価値はあった僕と価値がある君

ゆゆ太郎

輝視点の話

僕にはお母さんがいない。

生まれてすぐの頃に父さんと離婚して親権を放棄したらしい。

父さんは本当に優しくて仕事もあるのに他の人の手を借りることもせず僕を1人でここまで育ててくれた。


小学6年生の時父さんの趣味に付き合って森まで来た 。

父さんの趣味を少し退屈に感じていた僕は空を見上げてた。

すると空中になにか円盤状のナニカを発見した。

あれは…まさかUFOなのか?

UFOといったら夜に出現するものじゃないのか?と思いながら明らかに異質だったそれを僕は追いかけてしまった。

慌てて父も僕の後を追いかけた。

追いかけて5分ほど経った時UFOが墜落した。


UFOは思っていたよりも大きかった...

墜落に反応できなかった僕を父さんが突き飛ばす形で庇ってくれたらしい。

突き飛ばされた衝撃でほんの数分意識を失った僕が次に目を開けた時…

そこには何も無かった。

父さんも UFOも...

そこには最初から無かったかのように。


そこから先の記憶は曖昧で…

たまたま近くを通りかかった親切なおじさんが帰れなくなった僕を助けてくれた。

親はどうしたか と聞かれたが答える言葉できなかった。

おじさんは何かを察したのかそれ以上聞いてはこなかった。


警察に一時的に保護された後、父親が失踪した扱いになっていることを知った。

親権を放棄した母親も居場所が分からないということで僕は施設に行くことになった…


それから1週間ほどたってから左足に妙な違和感を覚えた──

違和感の原因は直ぐにわかったが理解は出来なかった。

足の1部が結晶のような何かに変化している。


急いで僕は病院に向かった──

病院で診察を受け医者からはこれまでに前例がないと言われた。


その後僕はよく分からない研究所らしき場所に連れていかれたのだけどそこで僕の左足に起きた変化について教えてもらった。


話が難しくてよく分からなかったけど僕の足は地球上では例のない新しいナニカになっていること、そして結晶化の症状は僕の体を少しずつ蝕み最終的に心臓にまで至るかもしれないことは理解出来た。


ハッキリとは言われなかったけどきっと僕は

結晶化によって最終的に死ぬことを本能で直感した…


研究関係の人達の間で僕のことは話題の嵐になっているらしく結晶にはすごい価値があることが分かった 。


僕の足を切り落とすかも議論されたらしい。


流石に非人道的だからとそうはならなかったが人として扱われていないように感じて胸がなんか変な感じだ…


研究室から解放され学校に行くことが許された。


クラスの皆、いや学校全体から僕は奇妙なものを見るような目で見られた…


少し前までは片親の可哀想な子として見られていた僕は今度は奇妙なナニカとして見られるようになってしまった…


話しかけてくる人は皆僕の結晶化について聞いてくる。


逆にそれ以外のことに興味を示さない。

みんな僕じゃなくて結晶を見ていた──


それから少し経って中学生になった僕だが特に小学生の頃と変わったことは無く相変わらず僕という人間には興味はなかった。


初めての体育の時間、僕はこの頃には両足共結晶化して車椅子生活を送っていたから体育は見学だった。


体育が毎回見学だった僕だけじゃなくもう1人いた──


彼の名はエンジェと言って外国人の日本人のハーフらしい。


名前はエンジェルから取ったらしくその名前の通り彼の見た目は地上に舞い降りた天使の様であった──


腰まで長く伸びた金色の神はとても美しく真っ白な肌は雪のように儚い印象を抱かせる。


体育の見学の時は毎回彼と一緒だったこともあり僕とエンジェは親友と呼べる間柄となった。


この頃僕は周りの僕を見る目からすっかり卑屈になってしまっていたがエンジェだけは僕を輝という1人の人間として見てくれている気がした 。


だからこそ彼と過ごす時間は僕にとってすごく大切なものであったし心地よかった。


でもエンジェは僕と違い友達と呼べる間柄は沢山いるし、彼の外見は男の僕も見惚れてしまう程なのもあってファンクラブも設立される程に学園で人気があった。


それでも僕はエンジェに親近感を覚えていたし他の誰より仲が良いと自覚していた。


人としてじゃないナニカとして価値を見出されている僕と人としての価値があるエンジェ

それでも僕とエンジェは似てると思った。


夏の間は大好きだったプールには行けなかったけどエンジェが僕を介護する形で夏祭りを楽しんだ。


僕の介護に付き合わせて他の友達とは別行動になってしまったことが少し申し訳なかったけど…彼と2人で見た花火は綺麗だったしこの思い出は僕にとってかけがえのないものであった──。


夏が明けて秋がきた。

この頃ついに上半身から腕にかけての結晶化が進み寝たきりになるのが近づいてきてしまった──


まだ自分で動ける内に僕はエンジェと最後に思い出をつくりたいと思った…

決して消えることの無い形に残る形での思い出を…。


そこで僕は亡き父の形見であるカメラの存在を思い出した。

あのUFOを見つけた日僕は父の趣味である美しい景色を写真に残すために遠出をしたんだ──


(父さんの撮る写真はとても美しくて僕は大好きだったな…)


ハロウィンや11月の誕生日、クリスマスはエンジェと共に過ごした。


こういった行事を父さん以外とするのは初めてですごく嬉しかった──


もちろんこれらのことは写真として残した。


年が明けたとき僕の体は自由に動かせなくなった──


自分の死期を悟るのは辛い。


この頃僕の周りでは遺産相続の話や結晶について話されていた。


どうやら僕は死後、国を発展するための素材となることが決まったらしい──


一応素材となることへの確認は来たけど最後は国のためになにかできるならと了承した 。

(…きっと僕がなんて答えても最終的に素材にするつもりだったんだろうな)


僕には数億の価値があるとされていたけどそれを相続する相手はいなかった。


僕の噂はまぁまぁ広がったこともあり──

もしかしたらどこかから聞きつけた母親が心配してお見舞いに1度くらい来るんじゃないかと少し期待したけどそんなことは無かった。


「死にたくないなぁ

まだやり残したことたくさんあるのに

夢だって叶えたかった…

エンジェと、親友ともっと話したかったし一緒に居たかったなぁ──。」



自分のこの世への未練を口にしていた時

言葉にならない激痛が体を襲う。


ついに結晶化が心臓に至ったのだと理解した。


「エンジェ…」


最期に唯一の親友との思い出を思い出しながら僕の人生は終わりを告げた──。








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