんだよ。あたしに構えよ」


「言われなくても構ってやるよ!」


お返しに水を花子の顔面にぶっかける影山。そして、「やべー、キレたぞこいつ!」とふざけて笑いながら花子は泳いで逃げる。それを影山は「待て、花子!」と言って影山も泳いで追っかける。その様子はまわりから見たらただの仲のよい兄弟のように見えた。


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