第1章 第2話 ぼっちは美少女と依頼を受けました

第7話 一網打尽ですな

放課後。

今日も今日とてバイトがあるので、影山は1人下校しようと校門を出ようとすると、そこには昼に揉めた松本が待っていた。


(面倒ごとになりそう…)


そう考えつつも、今後冬野が絡まれないようきちんと話をつけた方がいいと考えあえて影山の方から近づいていった。


「おう、1年。ちょっと面貸せよ」


「わかりました」


影山は黙って松本の後ろについていく。校舎裏まで来ると人は少なくなり、部活で使う物をしまう備品庫まで来るとそこにはがらの悪そうな3人の男たちが待っていた。


(なんかお約束の展開だな…)


影山がそう思っていると、ニヤニヤと笑っている男たちに見られながら松本から背中を蹴られ、影山は転んだ。


「1年、これからどうなるかはもうわかるよな?」


「まあ、なんとなく」


「なめた態度だなおい。食堂じゃびびってた癖によ。じゃあ手始めにてめえの全裸校内にばらまいてやるよ。服脱げ」


まわりから「ぬーげ!、ぬーげ!」とコールが始まり、影山は立ち上がり上の学ランを脱いだ。松本がスマホを取り出し、録画を始めると影山は呆れた表情ではぁとため息をついた。


「先輩、なんか勘違いしてますけど、別に俺はビビってたわけじゃないですよ」


「強がんなよ。ここには教師は来ないし、誰も助けに来ねえぞ」


「だから、助けなんていらないですよ」


影山は松本に近づき、スマホを掴んでいる方の腕を掴んだ。その腕からミシミシと音がして「い、痛え!」と松本は思わずスマホを落とした。


「離せゴラぁ!」


掴まれてない方で影山の顔面を殴る松本。しかし、影山は微動だにしなかった。影山は無言で松本の腹に拳を叩き込むと松本「オエっ!」と口から唾液をだらだら垂らしながら座り込んでしまった。ただならぬ様子で周囲の男たちは何もせず黙って見ることしかできなかった。


「昼の時は騒ぎ立てしたくなくて、あえて怯んでたように見せてただけですよ。結局、先生に連れてかれたから失敗でしたけど」


影山はしゃがみこみ、松本の髪を掴んで無理矢理顔を上げる。


「ちょうどいいので言っときますけど、冬野にはもう手を出さないでください。次何かあったら…わかりますよね?」


松本は黙って頷く。そして、影山は気にせず備品庫を出ていった。


(まあ、これで冬野に絡むことはもうないだろな。さて、バイトに向かうか)


スマホで時間を確認し、影山は校門を出た。すると、校門前にある老人がいるのを確認し、影山は声をかけた。


「何かよう?ぬらりひょん」


ぬらりひょん。

鳥山石燕の画図百鬼夜行にも描かれている老人の妖怪。のらりくらりと人の家に上がっては勝手に食材を食べたり、茶を飲んだりするが、そんな迷惑行為を認識できず、いつの間にか空き巣にあってしまったような状態にする妖怪。あるいは家主の認識を書き換えあたかも食ったり飲んだりが違和感ないように錯覚させることもできるという伝承がある。


声をかけられたぬらりひょんは愉快そうにヒヒヒと笑った。


「陸、あまり弱者を痛みつけるなよ。強者が弱者強いたげる悦ほどくだらないことはないからなあ」


「勝手に人の家の飯を食べる妖怪にどやかく言われたくないけどな」


影山にとってぬらりひょんとは子供頃からの付き合いである。ぬらりひょんは影山の父である影山礼二と昔から交流があり、その流れで影山は子供の頃からぬらりひょんとは縁があった。


「何かようでもあるの?」


「ない。偶然通りががってお前さんの様子を見に来ただけだ。それではな」


ぬらりひょんは歩き出す。その後ろ姿を見送り、影山はガイストに向かって歩き出した。歩いている途中、コンビニの前でジュースを飲んでいる白と赤のお馴染みの服を来ている花子がいた。


「今日はよく妖怪に会う日だな」


「ん?誰かと会ったん?」


「ぬらりひょんとちらっとね。花子は何やってるのここで?」


「特に何も。ここら辺ふらふらしてた。陸はこれからバイト?」


「まあね」


「暇だしついて行こっかなー。コーヒーも飲みたいし。あ、もちろん。おごってね?」


「しょうがないなあ…」


影山と花子は2人でガイストに向かった。到着し、中に入るとカウンター内でコーヒーをつくる九十九と2人のお客がいた。九十九は「いらっしゃい」と反応した。


「今日はちゃんと働いてますね」


「まあな。花子も来たのか」


「うん。コーヒー飲みたくて。オリジナルブレンド1つよろしくー」


「あいよ」


と言って九十九はコーヒーを入れ始める。影山は荷物を置いてからエプロンをつけ、真面目モードで働いている九十九ときちんと洗い物が片付けられている洗い場を見た。


(真面目に働いてるってことは。今日はあれの日か…)  


影山が考えていると、店の扉が開き「お疲れ様でーす」と言って冬野が入ってきた。冬野が影山を見ると、ニコッと笑い「今日もよろしくね。影山くん」と言い、影山は学校で冬野から「かっこよかったよ」と言われたことを思い出し、顔を赤らめ「…よろしく」と返事した。その2人のやり取りを黙って見ていた花子が「へー…」と言ってニヤニヤしていた。


「何々?良い感じなん?」


「なんだよそのにやけ面。何もないからな」


「ねえ、あんた、陸の友達?」


花子から唐突に話をふられる冬野。冬野は「うん。そだよ」と軽く返事をした。そして、冬野は花子をジッと見た。


「可愛い子だね。えーと、影山くんの妹さん?」


と冬野が影山の方を見て尋ねると、花子が「違う違う」と手を振って否定した。


「あたしは陸の幼馴染み。花子だよ」


「幼馴染み?君と影山くんが?」


年齢差はともかく、冬野視点から見ると影山と花子では幼馴染みというより、兄妹のように見えるので意外と冬野は感じていた。


「おいお前ら、話はいいから仕事しろよ。今日は忙しくなるんだからな」


「今日何かあるんですか?店長?」


冬野が尋ねると九十九は「まあな」と軽く返事をしてから、その後は特に追加の説明はなく、店内にあるテレビを見始めた。冬野が不思議そうにしていると影山が「あとで説明するよ」とフォローした。


「とりあえず俺らも仕事しようか。冬野はまた注文と運び、レジ打ちを頼むよ」


「うん。わかった」


冬野は頷き、影山と冬野はいつも通り仕事を始めたのだった。

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