第2話 春はぼっちになる季節

春は鬱になる季節である。

誰もいない屋上への階段途中、座り込んでゲームをしている高校一年生の少年はそう思っていた。


少年の名は影山陸。身長175センチとややガッチリした体格。黒髪ショート。4月より北海道にある桜陵高等学校に入学した高校一年生。入学し一週間がたった現在、影山は友達を一人も作ることができずにいた。本日昼食にてぼっち飯を堪能した後、教室に行っても机に突っ伏して寝たふりをするか、スマホで暇を潰すしか手段がなくいたたまれないので休み時間終了まで隠れて趣味のゲームをしていた。


(あー、ここで暇を潰しはじめてから3日もたつのか…)


影山は小学生の頃よりとある事件をきっかけに初対面の人に自分から声をかけられないコミュ障となってしまっていた。そのため、高校に入学しても誰にも声をかけられず、ぼっちとなり、心の安息を求めて校内を彷徨った結果。屋上への立ち入りは禁止されているためその道中である屋上前の階段が滅他に人が来ない場所と気付き今に至る。


「陽キャたちと一緒にいても気が滅入るだけだし、この隠れ家で気ままに過ごすのが一番だよなあ」


しんと静かな空間のなか、影山は携帯ゲーム機でゲーマーなら誰でも知っている高難易度の死にゲーRPGを淡々とプレイしていた。


「あー、このボス、ホントディレイが嫌らしい。まあ、それがゲーマーのやる気に火をつけるんだけどな」


影山はそうブツブツ言いながらゲームを楽しむ。影山の趣味はゲーム、漫画、アニメと基本的にインドアである。小学生より交遊関係が皆無な影山にとってゲーム、漫画、アニメがぼっちで楽しめる最高の娯楽なのである。


黙々とプレイし、ようやくボスを倒し終わった影山はスマホで時間を確認する。午後の授業10分前であることを確認し、あらかじめ教室から持ってきていた鞄にゲームをしまい、自分の教室に戻ることにした。


(あの教室に戻るのか、気が滅入るな…)


クラス内で特に虐められているとか、無視されているとかそんなことはなく、むしろ、影山を気にして声をかけてくれるクラスメイトは何人かいる。しかし、影山はどう対応したらいいのかわからず、社交辞令程度に対応して、そのまま進展しないことが多かった。そういう経緯もあり、クラス内ではどんどん浮いてる存在になってしまっていた。


(俺も仲良くしたいって考えてる…。でも…)


影山がぼっちである理由として、自身のある特性が主な原因であった。誰もいない廊下を歩いていた影山はふと、五感では感じられない第六感で感じたものの気配を察知し、窓を見た。


そこには、3階という高さにも関わらず血塗れの白い服を着た髪の長い女の人が立っていた。


影山陸には生まれつき霊感がある。その特性もあって、子どもの頃に見えないものが見えることで気味が悪いと虐められた経験がある。それ以来人との関わり方がわからなくなり、ぼっちとなってしまった。


白い服の女性は髪の隙間から影山のことをジッと見ていた。そして、窓越しに微かな声で「助けて…」と呟く。影山は憐れむように女性のことを見た。


「もう苦しまなくてもいいですよ。今、楽にしてあげます」


影山は女性を助けたいという気持ちを高ぶらせる。そして、窓を開け、女性に触れると女性は光に包まれ、徐々に消え始めた。女性は最後に「ありがとう…」と言うと完全に消滅した。


「朝、事故に遭った人かな…」


影山が登校するときに道中警察と救急車が来ていた。後から学校でまわりが話しているのを盗み聞きしたところ飲酒運転で若い女性が轢かれたという話だった。ここからは影山の予測となるが即死した女の霊が霊感がある影山を感知し無意識に救いを求めてやってきたのだろうと影山は分析した。影山のように生まれつき霊感がある者は妖気を持ち、その妖気を用いて浮遊霊を黄泉へ送ることができる。


影山は窓を閉めて、教室に戻ろうと廊下の方に向き直すとそこには1人の少女が立っていた。


(あ、冬野雪…)


その少女は影山がよく知っている。というより学校内でよく知られている人物だった。


冬野雪。

影山と同じく桜陵高等学校に入学したばかりの1年生。黒髪のセミロング、そしてとびきりの美少女で入学当初1年生だけでなく、2年3年と冬野のルックスの良さに話題となった。話題となったのは容姿だけでなく、入学したときの成績はトップクラスで運動神経も抜群とのことと影山は聞いていた。影山とは別のクラスであるが、ちらほらと冬野雪の良い評判は聞こえてくるほどの有名人である。


冬野は影山をジッーと見ていて、反応に困った影山は「えっと…」と言って固まった姿を見ると、冬野はクスッと笑った。


「授業始まるよ。急がないと」


「あ、うん、そうだな…」


影山が返事すると冬野は影山の横を通りすぎて自分の教室へと帰っていった。そんな彼女の後ろ姿を見ながら影山は疑問に思っていた。


(ここの廊下、音楽室とか美術室とか移動がない限りは基本誰も来ないはずなのに、冬野は何しに来てたんだ?)


そんな疑問に思いつつ、そろそろ予鈴がなる時間になってきたので、ひとまず影山は教室へ急いで戻るのであった。


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