第17話 1人かくれんぼ、やってみたw
深夜二時半。日上しおりは自室で猫のぬいぐるみの中の綿を抜いていた。
「雪には悪いけど、こんなおいしい企画を中止するわけにはいかないからねー」
影山と冬野に中止するよう言われた日上は警告を無視して、一人かくれんぼの準備をしていた。
「稼いだ分のお金は分けるから、許してね雪」
日上は綿を抜き終わったぬいぐるみの中に前もって用意していた自分の爪と米を入れる。そして、赤い糸で縫って、ぬいぐるみの準備は完了した。
「さて、名前だね。そうだなぁ、どうしようかなー」
ぬいぐるみの名前決めに日上は悩む。そして、「よし、決めた」と呟く。
「田中にしよう。なんか呼びやすいし」
田中と命名した日上は、ぬいぐるみを自室のテーブルに起き、キッチンに移動して塩水を作り始めた。
「塩水もできた。さて、あとはどこに隠れるかだね…」
日上はマンションで暮らしている。1LDKであり、ここは日上が家族と暮らしていたマンションとは異なり、日上が親に頼んで一人暮らし用に与えられたマンションである。
日上は悩み、部屋中を歩いて、最終的にトイレに隠れることを決めた。トイレにあらかじめ塩水を準備をし、一人かくれんぼの準備は整った。
「よし、それじゃあ配信の準備しよっと」
現在の時刻は2時45分。日上はフルに充電したスマホを用意して設置し、テーブルの前に座って配信を始めた。
「やっほーみんな、しおりの配信始めるよ!」
配信開始すると、視聴者はどんどん増え、「しおりちゃんきたー!」「ヤバイの始まるww」「今回も期待してる」「しおりちゃん今日も可愛い」「俺の生きがい」などなど。様々なコメントが流れていく。
「夜遅いのにみんなありがとー!今日は前から予告してた一人かくれんぼやるよ」
視聴者は増え続け、1000人を超えた。コメントの流れも早くなり、コメントの中に「今日相方いないの?」とあり、日上はそれに反応した。
「ウィンターガールちゃん今日はオフなの。だからいませーん」
ウィンターガールというのは冬野のことであり、日上の配信に出演するときの名前である。ちなみに、冬野は顔出ししたくないので、出演するときはサングラスとマスクをつけているため、視聴者からはときおり、不審者の人と呼ばれ楽しまれている。
「さて、一人かくれんぼするのにまずは自己紹介。はい、ぬいぐるみの田中でーす」
日上はスマホの画面に向かって先ほど準備した猫のぬいぐるみを見せる。コメントは「田中w」「可愛い!」「ネーミングセンスで草」と流れていく。日上は一人かくれんぼのルールを改めて視聴者に説明する。ぬいぐるみの中に米と爪を入れていることを説明し終わると、時間も2時55分になったため、開始することにした。
「まずは田中を持ってお風呂場に行きま~す」
ぬいぐるみを持って日上はお風呂場に移動する。風呂桶に水をはり、ぬいぐるみに「最初の鬼は、田中」と三回唱えた。そして、ぬいぐるみを風呂桶に入れた。
「それでは、部屋の電気消してきます」
日上は部屋中の電気を消して、テレビは砂嵐にできないのでそのまま消したままにした。明かりはスマホの画面の光だけとなる。日上は自室の中心に立ち、目をつぶって十秒数える。
「お風呂場に戻って、田中の様子見にいきますねー」
静かな声で日上は話し、スマホの明かりで風呂場まで移動する。風呂場にたどり着くと、先ほどと変わらず風呂桶に浸ってるぬいぐるみがそのままあった。あらかじめ風呂場に用意していた包丁で「田中見つけた」と言って包丁を刺した。「次は田中が鬼」と言って、日上はすぐに塩水の置いてあるトイレに移動した。
「さあ、ここからが本番だよ。何が起きるかな」
コメントも盛り上がり、視聴者も増え続ける。コメントは「早く怪奇現象起きろ!」「マジ期待」「鳥肌立ってきた」「なんか後ろに誰かいない?」「ヤバすぎ、怖すぎw」と煽りのコメントも流れていく。
「さて、トイレにいるだけじゃつまらないので、実はアタシの部屋と風呂場に隠しカメラを用意してまーす」
日上は一人かくれんぼを始める前に、あらかじめ固定カメラを購入し、部屋の角に全体が写るよう設置していた。暗闇でも見えるよう高めのカメラである。
「このタブレットから各部屋の様子を見ることができるので、早速見てみましょう」
タブレットを操作し、日上の部屋、風呂場と写し出される。スマホの画面にも写るよう、タブレットの画面を写す。
「それじゃあ、まずは田中のいる風呂場を見てみましょうか」
画面を切り替え、お風呂場の映像となる。お風呂場には、まだ桶に浸かったぬいぐるみがそのままいた。
「動いてないですね…」
風呂場の様子を日上はしばらく眺める。特に変化もなく、コメントの方も「何も起きないねー」「不気味」「まだ平和」と落ち着いてる。
「何も起きないし、アタシの部屋でも写そうか」
と言うとコメントが「しおりちゃんの部屋きたああああああああ」「いい匂いしそう」「すううううううう」とキモいコメントが一部流れ、日上は呆れるが、宣言通り、日上の部屋の映像を写した。
「ん、あれ?」
写したはずなのだが、映像は真っ暗で何も写っていない。動作チェックをしたときには確かに暗闇でも撮影できたはずなのに、今は何も写らない状態である。
「おかしいなぁ、壊れた?」
と言った瞬間。部屋の映像は突然写り始めた。そして、部屋の中心に黒い人影のようなものが写り込んでいた。そして、その影はカメラに近づいていき、画面の前でニヤッと不気味に笑った。影はその表情で画面にどんどん近づき、再び画面は暗くなった。
「え、何今の、ヤバ…」
流石に不気味すぎて日上は恐ろしくなった。一方で、コメントの方はどんどん盛り上がっていく。そのコメントの中で日上は「さっき画面真っ暗だったの影がドアップだったからとか?」という、コメントを見て納得と同時に意味を知って怖くなった。
「ヤバくなってきたね。お風呂場どうなってるかなぁ?」
恐る恐るお風呂場の映像を見る。桶にいれていたぬいぐるみは消えていた。
「ちょっと、田中どこいったの!?あれがないと終わらせられないんだけど!」
一人かくれんぼを終わらせるためにはぬいぐるみに塩水をかける必要がある。故にぬいぐるみがないということは、一人かくれんぼを終わらせることができないということになる。
「え、どこにあんの?」
日上は部屋の映像を写す。そこにはぬいぐるみを抱えた影がカメラ目線でじっと日上を見ていた。
「ちょ、そのぬいぐるみ返してよ!」
日上は画面に叫ぶ。影はニヤッと笑い、そして部屋から消えた。日上はお風呂場の映像にするが、影は写っていない。
「えー、マジでどうしよう…」
ぬいぐるみを影にとられて、日上は困り、どうしようかと考える。すると、突然トイレがどんどんどんとノックされる。日上はビクッとなってその場に固まった。
(マジでヤバそうじゃない?これ、雪に連絡とった方がいいかな…)
冬野にSOS出そうかと検討していると、突然スマホとタブレットの電源が落ちた。「え!?え!?」と焦る日上。何度もスマホの電源を押すが、スマホが起動する様子はない。トイレの中は暗闇となり、日上は為すすべもなく呆然とした。
「ヤバイ。どうしよう…」
そう呟くと、鍵を閉めてるはずのトイレの戸が静かに、開いた。
「あーーーーーーーそーーーーーーーぼーーーーーーーーーーーーーーーー」
そこには歪んだ笑顔の少女がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます