第19話 滅幽術技式神
冬野雪の妖術は『氷結』である。
水を瞬時に、雪や氷にすることができる能力。冬野が得意とする幽術の属性は水であり、その水を使って雪や氷を形成して戦う。
「では、こちらも戦闘準備をさせてもらいましょう」
滅幽会の男は懐からヒト型の1枚の紙を出す。それを自身に張り付けると、男は鎧の武者の形となった。その武者は両手が槍となっていて、高さは3メートルと巨体である。
「滅幽術技式神、槍夜叉…」
滅幽会に所属するものは、式神を使う戦闘スタイルを会得している。それが、滅幽術技式神。基本的に妖気を持つ者であっても妖武具を持っていたり、自身が妖怪でなければ幽術や妖術は使用はできない。そのため、幽術妖術に代わる独自の戦闘スタイルを式神という要素を使って滅幽会は戦っている。自身が式神となり、式神の形成はその形成者の妖気の性質やセンスで形成される。
槍夜叉と呼ばれた式神は冬野を敵と認識し冬野を目掛けて槍を伸ばした。冬野は白銀の刀で弾き、武者は逆の手の槍でさらに切り裂く。しかし、冬野はさらにその攻撃を弾いた。ガキン、ガキンと音を鳴らし、槍と刀がぶつかり合う。
「幽術、氷霊波」
冬野は少し距離をとり、大きく刀を振るうと、水の刃が刀から放たれ、それが槍夜叉に直撃すると衝撃で数メートル弾き飛ばし、さらに弾けた水が凍り倒れた槍夜叉を地面に固定させた。
「幽術、氷柱殺」
槍夜叉の頭上に複数の鋭い氷柱が形成され、それらは一斉に落ちて槍夜叉を攻撃した。攻撃を受けた槍夜叉は力付くで起き上がり、槍を構えた。
「まだやられないよねー」
冬野は槍夜叉に向かって走りだし、刀を振るう。互いに槍と刀がぶつかり合う。冬野は隙を見て、槍夜叉の胴体を切り裂き、対して冬野は槍の攻撃を見抜き、的確に攻撃を避けていた。客観的に見て、冬野が優勢であった。
(私の方が勝ってるけど、ダメージは大した入ってないよね…)
攻撃を与えても槍夜叉は何度も攻撃を反撃してくる。確かに冬野はダメージを与えているが、それが致命傷ではなく、HPを徐々に減らしているだけという手応えであった。
(体力高い系のボスだねこれ…)
槍夜叉はひたすら攻撃を放ち続けるが、このままでは勝てないと考え槍を大きく振るい、冬野を弾き飛ばすと、背中からさらに槍の手を2本形成させた。
「おー、第2形態だ!」
冬野が感心していると、槍夜叉は再度攻撃を仕掛ける。激しい攻防の中、冬野の攻撃が全て防がれてしまっていた。むしろ、槍の攻撃で冬野が避けきれず、腕や脇腹、足を掠り始めた。
(まずい、手数が増えた分、攻撃が通らないね…)
「幽術、白夜壁」
冬野は槍夜叉との間に巨大な氷の壁をつくり、後ろに一旦下がった。氷の壁はすぐに砕かれ、槍夜叉は冬野に向かって近づいてくる。
(私の妖気のストック的に幽術、5回は出せる。だけど、ここはあえて…)
冬野は刀を前に突き出して、構えた。そして、素早い動きで槍夜叉の右腕を切り落とした。
「1本なくなれば、大分楽かな?」
槍夜叉は冬野に攻撃。冬野は弾き、横に一閃。ダメージは大して入っていないが、重要なのは攻撃が当たるようになったこと。腕が1本なくなったことで攻撃を与えられるタイミングができた。槍夜叉はひたすら攻撃をするが、冬野は隙を見てさらに左腕を切り落とした。槍夜叉の勢いはどんどん落ち、攻撃に慣れてきた冬野はひたすら槍夜叉に攻撃を打ち込んだ。そして、最後の一撃と言わんばかりに冬野は全力で刀を振るい、槍夜叉を数メートルぶっ飛ばした。槍夜叉は立ち上がるが、冬野のとなりには傷が治った野寺坊と治療を終えた影山が武器を構えていた。
「これで3対1。もう勝ち目ないんじゃないかな?」
余裕そうに冬野が宣言すると、槍夜叉は元の滅幽会の男の姿へと戻り始めた。
「くそっ、半妖風情が…!」
そう言って滅幽会の男は逃げるように去っていった。戦いが終わり、冬野は一息ついた。そして、どや顔で影山の方を向いた。
「どう影山くん?私、強いでしょ?」
フフンと冬野は自慢気に話していると、突然影山はしゃがみ、冬野の太ももに触った。その行動に冬野は「え、なに!?」と変な声を出しながら動揺するが、影山の行動の意図に冬野はすぐに理解した。冬野の足にできた傷を夢中で治していた。
(すごい、傷がなくなっていく…)
足の傷はみるみるなくなっていく。そして、痛みも和らいでいく。その感覚にちょっとした心地よさを冬野は感じていた。続けて脇腹、腕と影山は黙々と傷を治していく。お腹や腕を触れたりして、冬野は少し恥ずかしかったが、真剣に治療をしてくれている影山に声を掛けずらかった。全ての傷が全部なくなると、突然影山が冬野を抱き締めた。急に抱き締められ冬野は驚き、ドキドキしていた。
「よかったあ、冬野が無事で…」
「アハハ、心配掛けてごめんね」
抱き締められた冬野は影山を励ますように、抱き返し、背中をポンポンと叩いた。影山に抱き締められ安心感を感じる冬野。身を任せていると、影山は自身の恥ずかしい行動に今さら気づき、冬野から離れた。
「ごめん!つい抱き締めてた…」
「いいよ別に。気にしてないよー」
互いに気まずそうに笑い合う2人。その2人を見ながら野寺坊は咳払いをした。
「すまん。改めて迷惑をかけたようだな」
「いや、大事にならなくてよかったよ。体の調子は問題なさそうだな」
「ああ。感謝する。今度お礼をしよう」
「お礼なんていらないよ。とにかく、また滅幽会がくるかもしれないから、とりあえず身を隠しな」
「そうさせてもらおう。しばらく寺を離れるとしよう。この子と一緒にな」
野寺坊はそばにいる浮遊霊の少女の頭を撫でて、それから夜の町へと消えていった。
「俺らも、先輩の様子見に行こうか」
「あ、しおりのことすっかり忘れてた」
「もとはといえば、先輩が1人かくれんぼやったのがきっかけだからね…」
「そうだね。うん、様子見に行こう」
影山と冬野は日上の部屋へと入り、寝息を立てながらすやすやと眠っている様子を確認した。冬野が「起きて、しおりー」と言って体を揺らすと日上は眠たそうに体を起こした。
「何ー?あれ、雪じゃん。どうして私の部屋に?」
「1人かくれんぼで霊が出てきたから助けに来たんだよ。体の調子はどう?」
「んー、別になんとも。あ、配信ちゃんと撮れてたかな!?」
日上は自分のスマホを探しに部屋を出ていく。3分ほどで「あったー!」と声がして、部屋に戻ってくるとニコニコ顔の日上から一言。
「配信撮れてた。やった!」
こっちは大変な思いしたのにのんきだなこいつ。
影山と冬野、2人は心の中でツッコミをいれつつ、その後2人はマンションからでた。影山は冬野を家まで送り届けた。
「今日は色々とありがとね。影山くん」
「いや、こっちこそ助かったよ。怪我の方はホントに大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!影山くんがしっかり治してくれたからね!」
冬野はニコッと笑い、ガッツポーズで元気アピールをした。その姿を見て影山は安堵した。
「それじゃ、また学校で」
「うん。またね。影山くん」
冬野は影山を見送った後、家に入った。そして、その場にしゃがみこみ、ふぅと息をついた。
「…抱き締められちゃった」
そう呟く冬野の表情は少し嬉しそうだった。
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