エンジェ視点の話
僕にお母さんはいない──
僕が物心ついた時、既に母親はいなかった。
父いわく俺の母さんは体が弱く俺を出産すると同時に亡くなってしまったらしい…
父さんは僕が小さい頃からお母さんがどれだけ綺麗な人だったかをよく語っていた。
それこそ…鬱陶しいくらいに。
だけど、実際に家に母さんの写った写真を見る度にこの世とはかけ離れた美しさを息子である僕ですら感じる。
(きっと母さんが生きていた時は多くの男性を魅了していたことだろう。
きっと普通の人でも母さんに魅了を感じていただろうし、そんな母さんと結婚してずっと隣にいた父さんは他の人よりもその数倍、数十倍の魅力を感じていたんだろうな…)
僕はそんな母さんの血を強く引き継ぎ髪と肌は正に写真の母さんそっくりだ。
昔自分の地毛がなぜ金なのか疑問に思い、母さんはどこの国出身かを聞いたことがある。
期待していた答えは「うーん…そうだなぁ 信じられないと思うけどお前の母親は空の上の天使がいる楽園出身だよ。」
というものでからかわれる結果で終わった。
その後も何とか似た質問はしたけど求めている答えは帰ってこなかった。
小学生上級生になった頃、僕は自分の容姿に疑問を抱くことになった。
クラスメイトの男友達にとある疑問をぶつけられたのだ──
「なぁなぁシルフィって男なのになんでそんな髪なげーの?邪魔じゃないのか?
っていうかいつも思ってたけど体育見学するけど大丈夫か?」
この問いに僕は今まで当たり前と思っていただけに何も答えることが出来なかった。
クラスの女の子が
「シルフィ君はこんなに綺麗な髪なんだから切るのなんて勿体ないでしょ!」
「シルフィ君はいつも日焼けとかしないようにしてるし肌が弱いんだよ!
それくらい察してあげなよ!!」
とその男子と口喧嘩を初め、その場は最終的に先生になだめられる形で終わった。
この日、僕はなぜ自分は髪を伸ばしているのか、どうして肌を過剰な程守るようにしていたのか父さんに聞いた。
「お前は母さんに似てとても美しい髪を持っている。
そんな髪を切るのなんて勿体ないし
この美しい髪を切られたら私は悲しいよ。
それにお前の肌は人よりも弱い。
せっかく母さんに似た容姿があるんだからそれを大切にした方がいい。」
返ってきた言葉を聞いて僕は気づいた。
父さんはきっと僕の姿を母さんに重ねているいるんだと──。
父さんのことは大好きだし母さんに似ている自分の容姿も嫌いでは無い…
ただ今まで父さんは僕をエンジェという1人の人間に母さんの影を見ていることがどうにも悲しかった。
僕は母さんじゃないのに…お父さんの息子なのに
もし僕が母さんに似て居なかったら今みたいに愛されることは無かったんじゃないかと思うと胸が苦しどうにも締め付けられた。
それから少し年月が経ち僕は中学生となった。
中学生になって僕には輝という友達ができた──
輝は体が結晶化していくという奇病を患っているらしく、体育を見学仲間であったことをきっかけに仲良くなった。
輝は小学生からの友達と少し違うところがあった。
それは、奇病を患っているところとかではなく人間の本質的にあったんだと思う。
輝とそれ以外には明確な違いがあった。
それは多くの人間は僕の容姿に価値を感じているのに対して輝は僕の内面の価値にまで触れたくれたからだと思う。
他の人はもし僕が今の美しい姿を無くした時離れていくかもしれないけど、輝は僕の見た目が変わってもそんなことは絶対にしない──
僕は心のどこかでそんな確信を持っていた。
学校の一学期が終わり夏休みがやってきた。
夏休みの1番の思い出は輝と夏祭りにいったことだ。
毎年夏祭りには複数人行っていた僕は今年も複数の友達に誘われたがそれを断って輝と2人の夏祭りを選んだ。
直感のようなもので他の奴との夏祭りは次があるけど輝といれるこの時間には次がないかもしれないと分かっていたからだ。
輝は自分に付き合わせてしまっていることを申し訳なさそうにしていた──。
でも今まで他人の力になる事が少なかった僕からすれば輝の力になれた事は嬉しかったし…なにより1番の親友だと思っている輝と2人きりでの過ごせるこの時間が幸せだったんだ。
夏が終わり秋になった頃、輝の結晶化が目に見え進行していることが分かった。
この頃から輝が居なくなるんじゃないかという不安を感じるようになっていた。
10月に輝とハロウィンパーティをした。
今まで家に友達を呼ぶことはなかったけど、どうしても輝を家に呼びたかった僕は父さんお願いしてハロウィンパーティーを行った。
父さんは輝の存在を知って僕がここまで大切にしている友達がいることを喜んでいた──
でも父さんも輝の命がそう長くないことは察したのか父さんの輝を見る目は母さんを語る時のような雰囲気があった。
この日輝は見るからに高そうなカメラを持ってきていた。
どうやら輝の父親の大切なモノだったらしくこの時初めて輝の寂しそうな顔を見た気がする。
11月には輝の誕生日があった。
輝に何か特別な誕生日プレゼントが送りたかった僕は手作りでお揃いの写真立てをつくった。
前のハロウィンパーティーで撮った写真をより特別な思い出にしたいと思ったからだ。
プレゼントを輝は喜んでくれて嬉しかった。
12月のクリスマスパーティーも輝と過ごした。
お互いにプレゼントを送りあって僕はプレゼントとして手作りケーキに挑戦してみた。
少し不格好な見た目ではあったけど美味しかった。
輝からはお揃いのミサンガを貰った。
年が明けてから輝は寝たきり状態となり学校に来なくなった。
それからの僕は行ける限り毎日輝の所に行った。
輝からの体はほとんど結晶化していた。
あと数日で自分の命が終わることを輝から聞かされた時は信じたくないと思った。
そしてついにその日は来てしまった──。
輝は僕が学校に行っている間に亡くなったらしい既に体が冷たくなった輝の手にはお揃いのミサンガが握られていた。
その日は一日中泣いた。
輝の葬式が開かれることになった。
輝の死をまだ受け止められずにいた僕は重い足取りで葬式場に向かった。
父さんも輝の遺影の前で手を合わせてくれた。
葬式の終わりが近づいた頃入口の辺りが騒がしくなった。
化粧の濃い50代くらいの見た目の女の人がどうやら入口で騒いでいるらしい。
僕がその現場に近づいくと女の人の騒いでいる内容がハッキリと聞こえてきた。
「〜って だから!私はあの子の!輝の母親なのよ!」
どうやらあの女の人は輝の母親だったらしい。今まで輝から母親の話なんて聞いたことは無かったけど一体どうして…
「いいえ 輝さんと貴方は既に名義上の親子ではありません」
輝の母親を取り押さえた警備員らしき人が淡々と事実を伝える。
「うるさいわね!私は!間違いなくあの子の母親であの子を愛していたの!だからあの子の遺産として相続されるはずのお金を私は貰う権利があるのよ!あんたら部外者が口出しをするなぁー」
ヒステリックな叫び声を上げる輝の母親。
輝が話をしたがらないのも分かった気がする。そして母親の言った言葉に引っかかった。
僕はこの人の事は全然知らないけど輝のことを愛してなんかいないし輝をお金としてしか見ていないことは分かる…こんな親がいることを許せるはずがなかった。
「貴方は輝のお母さんなんですね…」
「あらぁそうよ あなた輝のお友達?いつも仲良くしてくれてたのかしら」
今更取り繕っても無駄だろうに輝の母親は猫を被りだす。
輝の母親に対する嫌悪感が止まらない。
「貴方は輝の親とは思えないほど醜い人ですね」
思ったことを口にする。
すると輝の母親の沸点は低くすぐに怒りを露わにし、化けの皮は剥がれることになった。
「あんた私を馬鹿にしたでしょ!なに?私になんの文句があるのよ!」
「醜いって言ったんですよ?聞こえなかったんですか?貴方は輝が苦しんでる時に1度でもお見舞いに行ったんですか?行ってないですね!!
僕の優しくて大好きな輝を貴方は…いやお前はお金としてしか見ていない!そんな人間が今になって親を語るな!」
輝の母親の醜悪さについ僕も声を荒らげて怒りをぶつけてしまう。
「あんな低学歴の父親の子供なんかに価値なんかある訳ないし時間なんて使うわけないでしょ?この私があんな価値のない子のためにわざわざ葬式に顔を出しただけ感謝して欲しいわね」
余りのいいようにコイツは本当に人間なのか疑いたくなる。
「輝に価値がない?じゃあお前はなんなんだよ!子供を見捨ててお金として価値があると分かった途端親ぶるお前は!!
お前に一体なんの価値があるんだ!見た目も欲にまみれた歪んだ顔をしていて!性格も人間とは思えないほどに醜いお前に一体なんの権利があって輝にぃっ 価値がないって言えるんだよ!!!」
パァン
僕が頬を叩いた音が会場に響く。
すると逆上にしてきた輝の母親が警備員を振り解き僕に殴りかかろうとしてきた──
が次の瞬間先程から怒りを露わにしていた他の人達が輝の母親を大勢で囲み取り押さえられどこかへと連れていかれた。
その後無事葬式が終わろうとした──
その時…
輝の結晶化がついに体全体へ行き渡るのと同時に輝の体は音を立て崩れ始めた。
いきなりのことに僕を含め周りは動揺している。
1分も経たないうちに粉々となった輝の体は小さな隙間から吹かれてきた風に乗って光の粉のようにその場から消えてしまった。
この時の僕は輝の遺体がなくなったことに対しまた涙を流すこととなった。
輝の死から少し時間が経って3月の終業式の終わりを迎えた。
少し時間が経つことで気持ちに整理がついた僕は輝の遺体がなぜ消えることになったのかを考えていた。
輝の体は現代技術で成し遂げられなかったことを可能にすることの出来るような未知の物体であり、だからこそあの親が言ったようにすごい価値があった。
未知の存在であったそれは多分僕たち人類が手にするにはきっと大きすぎる存在で…だからこそ存在することが許されず輝ごと消されてしまったのではと思う。
正直すごい理不尽なことだと思う。
多分これがなかったら僕は輝が消えた事実を受け止められなかったと思う。
輝の遺体が無くなったことで多くの人は輝という人物は記憶から忘れられていくことになると思うけど僕には輝と一緒に生きた証明である写真もミサンガもある。
これがある限り僕の中の輝との思い出が色褪せることはない。
僕の唯一無二の親友の輝…多くの人は君の人間としての価値を分かってはくれなかったけど…僕は誰よりも輝が良い奴で価値がある存在だということを知っているよ。
ありがとう輝…
僕の親友。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます