第15話 今日、家くる?

放課後。影山と冬野はガイストでバイトをしていた。徐々に仕事に慣れてきた冬野。最初の方は見守りありで仕事をしてもらっていたが、今では1人で十分に仕事ができている。


客が花子1人だけとなり、冬野はカウンターで1人座り、考え込みながらスマホを見ていた。


「客がいるのにスマホをいじってていいのでしょうかー?」


「コーヒー1杯で何時間も居座る人は客ではありませーん」


「この新人大分生意気になったな陸。ちょっとシメてもいいか?」


「やめなさい」


影山が止めるとチッと花子は舌打ちをした。そんな様子を気にしないで冬野はスマホを眺めていた。気が気でない様子の冬野に影山は思い当たる節があった。


「日上先輩のこと気にしてるの?」


「うん、まあね…」


「何々、日上先輩って誰?」


影山はスマホを取り出し、花子に日上のYouTubeチャンネルを見せた。


「あー、これ知ってるよ。たまにあたしも見てるもん。へー、あんたたちの学校の生徒だったんだ」


「その日上先輩が1人かくれんぼやるって言ってたんだ今日。止めはしたけど、実行しそうなんだよね」


「また視聴者が増えそうな企画だねえ。まあ、素人がやることだし、何もでないで終わりになるでしょ」


「そうとも限らないと思うんですよ…」


影山と花子との会話に、項垂れていた冬野が混ざってきた。


「私、しおりの動画作成に何回か手伝いに入ったけど、しおりが霊に取り憑かれたり、金縛りにあったりって何だかんだトラブル起きたりするんですよ。だから、今回も何か起こるような気がするんです」


「あー、それで、階段でも何かあったとき助けてねってことで俺らに企画を知らせに来たんだな…」


「そういうこと」


ため息をつく冬野。そんな冬野の肩に影山はポンと手を置いて「大丈夫」と優しく声をかけた。


「俺も心配だし、何かあったときには手伝うよ」


「影山くん、ありがとう」


ニコッと笑う冬野。その表情に照れる影山。そんな2人を見てニヤニヤ笑う花子。


「お二人さん、何だかいい雰囲気になってきてますねー」


「何だよ花子。何が言いたいんだ?」


「別にー?あー、青春だねえ。お姉さんには甘酸っぱすぎるからそろそろ帰ろうかねえ」


「どっちかと言うと今のはおばさんっぽい気がするけど…」


「黙りなさい小娘。それじゃ、あたしは帰るわー」


コーヒー代をカウンターに置いて花子は帰っていった。影山はコーヒーのお金をレジに納め、影山と冬野が2人っきりで客を待っていると、2階から九十九が降りてきた。


「おう、調子どうだ?」


「今は客0です」


「相変わらず儲からねえなこの店。つぶれるんじゃねえか?」


「自分で言わないでくださいよ」


「まあいいわ。俺出掛けるから。時間になったら店閉めて帰ってくれ」


「依頼ですか?店長」


「まあな。んじゃ、俺は行くわ」


九十九は店を出ていった。完全に店の中は影山と冬野の2人っきりになった。シンと静な店内で2人は黙っていると、冬野の方から「影山くん」と声をかけた。影山は「どうした?」と答えると、冬野は少し考えてから、話し始めた。


「バイト終わってからうちに来れないかな?」


突然の誘いに影山は一瞬フリーズした。そして、冬野は慌てて「変な意味じゃないよ!」と訂正した。


「その、しおりの配信が今日やると思うし、何かあったときに一緒にいた方が2人で助けに行きやすいかなあと思って」


「俺はいいんだけど、冬野の方は大丈夫なの?男が冬野の家に行くの…」


若い男が娘の家に来るというのは親にとっては心配この上ない事案だろうと影山は分析する。そもそも付き合っているわけではないのに上がっても良いのだろうかと影山自身遠慮していた。そんな心境の影山に対して冬野は平然とし「たぶん大丈夫」と答えた。


「冬野がいいなら、それじゃ、お邪魔します」


「うん。そしたらママに連絡しとくね」


冬野はスマホで母親にメールを打つ。影山も妹の朝に今日は帰りが遅くなることの旨のメールを送り、それと、心配なので一応花子に朝と一緒にいて欲しいことの旨のメールを送信した。


(ホントに冬野の家に行っても大丈夫なのかなあ…?)


心配する影山であるが、冬野からはあっさりOKと回答をもらった。ということで、バイト終了後は冬野家にお邪魔することになった。

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