第10話 揺れる家と少女

翌日20時。影山がガイストに到着するとすでに冬野と花子が先についていた。何やらゲームトークで盛り上がっている様子で影山が来たのを確認すると「あ、影山くん!」と冬野が反応した。


「花子さんすごいんだよ!あのFPSのレックスでレジェンドランクなんだよ。今花子さんがYouTubeであげてるクリップ見てるけど、ホントに神だから!」


「いやいや、それほどでも。まあ、あたしくらいのレベルになると敵が止まって見えるってハ・ナ・シ」


明らかに調子に乗っている花子を見て影山はジト目になる。平日影山が学校に言ってる間に勝手に家に上がっては四六時中ゲームをしているので、プレイスキルは上がるであろう。ニートがゲームで最強になるのと同じ理屈であろうと影山は分析していた。


冬野と花子が盛り上がっていると九十九が2階から降りてきた。


「全員集まってるな?そしたら、花子。ここの住所のトイレに連れてってくれ」


「わかった」


花子は九十九からスマホに書かれた住所を見て、いるメンバーをトイレまで誘導した。トイレ移動の妖術を知っている影山と九十九にとっては特に疑問に思わない行動であるが、初見の冬野にとっては意味不明の行動であった。影山はとりあえず花子の妖術について説明し、先に九十九が花子と共にトイレに入った。10秒ほどで花子が出てくるとそこには九十九の姿はなかった。


「次は雪、入ってきて」


いつの間にか名前呼びになっていることから親密な関係になってるんだなと影山は思い、同時にすぐに仲良くなれる陽キャ2人に感心していた。


「よろしくお願いします花子さん」


「ふふ、初めてのトイレでの2人っきりだから、優しくしてあげるね?」


妖艶に話す花子。照れる冬野。これから怪しげなことをするような雰囲気にさせている花子を見て影山は「からかってるなあ」と思った。冬野と花子がトイレに入り、すぐに花子が出てきて最後の移動となった。


「じゃあ行くよ、陸」


「うん。よろしく」


影山と花子がトイレに入る。すぐに移動し、そこはどこかの公園の公衆トイレであった。影山がトイレから出ると九十九と冬野が待っていた。


「ホントに一瞬で移動したね。びっくりした」


冬野が周囲をキョロキョロしている。九十九が「行くぞ」と言うと花子は黙って九十九についていった。


「トイレ移動は初見だと驚くよね」


「うん。すぐに移動したし。なんか新鮮な感覚だった」


影山も初めてのトイレで移動したときには心底驚いたが、今では慣れてしまっていた。それだけ花子とは長い付き合いになっていることをあらためて影山は自覚した。


影山たちが来たのはとある田舎の住宅街。現在20時という時間であるが、夜道には誰もおらず、時折車が通る程度の静けさであった。4人が歩いて10分ほどで依頼人八重樫の家に到着した。九十九が玄関チャイムを鳴らすと八重樫は出てきた。


「お待ちしてました。どうぞ中へ」


影山たち4人は中へと入る。八重樫の様子は昨日と比べるとどことなく活気がない様子が見られた。八重樫にリビングへ案内され、影山たち4人は席に着いた。台所の方から八重樫が4人分のお茶を持ってきた。


「お疲れのところ、ありがとうございます」


九十九はお茶のお礼を言って、1杯飲んだ。


「依頼、早速始めさせてもらいます。まず、この家に入ってから家中から妖気を感じます。明らかに今回の件妖怪が関わっているのは間違いありません」


影山もその事には気がついていた。八重樫宅に入る前から妖気を感じ、中に入るとより濃い妖気を感じるようになっていた。


「八重樫さんの話では揺れは21時から2時の間でしたね。その間、私たちが待機します。家を揺らす原因が現れたところで私たちが何とかします」


「わかりました。よろしくお願いします」


「それと、娘様の様態を一度確認させていただいてもよろしいですか?」


「はい。どうか、見てあげてください」


「陸、おまえ俺と来い。それと、雪と花子はここで待機だ」


各々「了解」と頷き、九十九と影山は八重樫の娘のところへと向かった。娘の部屋であろう扉の前に着き、中へと入った。


「真美、お客様よ」


ベッドで寝ている女の子を影山と九十九は覗き込んだ。そこには衰弱し、痩せこけた青白い顔色の女の子。今にも死にそうな息使いで、明らかに不味い状況であった。


「生気を吸われているな。しかもがっつりと」


「そうですね。大分危険な状態ですね」


「やっぱり、これ持ってきてよかったな」


九十九はウエストポーチの中から小瓶を取り出した。八重樫は怪しそうにその小瓶を見た。


「何なんですか?それは…?」


「霊薬です。なくなった生気を回復させることができます。娘様にこれを飲ませてもよろしいですか?」


「…色んな病院に行って、医者に勧められた薬はたくさん飲ませました。それでもよくならなかった。その霊薬というのは本当に危ない薬ではないんですよね?」


八重樫の表情はどことなく諦めている。数多の薬を試してきたのか、薬への期待があまりないと見えた。


「危険ではないです。安心してください」


「…わかりました」


九十九は霊薬を女の子に飲ませた。すると、息使いが正常に戻り、顔色も肌色に戻っていく。その回復に八重樫はおどろいていた。すぐに娘に近づき「真美!真美!」と声をかけるが、返事はなかった。


「今のは一時しのぎです。娘様の様態を完全に回復させるためには専門の医者に見せるのが一番だと思います。私の知り合いに霊障の専門医がいますので今連絡します」


「はい。よろしくお願いします」


それから九十九と影山はリビングへと戻った。九十九は専門医と連絡を取り、そして席に着いた。


「さて、時間まで作戦会議といこうか。陸、この件どう思う?」


「…家の揺れについては家鳴の仕業だと思う」


「家鳴?」


冬野が影山に尋ねる。


「家を揺らす妖怪だよ」


「じゃあ、今回の件は家鳴の仕業?」


「かもしれない。ただ、娘さんの生気まで奪うかな?」


家鳴は家を揺らすいたずらが好きな妖怪であると影山は認識していた。家鳴が生気を奪う可能性ももちろん考えられるが、本当にそうだろうかと影山は悩んだ。


「とにかく、家の揺れの原因は家鳴何でしょ?とりあえず、家が揺れるまで待ってみよ。それから、なんかわかるんじゃない?」


花子が提案し、影山たち3人は頷いた。


「それじゃ、あたしは医者を向かいに行って来るよ。おトイレ借りてもいいですか?」


「…?はい、どうぞ」


八重樫は花子の言動をよく理解できていない様子見られ、トイレ移動を知らないと当然その反応になるなと影山は思った。


花子がいなくなり、リビングには影山、九十九、冬野、八重樫の4人となった。各々テレビを見たり、スマホを見たりと好きな時間を過ごし、時間は24時になろうとしていた。


「遅いな。花子」


影山がそう言うと、冬野は頷いた。


「そうだね。もう3時間たってるよ」


「準備に時間かかってるんだろ。あと少ししたら来るだろ」


九十九がそうぶっきらぼうに言うと、突然家が揺れ始めた。影山たち3人は揺れの震源がどこかすぐにわかった。影山と冬野は急いで震源となる場所に向かった。影山たちが向かったのはお風呂場。扉を開けると、そこには家鳴である三匹の小鬼が壁に触れ、家を揺らした。


「お前ら、家を揺らすのをやめろ!」


影山が叫ぶと、小鬼たちは影山の方に降り向いた。


「お前、俺たち見えるのか!?」


「ならすぐみんな逃げろ!やつがくる!」


「やつ?どういうこと?」


小鬼たちの発言に冬野が困惑していると、リビングの方から「陸、雪!早く来い!!」と九十九が叫んで呼ぶ声が聞こえた。影山と冬野はすぐにリビングに戻った。そこには八重樫を庇い九十九が黒い坊主姿の妖怪と対峙しているところだった。


「こいつ、黒坊主か…!」


黒坊主。

明治時代、東京に現れたという伝承がある妖怪。見た目は黒い坊主姿。夜に民家に侵入し、若い女の寝息を吸ったり、口を嘗めたりして生気を奪うと言われている。生気を奪われた女は病気となり、死んでしまうと言われている。


「娘さんの生気を奪ったのはこいつだったのか!」


「陸!俺は戦えないから!あとは任せたぞ!」


「わかってる!」


影山は右手に刀を出現させ、黒坊主に切りかかる。黒坊主は攻撃を避けて、攻撃してきた影山を敵として認識した。黒坊主は影山に噛みつこうと飛びかかる。影山は避けて玄関まで走った。


「家の中めちゃくちゃになるからな。外まで来い黒坊主!」


影山が玄関を出ると、黒坊主も後を追って家から出てきた。


「よし、それじゃあ戦闘開始!」


影山は黒坊主と対峙し、刀を構えた。


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