031 新商品
「アイリス、それはどういう料理なんだ?」
「俺も聞いたことないなぁ」
フリックスとペッパーマンは、私の閃いた料理を知らなかった。
ブルーム公国でも大して有名ではなかったので仕方ない。
「作り方は簡単ですので、付加価値という意味では微妙かもしれませんが!」
と言いつつ、さっそく作っていくことにした。
材料はジャガイモと食用油だけだ。
調味料は塩を使う。
「まずはジャガイモの皮を剥いて芽を取り除きます」
キッチンで説明しながら作業をしていく。
二人は「ふむ」や「ほぉ」と言いながら眺めている。
「次にこれをスライスします!」
スライサーでスイッスイッと薄切りにしていく。
「ジャガイモをスライスだと……?」
「アイリスちゃんの料理が全くイメージできないなぁ」
二人は興味津々といった様子。
「あとはスライスしたジャガイモを水にさらしたら、ザルに上げて水気を切り、乾燥させてから油で揚げます!」
簡単な作業なのでミスのしようがない。
「揚げ終わったら袋にでも入れて、そこに塩を足して振り振り! 振り振り!」
こうすることによって塩が全体に満遍なく広がる。
「これで【ポテトチップス】の完成です!」
完成したポテチを皿に盛って二人の前に出す。
「おー! 雰囲気がいいね!」
ペッパーマンがポテチに手を伸ばす。
フリックスも「これがポテトチップス……!」などと一枚摘まんだ。
二人はポテチを舌に乗せ、2秒ほど固まってからかじった。
まるで高級料理の味見でもしているかのようだ。
「イケるな、これ!」
ペッパーマンが声を弾ませる。
「うむ、サクサクした食感と程よい塩味がちょうどいい。ジャガイモの風味も感じられる」
フリックスも合格点を出した。
「美味しいですよね! しかも安くて簡単に作れるから、孤児院では流行っていたんですよー! ポテチ!」
私は上級者っぽく三枚まとめて食べた。
パリッパリッと小気味いい音を鳴らす。
「子供にはお菓子として、大人には酒のあてになるよ! 普通に全国レベルで売れると思うよアイリスちゃん!」
ペッパーマンが鼻息を荒くして言う。
「本当ですか!?」
「難点を上げるとすれば差別化か」とフリックス。
「差別化とか付加価値っていうのは難しいと思います! 一応、塩以外の調味料を足すことで味を変えることはできますけど……。例えば青のりとか」
「ま、その点は深く考えなくていいよアイリスちゃん! 今日は露店で売るわけだし!」
「そうですよね! 売れたらそれでOK!」
「それに、全国展開するならフリックスさんが本気を出すから!」
「本気って?」
と、私はフリックスを見る。
「余計なことを言うな、ペッパーマン」
フリックスは詳細を語らずにペッパーマンを睨んだ。
「おっと、失礼しました!」
「なんだかよく分かりませんが、とにかく問題ないようならポテチを売りましょう! ジャガイモ、ドーンと50箱ほど買いますよ!」
「50!? そんなに買って捌けるのかい!?」
ペッパーマンがギョッとする。
フリックスも「かなりの数だぞ」と不安げだ。
「大丈夫ですよ! 売れ残った分は町の人にプレゼントしますから! タダなら皆さん貰ってくれます!」
「おいおい、そんなことをしたら赤字じゃないか。損をするべきは仕入れる数を間違ったペッパーマンでアイリスではないよ」
フリックスの言葉に、ペッパーマンが「そうそう!」と頷く。
「分かっていませんねーフリックスさん!」
「なぬ?」
「タダで配れば別の機会にお返しがもらえるじゃないですか! 持ちつ持たれつの精神ですよ! 町の方々と仲良くする良い機会です!」
「そういうものなのか?」
フリックスがペッパーマンを見る。
「たぶん?」
と、ペッパーマンも自信なさげだ。
「フリックスさんだけじゃなくてペッパーマンさんまで何ですかその反応! お隣さんに作りすぎた料理をプレゼントとかしないんですか!?」
ライルと婚約する前、つまり庶民の暮らしをしていた頃は日常茶飯事だった。
この家で済むようになってからも、しばしば他の人と交流している。
お米を切らした時にアスパラガスと交換してもらったこともあった。
「いやぁ……ウチはそういうの、全部使用人に任せているから……」
ペッパーマンが頭を掻きながら話す。
「えー! ダメですよー! じゃあ今日、試しにポテチを持って行ってあげてください、お隣さんに! 絶対に喜んでくれますから!」
「わ、分かったよ」
私の勢いに圧倒されて、ペッパーマンは苦笑い。
そんな彼を見て、フリックスは愉快気に声を上げた。
「アイリスと一緒にいると本当に飽きないな」
「これからしに行くのは
「今日はやけに韻を踏むな……!」
「えへへ、そういう気分でして」
そんなわけで、私はペッパーマンから大量のジャガイモを購入。
フリックスと二人でポテチの露店を始めるのだった。
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