第6話 かっこよかったよ

翌日。

影山は学校の食堂にいた。影山は基本的に朝パンを買ってこっそり昼飯を済ませることが多いのだが、今朝妹を昨晩の誤解を解くために説得しているうちに昼飯のパンを買うのを忘れて登校してしまったのだった。


賑やかな食堂にて、影山はこそこそと食堂の売店へと向かっていた。


(うわぁ、人たくさん、陽キャがたくさんいる…早く帰って退散しよ…)


そう思いながら影山が移動していると、ふと、見知った顔が影山には見えた。


(あれって、冬野と、サッカー部の松本先輩?)


影山の視線の先には冬野と学校で有名なイケメン陽キャ松本遊作先輩がいた。何やら話し込んでいる様子で影山は壁のすみによって少し様子を見ていた。


「なあ、冬野さん。部活やってないんでしょ?だったらサッカー部のマネージャーやってよ」


「いえ、私はサッカーに興味ないですし遠慮しときます」


影山といるときとは異なり、元気のないよそよそしい態度を取る冬野。対して、松本は自信満々という態度で冬野と接していた。様子を見ていた影山は昨日冬野が話していたことを思い出した。


(男の人怖いって言ってたけど、ホントなんだな…)


引き続き様子を見ていると、松本が冬野の腕を掴んだ。


「すぐに決めなくていいからさ。俺らと飯食べようぜ。そのとき決めればいいからさ」


「ちょっと、離してよ!」


「おいおい先輩には敬語使えよ後輩。いいから、来いよ」


明らかに嫌がって困っている様子の冬野と強引に誘う松本。そして、それを見てみぬふりをするまわりの学生。そんな雰囲気に影山は苛立ちを感じた。


(なんだよ、それ!)


影山は冬野たちに近づき、影山は松本の肩を掴んだ。


「冬野が嫌がってる。離してください」


「あ?誰お前?」


「えーと、一年の影山…」


「どうでもいいし。てか何?邪魔なんだけど?」


明らかに邪魔されて苛立ちを見せる松本。その様子を見て影山は少し怯んだが、影山は退かなかった。


「はぁ、何お前?急に来て離してくださいとかキモすぎるだろ。お前みたいな陰キャはあっち行けよ」


「あっち行くのはお前だろ。勘違い野郎」


「なんだてめえ?しめられたいのか!?」


松本は冬野を離し、影山の胸ぐらを掴み始めた。穏やかな状況じゃなくなり、食堂での注目を浴び、周囲はざわついていた。


「まあまあ、落ち着いてください。まわりの迷惑になりますし」


「何へらへらしてんだてめえ!」


影山を殴ろうと松本は手を上げると、「何をやってるんだお前ら!」と怒鳴って教員が乱入したきた。ただならぬ様子であったので、学生の1人が教員を呼んだのであった。教員は「来い!松本!」と言うと、松本は舌打ちしつつ、黙って教員についていく。


(ふう、これで一件落着だな…)


安堵した影山は当初の予定のパンを買いに行こうとすると、「ちょっと待て、そこの、えーと、一年男子!君も来なさい!」と呼び出しをくらってしまった。


(ええ!俺もかよ!てか、俺の名前はわからんのかよ!)


影山はしぶしぶ教員に従い生徒指導室へ。松本と仲良く叱られる。喧嘩ご法度厳重注意とされ、10分程度で解放された影山は安息の地を求めて屋上前の階段に行き、だらけていた。


「最悪だ…。目立ってしまったし、昼ご飯も買えない。厄日だ…」


としょげる影山。しかし、冬野を助けたことは後悔していなかった。次の授業が始まるまで残り15分。パンを再度買いに行くやる気はすでにないので残り時間はだらけることに影山は決めた。スマホを取り出し、適当にSNSを眺めていると下の方から小走りで近づいてくる足音が聞こえてきた。下を見ると、ハアハアと息を荒くし、パンとお茶を2人分持った冬野がいた。


「よかった…。やっぱりここにいた…」


「冬野?」


冬野が階段を上がり、影山の隣に座る。そして、「はい、これ」と言って影山にパンとお茶を渡した。


「え、いいの?」


「もちろん。さっきのお礼。ありがとう」


「いいよ別に。それに、俺が腹減ってたのよくわかったね」


「だって食堂に来てたから、私のせいでご飯を食べれてないと思ったし。ホントにごめんね。巻き込んで…」


「いいってホントに気にしなくて。それじゃ遠慮なくもらうね」


影山はパンを袋からだし、丸かじり。そして、お茶を飲んだ。隣にいる冬野もパンを小さな口でかぶり付き、お茶を飲んだ。冬野の額から汗が垂れるのを影山は見た。


「俺を探してくれてたの?」


「そうだよ。もう疲れた」


「LINEしてくれればよかったのに」


「あ、確かに」


呆気にとられる冬野。その様子が面白くて影山は少し笑った。それにつられるように冬野も少し笑った。


「よかった。影山くん少し元気になった」


「お陰さまでな」


影山はお茶を1口飲んだ。


「松本先輩とはどんな関係なの?」


「最近マネージャーやってって付きまとってくるの。ホント迷惑」


「そうなんだな。そしたら、また絡まれるようなことあったら教えてよ。俺がまた助けるよ」


「へ、あ、うん。ありがと」


不意に影山に真剣な表情で言われて冬野は照れ臭そうにお礼を言った。そんなこんなで授業5分前となり、パンを食べ終えた2人は教室に戻り始めた。


「じゃあね。影山くん」


「またな冬野」


と言って2人が別れると、「あ、影山くん」と冬野が呼び止める。影山は「何?」と振り向くと冬野はニコッと笑った。


「かっこよかったよ」


満面の笑み。その表情に影山は思わずときめいた。冬野は小走りで教室へと戻っていき、影山は呆然としていた。


「それは破壊力ありすぎだろ…」


笑顔のインパクトにやられた影山はとぼとぼと教室へと戻っていった。


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