第3話 二人

 「私は戦うつもりなどありません、あとはこの二人に任せます」


 そう言って教皇は、教会の奥へと去っていった。

 追おうと歩を進めるが、教皇自らの魔法によって完全に精神を支配されている側近の二人に足止めをくらう。


 操り人形と化した二人、せめて私の手で眠らせてあげよう、と。その思いを込めて特殊スキルにて更なる力を発動させる。


 「暗器兵装βトランス・ブラック・ベータ


 刀を仕込んである杖に魔力を込めるとその刀身が40cmから70cmへとなり形状も無反りからより凶悪な外反りに変化した。


 α・β・γ……と上がっていくにつれ身体能力、思考速度、武器の形状までも変化し上昇する。けれど、それに伴い体力や魔力の消費も増加する。

 今の私にはおそらくβが戦闘で扱える限界だろう。


 「せめて、安らかなる眠りを」


 そう言って私は戦闘を開始した。

 

 *


 二人のうち男の武器は、短刀のようなもの。

 ナイフのように小さく、糸のように細い。幻術を使用し、刀身に毒を付与し、スキルを合わせることで、回避困難な必殺級の攻撃が常に行われる。

 幻術は無効化出来ているけど、一度でも切られれば毒が回り致命傷になってしまうだろう。

 

 女の方は、魔法で私に攻撃をしてくる。致命傷にはならないものの、時間を稼がれて現状は教皇の思うつぼ。

 

 「決定打に欠けるわね、お互いに」

 

 そうは言うものの両者を観察する余裕はあった。

 少しずつではあるけれど、勝ち方は見えた。

 

 「秘儀 千花百花」

 

 一分も観察すれば、完璧に予測できるようになった。

 

 魔力を使用し身体能力を瞬間的に大幅に上昇させ、私の持つ心眼によって魂の動きや生命、魔力の動きを的確に読み取ることで最善手を導き、勝負を一気に決める。


 それが、秘儀 千花百花。

 

 「お休みなさい」


 決着とほぼ同時、教皇の向かった教会の奥、おそらくは教会の外から轟音が鳴り響く。


 急いで教皇の元へと走る。


 「これは……」

 

 その先には光り輝く美しい球体と、その逆光に見える教皇エルドが居た。


 そして、球体の魔力を見て確信した。


 教皇は、たった一人で、集団で発動させることを前提とした最上位魔法を行使したのだ。一人の魔力では足りるはずがない魔法を。


 どうやって?


 そういえば、あの球体には魔力以外に魂も見えた。心眼で見える今の光景は眉唾物ではないだろう。


 何万人という街に居た人々の魂を魔力へと変換しているのだろうか?


 「そんなこと許されるわけがない」


 瞬間的に教皇へ駆けた。

 精神攻撃によって感情を制御しきれなかったからこそ起きてしまった失態。


 だからこそ、気づけなかった。自ら振るうべき刀が、消えていたことに――。

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