第16話 するわけないでしょ!?
バイト終了後、影山は冬野の家にお邪魔することになった。そして今、影山はその冬野の家の前に立っていた。
(本当に来てしまった…)
冬野の家は二階建ての一軒家である。見た目は古くも新しくもなくという印象であるが、所々リフォームしたようなあとがある。家の近くには小さな花壇があり、色々な花が植えられている。冬野は家に入り、影山も続いて家に上がった。
「ただいまー」
「おじゃまします…」
家に上がり、影山は冬野に続く。奥から「おかえりー」と女性の声が聞こえる。おそらく冬野の母親だろうと影山は予想した。冬野についていって、居間にいくとソファーに座ってテレビを見ている女性が一人いた。
冬野と同じ黒髪のセミロング。そして、冬野がそのまま大人に成長したような美人の容姿。そして、もう1つ特徴なのが、妖気を感じること。間違いなく冬野の母であることに影山はすぐに気がついた。冬野母は影山に気づくとニコッと笑った。
「君が影山くんね。雪の母です。はじめまして、と言いたいけど。影山くん、私のこと覚えてるかな?」
「え?あの、俺と会ったことが…?」
「覚えてないよね。影山くん、まだ小さかったから。ただ、私の正体を言ったら思い出すかな…」
「正体…?」
「雪女。花子から聞いてないかな?」
影山は目を見開いて驚く。その妖怪の名はとてつもなく有名であるからだ。
雪女。
雪山に現れる女の妖怪。室町の時代からその伝承は残っている。有名な話としては小泉八雲の怪談がある。
その逸話ではある男2人が雪山で恐ろしい目付きであるが、絶世の美女に出会う。片方は凍らせれ、殺されてしまうが、もう片方は若いという理由で見逃されるが、この事を誰かに言えば殺すと言われる。それから数年が経ち、男はお雪という女性と出会い、結婚し、子を持った。そして、ある夜に昔雪山で美女に出会って見逃してもらったことを話すと、お雪はその見逃した女が私であると話し、雪女の姿となる。しかし、子のことを思うと男を殺すことはできないと話し、女は霧となって消えてしまったという。
影山は雪女の伝承についてはよく知っていた。だが、それ以上に雪女はあることでも有名である。それは、花子と同じ六英雄の1人であるということだ。昔、影山が小学生の頃に1度だけ、花子と雪女が話しているところを見かけたことがあった。その時に少しだけ遊んでもらったことがあったのだが、影山は今の今までそのことを忘れていた。
「影山くん、ママのこと知ってるの?」
「え、ああ、俺も忘れてたけど、昔、会ったことがあった」
「へー、そうだったんだ」
影山は冬野母を見つつ、冬野のことを分析した。
(ということは、冬野は雪ん子なのか…)
雪ん子は雪女と人間の間に生まれた半妖のことである。影山は冬野が妖武具を持たずに幽術を出せていたことから半妖なのではと前々から考えていたが、予想は的中していた。
「私のことはとりあえず置いといて、ご飯にしましょう2人とも。雪も影山くんも座ってて。ご飯用意してあげるから」
冬野母は立ち上がり、キッチンへと向かった。冬野は「ママ、手伝うよー」と言ってキッチンへと向かっていった。残された影山は言われたとおり、椅子に座って待つことにした。しばらくして冬野と母が料理を持ってきた。献立はから揚げ、ご飯、サラダ、味噌汁。影山と冬野は席について共に「いただきます」と言って夕食を食べた。
「ん、旨い」
から揚げを食べて思わず呟く影山。となりの冬野が自慢気に「でしょー?」とニヤッと笑った。
「いや、何で冬野が自慢気なの?これ、お母さんが作ったんでしょ?」
「違うよ影山くん。これ、雪が作ったんだよ。まあ、揚げたのは私だけど」
「え?」
影山は改めてから揚げを見る。そして、冬野母から訂正されて、冬野が作ったから揚げだと再認識してもう1度食べた。
「やっぱり、旨い」
「やっぱりって、私って料理しないイメージだったのかな?」
「そういうわけじゃないけど、美味しいからホントに驚いて…」
「もう、嬉しいこと言ってくれるねー。影山くん」
上機嫌で肩をポンポン叩く冬野。そんなことを気にせずご飯を黙々と影山は食べて、堪能した。すぐに食べ終わり、影山は「ご馳走さまでした」と言った。
「美味しかったよ。ありがとう、冬野」
「喜んでくれて、私もよかったよー」
「うんうん。お母さんも2人が仲良さそうでよかったよ。洗い物は私がやっておくから2人は部屋に行ってなさい」
「うん。ありがとうママ」
「それと、エッチなことだけはやめなさいよー。まだ学生なんだからねー」
「な!?するわけないでしょ!?」
慌てて怒る冬野。影山は反応に困って苦笑していた。そんな2人を見てクスクス笑う冬野母。冬野は「行こう、影山くん」と言ってリビングを出ていった。2人で階段を上がり、上につくと小太りの中年の男に出くわした。
「あ、パパ。ただいま」
「おー、雪、おかえり。仕事で気づかなかったよ。おや、君は?」
「お邪魔してます。同級生の影山陸です」
「おー、君が影山くんか!ゲーム好きなんだってね。今度おじさんともゲームしないかい?」
「ダメ。影山くんは私とゲームするの。パパは仕事して」
「はいはい。お父さんはお邪魔ですかー。それじゃ、2人で楽しんでくださーい」
そう言って冬野父は階段を下っていった。冬野は気にせず部屋へと向かう。
「なあ、冬野。お父さんは何してる人なの?」
「ライトノベル作家だよ。重坂重之っていうの」
「え!まさかあのジュージュー先生!?」
影山の言うジュージュー先生とは重坂重之の愛称である。重坂はライトノベル『エルフイズ俺の嫁』を執筆する作家で累計500万部は売れている大人気作家である。影山もそのライトノベルを愛読しており、ファンであった。
「冬野!俺、サインもらってきてもいい!?」
「え、うん、いいよ?」
「よっしゃ!俺ちょっと下行ってくる!!」
テンション上がりまくりの影山は鞄からノートを取り出すと勢いよく下っていき、そして、勢いよく駆け上がって戻ってきた。
「見て見て冬野!ジュージュー先生のサイン!」
「アハハ、よかったね…」
(こんなにテンション上がりまくりの影山くん、初めてだな…)
いつもと違う子どものような輝きのある瞳に冬野は困惑し、改めて冬野の部屋に向かった。冬野が「どうぞー」と言い、影山は恐る恐る「失礼します」と言って入った。
「おお…」
冬野の部屋は女の子らしい数個のぬいぐるみがあり、何だか女の子特有のいい香りがする。また、部屋の棚には大量のゲーム。そして、反対側のハンガーラックには大量の着物が掛けられていて、色々と凄いというのが影山の感想だった。
(あ…)
色々あるぬいぐるみの中、枕元にこの前影山が取ったぬいぐるみが置かれていた。それを見て少しほっこりする影山。次に影山は掛けられている着物を見た。
「冬野、着物好きなの?」
「うん。好き。可愛いから。でも、ほとんどが部屋着だけどね」
「へー、いいな」
影山がまじまじと見ていると、冬野は影山の肩をトントンと叩いた。影山が振り向くと、冬野が恥ずかしそうに顔をやや赤くしていた。
「あまり女の子の服をジロジロ見ないで」
「あ、ごめん」
「よろしい。それでは、しおりが配信始めるまでゲームして待とう」
「だね」
おそらく1人かくれんぼを配信でするとしたら深夜であろうと影山は予測した。影山と冬野は配信が始まるまでのんびりゲームをすることにした。
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