第1話 エルド宗教

 狂信者となり果てた……いや、狂信者に成るべくして成った。

 彼は――幸せですか? 彼は――生きていますか?

 

 教会で誰かが、"神"に問う。

 

 『きっと、幸せですよ』

 

 そうですか……それは、とても良かった――――

 


 *


 エルド宗教それは、ここ数年で急速に勢力を伸ばした古くからある宗教である。

 

 エルド宗教の勢力拡大速度の"異質さ"と"独自の調査による結果"からこの依頼が斡旋されたようだ。

 期日は……今日中か。筆頭執行官になってから難易度の高い依頼を受けることが多くなったが、これほど期間が短いのは初めてだった。

 それほどエルド宗教を危険視しているということだろう。

 

 「エンシェ、エルド宗教の情報収集は任せるわ」

 「かしこまりました」


 ギルド支部「ノースドーラ」がある街には、国教「ドルディア宗教」が根付いている。そのため、今回の依頼の標的となるエルド宗教の本部に向かうには、22区に分類される森林地帯と草原地帯のある地域に行く必要がある。それも、22区の主要街ラルトに。

 

 22区までの距離はかなりのものだけど、エンシェは転移を行うことが出来る。他の執行官たちは、聖獣や汽車などに乗り移動することが多く転移を使用するのは帰還する際だけなのだけど、エンシェがいれば移転魔法用の巨大な魔方陣の存在している「移転室」にさえ居れば空間魔法の転移で一瞬にして、基本どこへでも行くことが出来る。

 

 2時間後、エンシェから一通り報告を聞くと地下室にある「移転室」へと入り指示を出す。

 

 「エンシェ、頼む」

 「はい、マスター

 

 彼女の一言で、部屋は魔方陣の光に埋め尽くされる。そして、その光が最高潮に達したとき私の目は森を映した。


 *

 

 転移してきたのは、22区の主要街の1つである「ラルト」より少し離れたラース森の中だ。ラース森は、針葉樹の森であり、これは魔獣と人類の戦い「魔獣戦争」の名残である。とくに、ここに植えてある針葉樹は、魔獣が嫌う粒子を出しておりこの場所以外にも、都から離れた街には多くの場合、針葉樹が植林されている。

 

 そして、森を抜け「ラルト」の目の前へと来た。

 

 エルド宗教の始まりの地ラルト街だけど、入る前にすでに違和感があった。この街は、活気がない、守衛も見当たらないのだ。さらには、空間の歪みを微かに感じる。少なくとも、この空間の歪みを解くには中に入る必要がありそうだ。


 そのまま街へと一歩踏み入れる。

 

 中に入ると、予想外のことが起きた。宗教本部が見当たらないのだ。

 

 宗教本部には、その信仰先の神を模った聖像シンボルがあることが通例である。100年以上前のエルド宗教の記録を、エンシェから聞いた時も小さいながら聖像シンボルは存在していたらしい。

 だからこそ、おかしい。聖像シンボルがなく、本部もないということが。

 

 本部はなぜ見当たらないの?

 

 宗教のトップ教皇を消すことができれば、混乱も被害も最小限に抑えられると思ったのだけど、これでは実行ができそうにない。


空間封殺アンチ・スぺーシャー


 空間の歪みを解くため「空間封殺アンチ・スぺーシャー」という魔法を使用する。微かに空間の歪みが解けると、遥か遠くに教会が現れた。高台に位置するその教会には、教皇と思われる者が見えた。


「あれが標的ね」

 

 「空間封殺アンチ・スぺーシャー」によって全貌を見ることができるようになった教会の位置や町の配置を思い浮かべると、ある予想が生まれた。

 街そのものが、聖像シンボルの魔方陣になっているのではないか。さらにその聖像シンボルの効果が、精神干渉や精神攻撃などを含んだ魔法なのではないかと。


 「エンシェ、今分かったけど恐らくここは……」

 「はい、私もそう考えます」

 

 そのエンシェの答えではっきりした。このエルド宗教は、"精神干渉魔法"を使っているのだと。

 

 辺りを見れば、信者と思われる群衆が私たちを囲んでいる。

 なるほど……依頼が来るわけだ。私やエンシェにまで、精神攻撃を通じさせるほどの力。

 

 これは――――確実に転生者の仕業。

 

 「エンシェ、手早く終わらせましょう。群衆は任せたわ」

 「はい、マスター


 私だけの持つ特殊スキルによって、杖を召喚する。

 

 「暗器兵装αトランス・ブラック・アルファ

 

 杖に仕込んだ"刀"を抜いた。


 「私は教皇を狙います」

 

 こうして、戦いは幕を開けた。

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